秘密保持条項契約条項の趣旨この契約条項は、ビジネスの遂行にあたって第三者に知られたくない情報を、その取引の当事者だけの機密として守るための条項です。
比較的どのような契約書にも入っている一般的な条項です。たとえば、業務委託契約などでは、委託者は受託者に適切な業務を遂行してもらうために自社の情報を提供することが必要となりますが、このような場合に外部にそれが漏洩しないようにするための手当として規定されます。ビジネスによっては特許権の取得の可否などに影響するため、取引の際に情報を提供する側にとっては極めて重要性の高い条項であるといえます。
目次
条文例
第○条(秘密保持義務)
1 委託者及び受託者は、本契約に関連して双方が開示する営業上又は技術上その他一切の情報のうち、相手方に対して秘密である旨明示して開示した情報及びその性質に鑑みて通常秘密として取り扱われるべき情報(以下「秘密情報」という。)を厳重に保管及び管理するものとする。ただし、次の各号の一に該当する情報については秘密情報に含まれない。
(1) 開示を受ける前に公知であったもの
(2) 開示を受けた後に自己の責に帰すべき事由によることなく公知となったもの
(3) 開示を受ける前に既に自ら保有していたもの
(4) 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに入手したもの
(5) 開示を受けた情報によることなく独自に開発したもの2 委託者及び受託者は、相手方の書面による事前の承諾なく、秘密情報を第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし、法令により開示義務を負うとき又は法律上権限ある公的機関により開示を命じられたときは、必要な範囲内に限り、開示することができるものとする。この場合、秘密情報を開示しようとする者は、事前に相手方に通知しなければならない。
3 委託者及び受託者は、秘密情報について、本契約の目的の範囲でのみ使用するものとし、本契約の目的の範囲を超える複製又は改変が必要なときは、あらかじめ相手方から書面により承諾を得なければならない。
4 委託者及び受託者は、本契約が終了したとき又は相手方から要求があったときは、相手方の指示に従い、秘密情報の返還又は破棄その他の措置を講ずるものとする。
違反の要件
- 秘密情報であること。
- 秘密情報の漏洩、目的外使用、不返還など。
違反の効果・事実上の影響
- 契約違反の一般的な法的効果(解除、損害賠償など)。
- 同業他社への情報流出。
- 社会的信用の低下。
- その技術の新規性喪失(その結果としての特許登録の不能など)。
秘密保持条項の構造設計
秘密保持条項では、大まかに次のことをやります。
- 秘密にしたい情報の範囲を定める。
- 秘密が守られるように情報受領者の行動に制約をかける。
- 秘密が保持されるような情報の処分をの仕方を定める。
秘密保持条項の中核的な柱は、上の2の部分です。つまり、秘密を秘密として守るためにいかにして情報受領者の行動に制約をかけるかが問題となります。
考え方としては、秘密情報の受領者の視点に立って、「受領者が他人に使わせる場合」と「受領者が自分自身で使う場合」とに切り分けてそれぞれ禁止を義務付ける方法をとっていくことになります。具体的には、前者が「第三者への開示禁止」、後者が「目的外使用の禁止」の規定文言です。
秘密情報の範囲
まず、秘密にしたい情報の範囲を定めることについて考えてみます。「秘密情報」の範囲は、次の2通りの限定の仕方があります。
- 内容による限定
- 方法による限定
このうち、秘密情報の内容に一応の限定をかける場合には、たとえば、「営業上又は技術上の情報」などと記載するか、あるいはより限定する場合には、具体的にその範囲を特定できるような書き方をします。
- 「営業上の情報」としては、製品ごとの利益や原価、受注数の情報、顧客情報、販売マニュアルなどが想定されます。
- 「技術上の情報」としては、製品に関する仕様書、設計図面、成分表、製造方法、実験レポートなどが想定されます。
