知的財産権帰属条項は、主として業務委託契約において委託者が成果物の利用のためにその知的財産権を自社に帰属させるための条項です。
権利帰属が決まるという点でビジネスへの影響が大きいことから、極めて重要度の高い条項です。すなわち、自社に知的財産権があるかどうかによって、いまのビジネスを続けられるかどうか、今後そのビジネスを広く展開できるかどうかなどが変わってくるからです。
委託者としては自社に権利を帰属させたいと考えるでしょうし、受託者としては自社に権利をとどめたいと考えるかもしれません。仮に受託者が自社に権利を留めたいのであれば共同研究開発契約などを選択するほうが望ましいかもしれませんし、逆に日銭を稼ぐ目的である場合には権利を手放す選択をせざるを得ないかもしれません。
目次
条文例
第○条(知的財産権等の帰属)
本業務の遂行の過程で得られた発明、考案、意匠、著作物その他成果物に関する特許、実用新案登録、意匠登録を受ける権利その他登録を受ける権利及び特許権、実用新案権、意匠権、著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の知的財産権は、その発生と同時に、すべて委託者に帰属する。2 受託者は本業務の遂行の過程で得られた著作物に関する著作者人格権を行使しない。
要件
本業務の遂行の過程で成果物が生じること。
効果
受託者から委託者への知的財産権の移転(その結果としての成果物の自由な利用)。
知的財産権の帰属方法について
「特許を受ける権利」(通称「出願権」)は、発明という事実行為によって発明者である自然人に原始的に帰属します(特許法29条1項)。
多くの場合は受託会社の従業員が発明を行い、その発明について特許を受ける権利が受託会社に帰属します(職務発明/特許法35条3項参照)。したがって、業務委託契約などでは、発明を行う受託者が原始的に特許を受ける権利を取得するので、委託者としては、それを発生と同時に自社に移転させる方法をとることになります(特許法33条1項参照)。特許だけではなく実用新案や意匠などのケースについても同様です。
また、特許権は、設定登録により発生し、出願者に帰属します(特許法66条1項)。ゆえに、受託者が出願した場合を想定して、特許権についても登録による発生とともに自社に移転させる方法をとることになります。特許だけではなく実用新案や意匠などについても同様です。
また、著作権については「無方式主義」といって権利の発生に登録が不要なので(著作権法17条2項)、特許を受ける権利などと同様に創作による発生と同時に委託者に移転させる方法をとることになります。
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特掲要件の充足方法について
著作権は原則として譲渡することができます(著作権法61条1項)。しかし、単に「著作権はすべて委託者に帰属する」、「著作権は委託者に移転する」とだけ書いても、翻訳権・翻案権(著作権法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法28条)の2種類の権利については、特にそれらが契約条項中に掲げられていなければ必ずしも移転した扱いになりません(著作権法61条2項参照)。
したがって、これら2種類の権利について移転させるためには「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)」などと記載する必要があります。
知的財産権以外の権利処理―著作者人格権不行使特約
私たちが何かを創作したときに「著作者としての権利」が発生します。この「著作者としての権利」の中には、財産権である「著作権」とは別に、人格権である「著作者人格権」という権利があります。
著作権は、創作した作品などを市場に流通する財として捉え、それによってクリエイターに生計の手段を与えるものでした。まさにコピーをコントロールする権利、「この作品は自分の飯のタネだ、カネを払わなきゃ使わせないぞ!」であったわけです (copyright)。
これに対して、著作者人格権は、「創作した作品は自分の気持ちの表現なのだ、だから他人に自由にさせてなるものか!」という考え方から来ています (author’s right)。それなので、著作者人格権は、創作者本人だけのものであり、他者に譲渡することはできません(著作権法59条)。
それでは、契約条項の中で著作者人格権を扱うときは、いったいどうなるのでしょうか?
知的財産権は「財産権」です。これに対して、前述のように、著作者人格権は「人格権」であって「財産権」ではありません。したがって、著作者人格権は「知的財産権」に含まれません。これは、「知的財産権」の例示的列挙の仕方を見ても明らかです(知的財産基本法2条2項参照)。
そうすると、契約条項では別途の処理が必要になってきます。そもそも著作者人格権は譲渡不可能の一身専属的な人格権なのですから(著作権法59条)、単純に「著作権及び著作者人格権は委託者に帰属する」と書いても無効になってしまいます。それなので、契約条項では著作者人格権を行使しない旨を規定する必要があるのです。
たとえば、「受託者は成果物に関する著作者人格権を行使しないものとする。」との記載が考えられます。要するに、作品などの経済的利用についての「許諾」をもらうことに加えて、創作者の意向に沿うような利用の仕方であるとの「承諾」をもらう必要があるわけです。
もっとも、いまだ著作者人格権不行使特約の有効性に関する確定的な司法の判断はなく、ケースによっては無効とされるおそれも払拭できません。
レビューにおけるポイント
第○条(知的財産権等の帰属)
本業務の遂行の過程で得られた発明、考案、意匠、著作物その他成果物に関する特許、実用新案登録、意匠登録を受ける権利その他登録を受ける権利及び特許権、実用新案権、意匠権、著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)その他の知的財産権は、その発生と同時に、すべて委託者に帰属する。
2 受託者は本業務の遂行の過程で得られた著作物に関する著作者人格権を行使しない。
(対象範囲)どの範囲の権利を自社に帰属させるか。
(帰属時期)権利の発生と同時に帰属させるか。
(特掲要件)著作権法27条(翻訳権・翻案権)と28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)が含まれることを明示しているか。
(知財権以外の処理)著作者人格権不行使特約が入っているか。
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条項解説記事一覧
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