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弁護士から学ぶ、書き手と読み手の「ため息」を減らす文章の書き方(後編)

企業では、日々、膨大な量の文章が作成されています。特に、法務担当者は、複雑な内容や大量の情報を分かりやすく伝えることに苦心されているのではないでしょうか。

しかし、分かりやすく説得的な文章の書き方を体系的に学ぶ機会はそう多くありません。そのため、
・上司や他部署から「分かりづらい」と言われたが、どのように直せばいいか分からない。
・上司として部下に、どのように指導すれば良い文章が書けるようになるか分からない。
・話せば伝わるのに、書いた文章だと納得してもらえない。
といった書き手特有のストレスや悩みを抱えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。

また、読み手にとっても、分かりづらい文章を読むことは少なからず苦痛を伴います。

そこで、大学で法的な文章の書き方の授業も担当されている、鳥飼総合法律事務所の山田 重則弁護士にご登壇いただき、「書き手と読み手の“ため息”を減らす文章の書き方」をランチタイムセミナーで解説していただきました。

ここでは当日のセミナーの模様を前編・後編にわけてお届けします。

前編はこちら


山田 重則 弁護士
鳥飼総合法律事務所

一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税や固定資産税といった税務のほか、企業等に対する幅広い業務を行う。
相続や後見に関する公益活動や法学部生向けの法的な文章の書き方に関する授業も受け持つ。


必要性と許容性の視点で考える

第3「説得力のある文章」を書く

続いて、説得力のある文章を書くというところに移っていきたいと思います。

相手を説得するには内容を理解してもらう必要があります。となると、大前提として「伝わる文章である」ことが最低限の条件になります。すでにお話しした「伝わる文章である」ためのポイントについてはきちんと満たしていることが求められます。

その上で、ただ伝わるだけでは納得してもらえませんので、説得的な理由付けが必要です。

ただ、理由付けはなかなか思いつくのが難しいケースがあります。文章力向上について書かれた本を読むと「理由付けは3つ挙げましょう」などと書かれていますが、1つしか思いつかないということはよくあると思います。

そこで、理由付けを考える際に考えるべき「視点」をいくつかお伝えします。

【理由付けを考える際の視点】
1:必要性と許容性の視点
2:形式論と実質論

1:必要性と許容性

必要性とは、そのような結論を取る必要があること。その結論を取る必要性や、その結論を取らないことで生じる不都合性を示すという視点です。

許容性の視点とは「そのような結論をとることが許容されること」という視点です。その結論を取ることで生じ得る問題を想定した上で、その問題は生じないこと、あるいは、このような手当や対応策があると説明することが許容性の視点になります。

法務部の皆様は、この許容性の視点を日頃から活用されているでしょう。ビジネスとしては非常に面白そうではあるものの、法的に許容できるのかという視点です。この視点が「許容性の視点」とご理解いただくと体系的な理解に資するかと思います。

必要性と許容性の視点のポイント

必要性の視点は、入れないことはまずないんですね。他方で許容性の視点は書かれていないこともあります。しかし、相手の反論や疑問を踏まえた許容性の視点まで提示できると、説得的な文章が書けます。また、この許容性の視点から自分の寄って立つ立場について考えることで、相手ならどういう反論をしてくるか、どういう点に疑問を持つかという部分を自然と想像することができます。

ですので、そういった疑問や、反論に答えるような形で許容性の観点から理由付けをすると、最初から説得力のある文章にできます。相手が抱くであろう疑問に最初から答えてあげることがポイントになります。

形式論と実質論で考える

2:形式論と実質論

形式論の視点とは、法律や規則、基準など、何らかのルールを形式的に適用する立場です。

法律や規則、基準に照らしてそのまま適用するような結論になるので、他の事案との公平性も図られるところが大きなメリットです。ルール通りにとなりますので、形式論は強いということになります

一方、実質論の視点とはそのようなルールから離れて、実質的に妥当かどうか結論を追求する立場です。ルールではそうなっていると言われたところで、結論が妥当でなければ相手を説得することができません。なので、実質的にも妥当な結論かどうかは、非常に重要な視点になりますし、相手を説得する上でとても大事なポイントです。

