企業では、日々、膨大な量の文章が作成されています。特に、法務担当者は、複雑な内容や大量の情報を分かりやすく伝えることに苦心されているのではないでしょうか。
しかし、分かりやすく説得的な文章の書き方を体系的に学ぶ機会はそう多くありません。そのため、
・上司や他部署から「分かりづらい」と言われたが、どのように直せばいいか分からない。
・上司として部下に、どのように指導すれば良い文章が書けるようになるか分からない。
・話せば伝わるのに、書いた文章だと納得してもらえない。
といった書き手特有のストレスや悩みを抱えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
また、読み手にとっても、分かりづらい文章を読むことは少なからず苦痛を伴います。
そこで、大学で法的な文章の書き方の授業も担当されている、鳥飼総合法律事務所の山田 重則弁護士にご登壇いただき、「書き手と読み手の“ため息”を減らす文章の書き方」をランチタイムセミナーで解説していただきました。
ここでは当日のセミナーの模様を前編・後編にわけてお届けします。
山田 重則 弁護士
鳥飼総合法律事務所
一橋大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。
印紙税や固定資産税といった税務のほか、企業等に対する幅広い業務を行う。
相続や後見に関する公益活動や法学部生向けの法的な文章の書き方に関する授業も受け持つ。
目次
課税庁とのやり取りから得た「気づき」
本セミナー冒頭では、講師の山田弁護士が文章の書き方についてなぜ問題意識を持つようになったか、についてから説明がなされました。
山田弁護士が所属している鳥飼総合法事務所は、主に税務の分野で高く評価されている事務所です。山田弁護士は印紙税と固定資産税という2つの税目を主に担当しているとのこと。課税庁は一般的には容易には納税者の見解を認めないため、どうしたら文章で読み手を説得することができるのか考えるようになったそうです。
文章の書き方に関する文献を集中的に読むことで、こうすれば相手に届くのではないか、相手を説得できるのではないか、という知見を山田先生は得ていきます。
こうした知見を得てからは、以前よりも相手に伝わる実感が出ただけでなく、仕事の成果も目に見える形で上がっていく実感があったそうです。
今回のセミナーではその知見をもとに、文章の書き方の解説がなされていきます。
セミナー内容紹介
本セミナーは大きく分けて3つのパートで構成されています。
第1:文章を書く際の心構え
第2:「伝わる文章」を書く
第3:「説得力のある文章」を書く
第1「文章を書く際の心構え」では、上手な文章が書けると誰にどのような良い効果があるのかがわかります。また、文章に無頓着な方が多い理由についても、文書にまつわる誤解を通じて読み解いていきます、
第2「『伝わる文章』を書く」では、どうすれば伝わる文章が書けるのかについて、7つのポイントに分けて解説されます。
ポイント1:形式面を整える
ポイント2:冒頭で要点、結論を端的に示す
ポイント3:短く書く
ポイント4:平易な文章で書く
ポイント5:接続詞で論理関係を示す
ポイント6:具体例や図表を使って説明する
ポイント7:読み手の立場で推敲する
第3「『説得力のある文章』を書く」では、相手を説得するための文章の書き方についてわかります。相手を説得するためには、説得的な理由付けが必要になりますが、この理由付けを思いつかないケースもあるかと思います。そこで、理由付けを考えるための視点について解説されます。
上手な文章がもたらす効果
文章が上達するとどのような効果があるのでしょうか?