なお、「(営業上又は技術上の情報を除いた)その他の情報」に何が入るのか実際のところ不明瞭ですが、「秘密情報」の範囲に限定をかけたくない場合には、無用な争いをできる限り防止する趣旨で書かれることが多いと思われます。たとえば、「その他一切の情報」などと限定がかからないことを明示的に記載しておきます。
方法による限定としては、たとえば、「秘密である旨を明示した情報」などと書きます。具体的には、提供する書面などに「秘密」や「マル秘」といった記載をしたり、「※機密:この書面に記載された内容につき、第三者への開示又は漏洩を禁じます。」などと秘密である旨の一文を入れたりすることが考えられます。
なお、確認的に、複製物も秘密情報に含む旨の規定を入れておくこともあります。
【PR】契約書レビュー業務の効率化を実現する、
AI契約審査クラウド
GVA assist
秘密情報の適用除外
秘密情報から除外される内容として記載されるのは基本的に次の5つです。これらが記載されているかどうかを確認することになります。
- 開示を受ける前に公知であったもの
- 開示を受けた後に自己の責に帰すべき事由によることなく公知となったもの
- 開示を受ける前に既に自ら保有していたもの
- 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに入手したもの
- 開示を受けた情報によることなく独自に開発したもの
秘密保持条項の柱その1:秘密情報の第三者への開示禁止
「秘密情報」の範囲を画定した上で、「秘密情報を第三者に開示又は漏洩してはならない。」などと秘密保持義務の本体となる原則を記載します。
ここにいう「第三者」につき、企業の場合には法的に厳密に言えば役員や従業員も含むはずですが、それらの者への開示ができる趣旨の記載がないときは、合理的意思解釈上、役員や従業員は実質的に「第三者」にあたらないと考えることになります。
本来的には、「受領者は、受領者の役員及び従業員に対し、秘密情報を本目的のために必要な限度で開示することができる。」などと、開示可能な人的範囲を明記しておきたいところです。
ここで、例外的に開示する場合には「書面による事前の承諾」という形で手続を設定することが考えられるところです。また、相手方の承諾以外で開示しなければならない場面として、法的根拠をもって公的機関から開示を求められるケースがありえます。
この場合には、秘密情報の開示は基本的に避けられませんので、あらかじめ契約条項中にその場合について例外として規定しておく手当をしておきます。もっとも、念のため「必要な範囲内に限り」といったように開示範囲を可能な限り限定しておくほうが望ましいといえます。
また、事前の承諾とは言わないまでも事前の通知を求めるということは考えられるところです。たとえば、「この場合、秘密情報を開示しようとする者は、事前に相手方に通知しなければならない。」などと追記しておくことが考えられます。
秘密保持条項の柱その2:秘密情報の目的外使用の禁止
「第三者への開示禁止」と並ぶ秘密保持条項の中核です。第三者への開示を禁止したとしても、基本的に、受領者が秘密情報につき目的外で使用することは原則として自由になってしまいます。
そこで、契約条項中では「秘密情報について、本契約の目的の範囲でのみ使用する。」などと規定しておきます。
秘密情報の廃棄(破棄)または返還
契約終了の際などにおいて、紙の資料やサンプルなど返還可能なものについては返還させ、電子データなど返還不可能なものについては廃棄(破棄)を義務付けることになります。
秘密情報の「返還」とは、書面やサンプルなどの物理的実体を伴う資料の提供があったときに、それを提供者に現実に返却することです。他方で、秘密情報の「廃棄(破棄)」とは、記録媒体から電子データを完全に消去し、あるいは記録媒体ごとスクラップにかけるなどすることです。
また、より慎重に返還させ、あるいは廃棄を行わせる事実上の効果を狙って、「返還証明書」や「廃棄証明書(破棄証明書)」を求める旨の規定を置くことも考えられます。
レビューにおけるポイント
第○条(秘密保持義務)