形式論と実質論は対立することが多いので、もしかすると、どちらか一方の立場からしか書けないというケースがあるかもしれません。ただ、形式的にも、実質的にも妥当であると示せるのであれば、両方の視点から書いてあげることがとても重要です。形式的にも妥当だし、実質的にも妥当だと示されれば反論する余地はありません。

例えばある公園では、「ボール遊びはしてはいけません」というルールがある、という形式論があります。通常、多くの場合はここで終わってしまうと思います。管理規定で禁止されているのでダメなんですと書いて終わりでしょう。

しかし、それを読んだ読み手は「そんな型通りのことでいいのか」と思います。この公園ならば危なくないのでは等、実質的にはおかしいのではないか、という疑問や反論が浮かぶ可能性があります。

なので、その部分については実質論で補足します。たとえば、この公園は多くのランナーが利用していて、かつ海にも面している、ボールを投げたらその風に乗ってランナーに当たってしまうかもしれない、現にそういう事故も起きている。「だから、この公園ではボール遊びは禁止されているんだ」と実質論にまで踏み込んで書いてあげたら、相手は納得するしかありません。

もし書けるのであれば、両方の視点を入れることで説得的な文章を書くことができます。では、この必要性と許容性、形式論と実質論の視点から、「テレワーク導入の是非」を例に、最終確認をしてみましょう。

Aさんが「テレワークするためにノート型パソコンに買い替えるべきだ」と言いました。
Bさんは「当社の事業内容はテレワークには不向きだ」と言っています。
Cさんは「ノート型パソコンはメモリーの容量が小さくて動画が動かないという問題がある」と言っています。

こういう話になったとき、それぞれの主張がどの観点からなされているのかを考えると、非常に反論がしやすくなります。

Bさんの意見に対してAさんは、「同業の会社ではテレワークの導入が進み、売り上げが3倍になった」「だからテレワークを導入する必要があると考え、パソコンは持ち運べる必要がある」と、必要性の観点から反論することになります。

Cさんの意見に対してAさんは、「メモリーの負担が少ない動画再生ソフトを合わせて導入するのでそういった懸念はありません」と、許容性の観点から反論をすることになります。

このように、各意見がどの視点からなされたものかを考えてみると、的確な反論ができるということになります。

何をお伝えしたいのかというと、必要性と許容性そして形式論と実質論という視点を持っていると、スキのない主張をすることができます。決済を上げるとか、企画を立てるとか、誰かを説得するとか、そういうときには、必ずこの視点が活きてくると思います。

この視点に照らして、他にもっと言えることないかと考えていただくと、これも言えるなという主張を思いつくことができると思います。

文章を書いていてなかなか理由付けが思いつかないとお悩みの際は、

  • 必要性と許容性から他に言えることはないか
  • 形式論と実質論から他に言えることはないか

と考えてみてください。

まとめ

最後に、本セミナーの内容を目次に沿って改めて振り返ってみましょう。

第1 文章を書く際の心構え

1 上手な文章がもたらす効果

上手な文章を書けると組織にとってもその人本人にとっても良い効果があります。時間を取って学ぶ価値があります。

2 文章にまつわる「誤解」

文章についてはさまざまな誤解があります。そのため、文章に着目している方が非常に少ないのが現状だと思います。となると、文章をうまく書けるということは、他の人と差をつけることができるポイントになります。

文章をうまく書くことができる、説得的なわかりやすい文章を書くことができるというのはひとつの能力ですので、非常に重宝されるでしょう。なので、やはり学ぶべき価値があります。

第2 「伝わる文章」を書く

7つのポイントに分けてどういう文章であれば、読み手にとって負担が少なく、分かりやすく、ストレスを与えない文章が書けるのかという内容です。ぜひこの7つのポイントに沿って普段書かれる文章を改めて見てみると、より良い文章を書けるようになるでしょう。