仕事が効率的に進む
まず、仕事が効率的に進むということが挙げられます。
ビジネスは、正確な伝達、無駄のない伝達、核心をついた説得で回っていきます。
- 「実はそういう話ではなかった」ということが後からわかる、不正確な伝達。
- 文書やメールで伝えたけれども、その内容ではよくわからない無駄な伝達。
- 核心をついておらず、あやふやな説得。
これではビジネスは止まってしまいます。
新企画の話が立ち上がっているけれども、根拠が薄弱でそのまま決定して良いものかどうか悩んでしまうようなことも実際にあるでしょう。これらの状況を変えるのが「上手な文章」です。
組織全体の負担が減る
上手な文章を書く社員が増えることで、組織全体の業務負担が減ります。短く平易な文章は、読み手の負担を減らし、読み手の集合体である組織全体の負担を減らすことができます。
逆の状況を想像してみましょう。難解な文章、あるいは長い文章は読むだけで苦労します。反対に、短く簡単な文章で、次はこれが問題になる、次はこういうアクションを取る必要があるということが端的に書いてあれば、すぐにその行動に移ることができます。
したがって、上手な文章が書けて、その文章を理解することが簡単である、ということは、ビジネスを円滑に回していくことにも寄与する、非常に重要なポイントです。
書き手の評価につながる
文章は仕事の成果物です。文章が仕事の成果物だとすると、その成果物によってその人自身の評価が変わってしまいます。仕事の巧拙、営業の巧拙もあるかもしれませんが、同じぐらい成果を伝達するツールである文章の巧拙が、その人の評価を左右します。
このように、文章はビジネスにおいて非常に重要なものであるにも関わらず、文章に着目して学ぶ人は多くありません。それではなぜ文章に着目をされないのか、「誤解」というワードから読み解いていきたいと思います。
文章にまつわる「誤解」
「書き手が書きたいことを書けばいい」
まず、書き手が書きたいことを書けばいい、というような「誤解」があります。
文章を書くのは書き手なので、「書き手が書きたいことを書けばいい」という言い分です。しかし、文章が何のために存在するかというと、「読み手に読んでもらい判断をしてもらうため」「アクションしてもらうため」にあります。
したがって、読み手がどのような前提知識を持っていて、どういうことに関心があるのかを踏まえて書かないと、文章としての価値はありません。あくまでも読み手の立場から、どういうものを書けばいいのか、これを主眼に置くべきです。
「長く書いたほうが評価される」
小学校以来、作文や読書感想文は「長く書いた方」が評価されていたと思います。これは司法試験でも言われていて、最低6枚は書かないと受からないといった話もよく聞きました。
しかし、ビジネスの現場では誰もが忙しい立場にあります。受け手も、受け取るべき情報が非常に多いなかで、書いたものを読んでもらえる時間は非常に限られています。そうなると必然的に、短く書いてあげないと読み手にとっては負担となって、対応が後回しにされてしまう可能性が高まります。
したがって、「文章は短く端的に書いた方が評価をされるんだ」と、意識を変えることが重要です。
「書いていなくても雰囲気で伝わるはず」
学生の頃に「行間を読め」と国語の先生から口を酸っぱくして言われていたと思います。しかし、行間には何も書いてありません。
ビジネスにおいては「書いていないことは伝わらない」という前提で考えて、文章は作成しなければなりません。日本人は非常に奥ゆかしい国民ですので、「皆まで言わなくても伝わるよね」と、配慮して書くことが多いと思いますが、それではビジネスの現場では驚くほど伝わりません。
「書いてあることしか伝わらない」という前提で書くということが大事です。
「読み手が理解できないのは読み手が悪い」
書き手が悪いわけではない、という誤解もあるかもしれません。しかし、読み手が理解できないのはやはり、書き手側に問題があります。
書き手と読み手とでは前提となる知識も違います。書き手は分かっているから書けるのであって、書かれてもいない前提知識を読み手に求めるのはどだい無理な話です。文章を書いても伝わらなかった場合、「自分の書き方が悪かったんだ」と、反省する姿勢が大切です。
「全部読んでもらえば伝わる」
前半は何を書いてあるかわからないけれども、全部読めば伝わる、という考えもあるかもしれません。
しかし、読み手は忙しいので、「この文章は自分が読むべき文章なのか、読むとすればどこを読めばいいのか」を、最初から示してあげる配慮が大切です。全部読んでもらえる時間など読み手にはない、という前提で文章を作ることが基本的な方針になります。
