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表明保証条項における当事者の主観(「知る限り」「知り得る限り」)

表明保証条項とは? ~「知る限り」「知り得る限り」の利用シーン~

まず、表明保証条項とは、列挙された表明保証事項(そこに記載されている事実のことです。)が真実であることを保証する旨の条項です。

特に、M&A関連契約書の表明保証条項や知的財産権侵害に関する条項では、当事者が対象会社の情報収集・情報提供だけではカバーできない範囲の事実につき、買い手等にとって、望ましくない事実が存在する場合のリスクを手当てしておくために用いられます。

「表明保証条項と制約条項」の解説はこちら

以下、本記事では、主に株式譲渡契約を念頭において解説します。

表明保証の条文例(主観的要件の限定なし)

売主の対象会社の〇年〇月期の貸借対照表の作成基準日以降、対象会社の作為又は不作為を問わず、対象会社の事業、資産、負債、財務状態、経営成績、キャッシュフロー又は将来の収益計画に重大な悪影響を与える又はそのおそれのある事由又は事象は発生していない。

表明保証条項における当事者の主観

「知る限り」「知り得る限り」を記載する『理由』は?

一般的には、表明保証は、当事者の主観的事情によらず成立するものです。

しかし、例えば、株式譲渡契約をはじめとするM&A関連契約では、一般的に表明保証の内容は対象会社に関する広範な事項にわたります。

主に表明保証を行う売主側としても、時間的制約・情報共有の漏れ・将来的な可能性も含んでいたりと、常に自社の情報を隅々まで把握した状態で契約締結に至るとは限りません。そのため、売主としては契約時に知りようがなかった事実まで後に追求されることは避けたいと考えます。そういった場合に、契約当時「知る限り」又は「知りうる限り」において保証するといったように、表明保証する範囲に限定をかけるのです。

「知る限り」「知り得る限り」の『意義』は?

表明保証の範囲を売主が契約時点等に「知る限り」の事実に限定した場合、一般的には、売主に特段の調査義務等はなく、現に知っていたか否かが問題になります。

一方で、「知り得る限り」の範囲とした場合、売主が現に知っていた場合に加えて、一定の前提の下で知っておくべきであった事実も表明保証対象に含まれます

ここで、「知り得る限り」とは、実際にどのような前提で知っておくべきであった事実なのか(どの程度の調査義務の違反がある場合に、表明保証違反の責任を追うのか)が問題になります。これには、次の二つの考え方があります。

合理的な調査の履行を前提とする考え方

まず、「対象役員が合理的な調査を行えば知ることができた範囲」と定義することが考えられます。この場合、対象役員に一定の調査義務が事実上課され、その調査をすれば知り得た内容であれば、そこまでの範囲については保証してくださいねという意味になります。

逆にいえば、合理的に考えて行うであろう範囲の調査を適正に行ったうえで、なお認識できなかった事実関係については、仮に保証している事実関係と相違があっても、表明保証違反の責任は問われないということです。

この場合はさらに、「合理的な調査」の意義も問題となり得ます。「合理的な調査」の有無が保証範囲を画する重要な意味を持つにもかかわらず、「合理的な調査」の内容は曖昧であり、いかようにも解釈し得るためです。株式譲渡契約書の買主の立場からすると、この点をカバーするために、ある程度具体的な調査方法まで契約書に明記する方法があります。

具体例として、「対象会社の部長職以上の従業員に対して照会を行い、その回答を得た場合には、合理的な調査を行ったものと認められるものとする。」などと規定することが考えられます。

誠実な職務遂行を前提とする考え方

次に、「知り得る限り」を、「対象役員がその職務を誠実に遂行していれば知ることができた範囲」とする考え方もあります。こちらは、より日本語の語感に近いですが、対象役員が通常の職務を行っていれば、その過程で知ることができた事実であれば保証してくださいねという意味になります。

逆に、通常の職務遂行の過程で知り得ないような事実については、あえて調査義務を課されることはないということを意味します。

以下では、上記の意義を踏まえて、「知る限り」「知り得る限り」がそれぞれどのような観点から規定されるかみていきたいと思います。


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「知る限り」「知り得る限り」の規定場面はどう区別される?

表明保証条項の機能として、情報の非対称性の解消というものがあります。すなわち、対象会社に関する情報は通常売主側に偏在しているので、売主が対象会社に関する事実について一定の表明保証をすることによって、買主が安心して買収できるようになるということです。

かかる表明保証の機能との関係で考えると、売主がすでに有している情報について表明保証がなされれば、情報の非対称性の解消という機能は果たせますので、「知る限り」の限定が合理的ということになりそうです。

一方で、表明保証条項には、売主・買主間での適正なリスク分配という機能もあります。この機能から考えた場合、単に売主側が「知っていた」事情に保証範囲を限定するのでは、買主側のリスク負担が大きすぎる場合があります。そのような場合、買主側により広い範囲で権利行使の機会を与えるとともに、売主側に事実上の調査義務を課す工夫が必要です。

そこで、このような判断を踏まえて、「知り得る限り」という規定がなされます。

『誰の主観か?』による限定

次に、特に売主にとっては、表明保証の主観的要件を入れる場合には、誰にとって「知る限り」「知り得る限り」かも意識するとよいでしょう。

単に「売主」と規定しても、売主は法人であるため、売主側の誰が知っていたないし知り得た事情なのかで保証範囲が変わってくるためです。

表明保証事項にもよりますが、規定の仕方としては、個人単位で特定する場合もあれば、一定のグループ(一定の職位以上の従業員または役員、プロジェクトメンバー)に属する者という形で特定・限定することも考えられます。

裁判例の傾向

近似の裁判例においては、表明保証条項に明記されていない要件を、事案から実質的に考えて考慮に入れるものがあります。

契約書において「買主」の主観的要件が明確に定められていない場合においても、実質的に考えて「買主の主観」を加味した裁判例として、東京地判H23.4.15金融法務2021号71頁があります。同裁判例では、表明保証条項の趣旨から考えて、財務諸表の作成基準日以降に生じた事由で売主側が保証するのは、買主が認識し得ないものに限られるとして、表明保証の範囲を限定的に解釈しました。

他にも、契約書に明記がなくても、表明保証の内容を限定的に解したと考えられる裁判例として、「重大な」相違や誤りがないことを保証したものと認定した裁判例(東京地判H19.7.26判タ1268号192頁)もあります。

レビューにおけるポイント

売主が行う修正例

売主の[知る限り][知り得る限り]対象会社の〇年〇月期の貸借対照表の作成基準日以降、対象会社の作為又は不作為を問わず、対象会社の事業、資産、負債、財務状態、経営成績、キャッシュフロー又は将来の収益計画に重大な悪影響を与える又はそのおそれのある事由又は事象は発生していない。

ポイント(売主の立場から)

(当事者の主観的要件)「知る限り」「知り得る限り」など当事者の主観による責任の限定はなされているか?

(問題となる主体)主観的要件の主体による限定はできないか?


執筆者:伊藤竜之介
編集・監修:仲沢勇人(GVA法律事務所/第二東京弁護士会所属)

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