第3 「説得力のある文章」を書く

必要性と許容性、形式論と実質論という視点からもっと言えることはないか、もっと説得的な文章にすることはできないかという内容です。

本セミナーの内容を踏まえて皆さんの文章の力が向上すると、組織にとっても書いている方にとっても大きなメリットがあります。ぜひ参考にしてみていただければと思います。

参加者からの質問と講師からの回答

本セミナー終了後、参加者から講師に多くの質問が寄せられました。

ここでは一部を抜粋してお届けします。


Q1:段落分けをする際に気を付けている基準などがあれば、お教えいただければ幸いです。ちょっと抽象度が高いですが、こちら先生いかがでしょう。

A.非常に鋭いご質問ですね。

今日は時間の関係で、段落分けについて細かくお話ができなかったのですが、ここに問題意識を持たれているというのは、素晴らしいことだと思います。

私も段落分け、非常に悩むことがあります。ただ、なかなか明確な答えはないかもしれませんが、少し文章が長くなってきたなと思えば段落分けをしているということがまずひとつ挙げられます。

2つ目としては、先ほど接続詞のところでお話をしましたが、まず、次に、そして、最後に、というものを挙げました。私は、接続詞を使うときには必ず段落分けをしています。まず、というところで、1段落、次に、というところで、1段落。あるいは、Aであると、しかし、Bであるという、このときもAの立場についてまずひとつの段落で書き、しかしという形で段落を変えて、他方の立場を書くということをしています。

これは、一方ではこう、他方ではこうという接続詞を使う時も同じです。なので、この接続詞を使うときは、話の変わり目と言えると思いますので、接続詞を使ったら段落分けをするということが基準として挙げられるかなと思います。ありがとうございます。


Q2:専門用語をなるべく使わないという点について、気を付けている点があればお伺いしたいです。自分では専門用語ではないと思っていたが、一般的な専門用語である場合などがあると思い、どのような読み方で気を付けることができるか知りたいと思います。

A.今日は中学生にもわかるような文章を書きましょうということをお話をさせていただきました。

普段、新聞を読まれていると、これは本当に感覚的なお話になってしまうのですが、こういう言葉は一般の文章、一般の方、一般の読み手が読むような文章でも使われているんだという感触はあると思います。

なので、なかなか明快な答えではないのですが、この言葉は新聞に出てきても違和感がないかなとか、もし自分の畑違いの友達が読んだらすぐにわかるかなというふうに想像してみて使っているところがあります。

あとは、保守的に、安全側の思考だと思うんですが、もしかしたらこの言葉は伝わらないかなと思ったら、言い換えるということはしています。

おそらくこれって専門用語かなと思うということは、伝わらない可能性を少し感じられているということだと思いますので、その文章がもし重要な文章である、上の方が読むような重要な文章であるのであれば、保守的に分かりやすい言葉に言い替えておくこととか、専門用語としては使うんだけれども、その内容について、噛み砕いた内容も注につけてあげるとか、そういう配慮をしていただくとよろしいかと思います。


Q3:端的な短い文章で答えるとドライな感じがすると批判を受けたことがあります。具体的事例によって異なると思いますが、当該批判に対して、どう対応すべきだと思われますか。

A.スパッと言ってしまうということですよね。

ただ、スパッと言ってしまったら、相手が気分を少し害するかも、私もメールとかであるんですけども、スパッと言ってしまうと、ちょっと気分を害されるかもしれないなっていう時は、少し表現を丸めたり、説明を補足したり、あるいは口頭で後から説明を足すとかですね。

これも本当に鋭いご質問だなと思います。ちょっと悩ましいとは確かに思いますね。


Q4:文章力はどのように鍛える、養うのでしょうか。

A.私は大学で講義をしているのですが、とてもよく書ける学生がいるんです。ある日、もし10日間暇だったら何をしますかという課題を出したら、その子は「図書館に行って借りられるだけ本を借りてひたすら読む」と言っていました。

文章力はやはり読んだ量に比例していくんじゃないかなということはあります。その上で、今日お伝えしたポイントに沿って書いていただくと、きっと良い文章が書けると思います。


最後まで、本当にご清聴いただきありがとうございました。

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