以上の心構えを踏まえて「ポイント1:形式面を整える」から解説します。
第2「伝わる文章」を書く
ポイント1:形式面を整える
「改行」「ナンバリング」「見出し」を積極的に使いましょう。
これらがたくさん使われている文書は、どこにどんな内容が書かれているのかが一目瞭然です。
読み手は自分の関心に合わせて読むべき箇所を短時間で読むことができるようになります。もちろん、全部読みたい方は全部読んでもらえば良いでしょう。ただ、読み手の役職が上がるにつれて時間が限られていきますので、相手が最低限どこを読めば良いのかを示す意味でも、どこに何が書かれているのかを、目で見て視覚的に分かるようにしてあげる工夫が求められます。
ポイント2:冒頭で要点、結論を端的に示す
冒頭で要点や結論を端的に示すのも重要です。
上司に口頭で説明をする際、何分か説明した後に「で、何が言いたいの」と言われた経験が皆さんお有りだと思います。最初に結論、要旨を伝え、その要旨の内容を説明するという構成にしなければ、話の行き着く先がわからず、読み手は安心して読むことができません。
また、読み手は文章を読んで理解すればいいのか、それとも何か判断を下す必要があるのか、誰かに指示をする必要があるのかが一番の関心事です。まずは、読み手に何をしてもらいたいのかがわかる構成で文章を作成することも大切です。
となると、最初に結論や要点を書くことになります。この文章で伝えるべきことはなにか。一番大事なことはなにかを書き手はよく考える必要があります。
短く書くことで伝わりやすくなる
ポイント3:短く書く
同じことを伝えるなら、短いほど良いでしょう。
長い文章は「なにか大変そうだ」という感覚を与えてしまいます。重荷に捉えられると、時間があったら後で読もうと思われて後回しにされてしまいます。文章はもっと短く書けないかと常に意識することが大切です。
もしも組織全体で文書の分量が半分になったらどうなるかを想像していただければ、いかにそれが組織にとってプラスに働くかがお分かりになるでしょう。意思決定のスピードが速くなる、アクションが早くなる、正確に物事が伝わる組織になるということです。
したがって、「短く書くこと」をまずは目指していただきたいと思います。
誰にでもわかる文章で書く
ポイント4:平易な文章で書く
中学生にも理解できるような平易な文章というのが好ましいでしょう。
知的な方ほど高尚な文章を書きたくなりますが、その気持ちを抑えて、あえて短い文章、簡単な文章で構成する姿勢が求められます。
できる限り単文で構成する
日本語の文章には単文(主語と述語が1つずつしかない文章)があります。たとえば「Xは店で万引きをした」という文章です。
一方、重文とは複数の短文が並列的に繋がった文章です。「Xは店で万引きをしたが、店員YがXを捕まえた」という文章です。
X=万引きをした、Y=捕まえたという形で、主語と述語がそれぞれ1つずつあります。この単文が並列的に繋がった文章もよく見かけるでしょう。
複文もあります。主語、目的語、述語、修飾語が文で構成されているものです。これも日常的に目にします。
「店員Yは、3年前にA店でチョコを万引きして逮捕され、不起訴処分となったXを1週間前に駅で見かけたため、Xにうちの店には今後来ないでほしいと伝えたということを同僚のPに昨日話しました」といったものです。
これを読んですぐに理解できる方はなかなかいないでしょう。「どういうこと?」となってしまうのが普通の感覚ではないでしょうか。
何よりも店員Yという主語と「話しました」という述語が離れているために、文章全体の理解をすることが難しくなっています。
主語と述語が離れるのは日本語の特徴です。英語では、まず主語、次に動詞という形でその結び付きが明らかです。いっぽうで、日本語は、主語と述語が離れる、離すことができる言語ですので、その間に情報を盛り込むことができてしまいます。しかし、それをやると、よく分からない、意味が伝わらない文章になってしまいます。
これを修正をすると、「Xは3年前にA店でチョコを万引きして逮捕され、不起訴処分となりました。店員Yは1週間前に駅でXを見かけたため、Xに対しうちの店には今後来ないでほしいと伝えました。店員Yは、1週間前のこの出来事を、昨日同僚のPに話しました」と単文に区切ることができます。
これであればすぐに内容は伝わるものになると思います。
なぜ同じ内容なのに、先ほどの文章は伝わらず、今回の文章は伝わるかと言えば、複文と単文のどちらで構成されているかの違いによる、ということになります。