1 委託者及び受託者は、本契約に関連して双方が開示する営業上又は技術上その他一切の情報のうち、相手方に対して秘密である旨明示して開示した情報及びその性質に鑑みて通常秘密として取り扱われるべき情報(以下「秘密情報」という。)を厳重に保管及び管理するものとする。ただし、次の各号の一に該当する情報については秘密情報に含まれない。
(1) 開示を受ける前に公知であったもの
(2) 開示を受けた後に自己の責に帰すべき事由によることなく公知となったもの
(3) 開示を受ける前に既に自ら保有していたもの
(4) 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに入手したもの
(5) 開示を受けた情報によることなく独自に開発したもの2 委託者及び受託者は、相手方の書面による事前の承諾なく、秘密情報を第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし、法令により開示義務を負うとき又は法律上権限ある公的機関により開示を命じられたときは、必要な範囲内に限り、開示することができるものとする。この場合、秘密情報を開示しようとする者は、事前に相手方に通知しなければならない。
3 委託者及び受託者は、秘密情報について、本契約の目的の範囲でのみ使用するものとし、本契約の目的の範囲を超える複製又は改変が必要なときは、あらかじめ相手方から書面により承諾を得なければならない。
4 委託者及び受託者は、本契約が終了したとき又は相手方から要求があったときは、相手方の指示に従い、秘密情報の返還又は破棄その他の措置を講ずるものとする。
ポイントは次の3点です。
- (対象範囲)秘密情報の範囲はどこまでか。
- (規定の有無)「第三者への開示禁止」と「目的外使用の禁止」の各規定が入っているか。
- (例外処理)例外的に開示する場合に必要最小限の開示範囲となるように規定しているか。
的確な契約書レビューをもっと効率的に
昨今、こうした契約書の定型的なチェック事項を、より早く、より正確に検知・修正する手段として、AI契約レビューツールが注目されています。
弊社のAI契約レビューツール GVA assist(ジーヴァ アシスト)は、我々提供者側が作成した基準だけでなく、「自社の契約書審査基準」をセットし、レビュー時に活用することができます。
例えば、上記の「条文例」を自社標準ひな型としてセットしておくことで、レビュー時に条文が不足していればすぐに契約書に差し込めるようになり、リサーチにかかる時間を省略できます。
他にも、「リスクワード」「チェックポイント」「論点の考え方」といった情報を GVA assist にセットすることで、契約書上のリスク発見、条文の受け入れ可否検討、法務としての見解などの「基準」を、他の法務担当者とWord上で共有し、共通のナレッジを基に契約書レビューができるようになります。
GVA assist を使うことで、法務担当者間での基準のばらつきをなくし、契約書レビュー業務のスピード向上と品質アップを実現できます。ぜひ一度、GVA assist の機能紹介ページもご覧ください。
条項解説記事一覧
- 基本契約と個別契約について
- 子会社と関連会社と関係会社とグループ会社の違い
- 解除条項(催告解除・無催告解除)
- 中途解約条項(解約権留保特約)
- 権利義務譲渡禁止条項
- 製造物責任
- 危険負担
- 報告義務条項
- 損害賠償条項(損害範囲の拡張・限定)
- 再委託禁止条項(再委託の可否・条件)
- 支払条項(取引対価の支払方法を定める旨の条項)
- 有効期間条項と自動更新条項(契約期間に関する条項)
- 期限の利益喪失条項
- 知的財産と知的財産権
- 知的財産権帰属条項
- 表明保証条項と誓約条項
- 表明保証条項における当事者の主観(「知る限り」「知り得る限り」)
- 秘密保持条項
- 反社会的勢力排除条項(暴力団排除条項)
- 管轄条項(第一審の専属的合意管轄裁判所を定める旨の条項)
- 準拠法条項
- 国際仲裁・調停
- 競業避止/禁止条項
- 競業避止/禁止条項(取締役・従業員等に対するケース)
- 契約不適合責任
- 売買契約における契約不適合責任