読み手の分からない言葉を使わない
平易な文章を書くためのポイントの2つ目は「読み手のわからない言葉は使わない」ということです。
この際には読み手を具体的に想定することが重要です。
- 読み手は社内の人なのか、社外の人なのか。
- 経験のある方なのか、新人なのか。
- 専門家なのか、一般の方なのか。
読み手の属性を想像してどのような前提知識までなら説明しなくても伝わるのか。どのような言葉であれば、分かりやすく伝わるのかを想像します。
そうすると、社内用語、業界用語、専門用語や略語には十分に注意が必要です。自分にとっては馴染みのある言葉であっても、読み手にとってはそうでないということはよくある話です。
したがって、そのような言葉を使うときには相手の属性を踏まえ、使っても伝わるかどうかを考える配慮が必要です。
接続詞は文脈の「方向指示器」
ポイント5:接続詞で論理関係を示す
接続詞は文脈の方向指示器と言って良いでしょう。
接続詞が出てくると、次に読み手としてはどういう話が来るのか容易に想像ができます。接続詞を使う場合はお決まりのパターンがありますので、そのまま使っていただければ最初から論理的な文章を書くことができます。
並列的に話を展開する場合
例:まず、A。次に、B。そして、C。最後に、D。
前に理由、後ろに結論がくる場合(順接)
A。そのため(したがって、そこで、よって、以上により)B。
前の文章を否定する場合(逆説)
A。しかし、B。
反対意見も踏まえつつ自説を述べる場合
確かにA。しかしB。
異なる事柄を対比する場合
一方で、A。他方で、B。
基本的にはこの5つのパターンしかないと思います。パターンに沿って文章を書くと、論理的な文章が書けるようになります。
具体例や図表で目で見てわかる文章に
ポイント6:具体例や図表を使って説明する
特に、抽象的な話、複雑な話をするときは具体例や図表を多用すると、相手に伝わる文章を書くことができます。
具体例
印紙税のかかるタイミングは課税文書を作成した時だと。作成というものは、紙の文書を渡したり、紙の文書にみんなで判子をついた時だと書かれています。このような行為に当たらない行為は法律上の作成には当たらないので、印紙税が課されることはありませんという文章で結んでいます。
しかし、読み手は上記に当てはまらない場合とはどういう場合なのかと。どういう行為なら印紙税は不要なのかが伝わりません。
そこで、課されることはありませんという文章に続けて、印紙税が課されない具体的な例を「ア」から「ウ」まで書いているのが(修文)です。FAX、メールで送る、コピー機で複写する、電子契約するといったものには印紙税はかからないということを具体的な例として挙げています。
次に図表です。これも非常に重要です。
根拠を持って明確に端的に書かれていますが、やはり読んだだけでは読み手にはよくわからない文章になっています。修文ではこれを図示すると以下の通りですという形で図を入れています。この図があるかないかで読み手の理解が変わってきます。
図を見ると文章の内容をイメージできます。そのイメージを持ちつつ先ほどの文章を読むと、なるほど、こういうことを言いたいのだなと理解できるようになります。図の有無でも読み手に伝わる質が変わってきます。
分かりづらい事柄を示すときには図の力を使っていただきたいと思います。
書き手の目ではなく読み手の目で推敲する
ポイント7:読み手の立場で推敲する
書いてすぐに送るのはやめましょう。推敲の際のチェックポイントに照らして、本当にこの文章で良いか確認をしてから送りましょう。できれば確認は、書いてから時間を置いてからするとなお良いでしょう。
どうしても、文章を書いた直後は、頭の中に書いていない予備情報が記憶されています。ですので、そのままでは不備に気づくことができません。なので、予備情報を少し忘れた頃に文章を読み返しましょう。純粋な読み手の立場で文章の不備に気付くことができます。
推敲の際のチェックポイント
チェックポイントをまとめましたのでご確認ください。
- 誤字や脱字がないか
- 見出しと内容が整合しているか
- 文章の結論や要旨と文章全体は整合しているのか
- 改行の位置は適切か
- 削ることができる文章や余計な修飾語はないか
- わかりづらい表現はないか。
- 誤解を与える、他の意味にも受け止められてしまうような表現はないか
- 客観的な事実と書き手の意見、主観が混在していないか
- 文章だけでは伝わりづらい部分がないか
以上が「第2『伝わる文章』を書く」に関する解説です。
後編では「第3『説得力のある文章』を書く」についてお届けします。