GVA TECHは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。
昨今、当局による下請法の摘発件数が激増しています。下請法は、意図して違反する悪質なケースのみならず、知らないがゆえに一線を越えてしまうことも珍しくありません。当局から「勧告」措置を取られてしまい、企業名が公表されるなど大きなダメージとなってしまいます。
セミナーでは、下請法に精通したGVA法律事務所の原田 雅史 弁護士を講師としてお迎えし、下請法の基本から分かりやすく解説いただきました。本まとめで、セミナー内容をレポートいたします。
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原田 雅史 弁護士
弁護士法人GVA法律事務所
2016年弁護士登録、2019年GVA法律事務所入所。
企業法務、海外案件を担当。
前職では、東証一部上場メーカーで企業内弁護士として広く法務業務を担当。
下請法については、公正取引委員会による立入調査の対応も経験。
「3条書面」がもっとも重要
親事業者の義務
親事業者には4つの義務があります。
- 書面の公費義務(3条書面)
- 支払期日を定める義務
- 遅延利息の支払い義務
- 書類の作戦・保存義務(5条書類)
それぞれ見ていきましょう。
書面の交付義務
3条書面、これが一番重要です。
立ち入り調査が行われる際にはほぼ100%指摘されるのがこの3条書面の不備です。親事業者は発注に際し、必要記載事項をすべて記載している書面をただちに下請事業者に交付しなければならないと定められています。必ず発注書を出さないとならないというルールです。
必要記載項目には12項目ありますが、このうちの1~2つの書き方が甘かったというミスはどうしても出てくる可能性があります。また、発注書自体を出していませんというケースでは、勧告とまではいかなくとも比較的違反としては重くなるので、発注書は必ず出すようにしてください。
もっとも、書面交付時、発注時に必要記載事項を定められないケースもあるでしょう。定められないことについて正当な理由がある場合には、その事項を記載しないでそれ以外の事項を記載した書面を交付すればいいという扱いがされています。
ただ、それにも条件があります。記載しなかった事項について内容が定められない理由、定められる予定期日、この2つを書面に記載しなければなりません。内容が確定したあとはただちに当該事項を記載した書面を交付する必要があります。この書面のことを補充書面と呼ぶこともあります。また、代金については具体的な金額を記載できない場合、算定方法でも認められることになっています。
支払期日を定める義務
親事業者は、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定めなければならないと定められています。
遅延利息の支払い義務
親事業者が支払いを遅延した場合、遅延利息は年率14.6%と法定で決まっています。
書類の作成・保存義務(5条書類)
親事業者は下請け授業者に対し委託をした場合は、給付の内容を記載した書類を作成し2年間保存しなければなりません。
5条書類について、公正取引委員会、中小企業庁がリリースしている「下請取引適正化推進講習会テキスト」で解説されていますので、参考にしてください。
具体的な必要記載事項ということで1~17項目まであります。
これらを記した書類を作って保管することになりますが、よく「3条書面の写しを保管しておけばいいのではないですか」と質問されます。
3条書面でカバーできている部分もありますので、カバーできる範囲においては3条書面で問題ありません。ただ、3条書面の必要記載事項は12項目であるのに対し、5条書類には17項目あるのでカバーしきれない部分があります。たとえば、「下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日」。3条書面に納期は書いてありますが、実際に受領した日付は分かりません。その際には、受領証などを保管する形での対応が必要となります。
他にも、給付の内容についての変更ややり直しした場合には、その内容や理由なども3条書面ではカバーできませんので注意が必要です。
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下請法の調査方法
下請法を学ぶ、調べる際にどのようにして行えばよいのかについてです。
「下請取引適正化推進講習会テキスト」(公正取引委員会・中小企業庁)
このテキストは詳細な解説のほか、100項目以上あるQ&Aがあり、これが大変有用です。法律をどういった基準で運用しているかを具体的に落とし込んだ運用基準も掲載されています。豊富な資料集も巻末に掲載されており、このテキストがあればほとんど事が足ります。
また、必要に応じて、当局への問い合わせも有用です。
- 公正取引委員会
- 中小企業庁
電話で解釈について問い合わせると対応してもらえます。ただ、非常に具体的な事案で会社としても当局に知られたくないケースもあるかと思います。その場合には、(推奨するわけではありませんが)自分の携帯電話などから個人事業主としてこういうビジネスを考えていますという体で聞くのはありかと思います。
他にも、「下請法テキスト」をうまく使う方法があります。インターネット環境があればどこでも見られます。PDFファイルのためキーワードで検索も可能です。補充書面について調べたければ検索すればアクセスできますし、非常に使いやすくなっています。書面の記載例も多く載っているので参考にできるところがあると思います。
立ち入り調査対応
立ち入り調査での対応ですが、立ち入り調査が来る理由には2種類あります。
- ランダムでたまたま当たってしまった
- 下請事業者からのタレコミ
調査の依頼が来たからと言って慌てることはありません。定期的にランダムで当たってしまったということもありますので、淡々と対応すれば基本的には大丈夫です。
調査前
調査には公正取引委員会の調査と中小企業庁の調査の種類があります。どう分けているかというと事業者の名簿があって、番号がついています。偶数の企業と奇数の企業で名簿が分かれていてそれに基づいて行われるのですが、偶数の名簿と奇数の名簿を定期的に公正取引委員会と中小企業庁が入れ替えて対応しているそうです。調査の内容はどちらが来ても同じです。
立ち入り調査をすることになった場合、「勧告」を回避するのが最重要事項です。勧告されると企業名が公表されて、さらに取引内容や違反の内容が出てしまうので企業に対するダメージが大きくなります。しかも年間5件程度しか発表されていないので悪目立ちすることになります。勧告にはならないようにすることが重要です。
とはいえ、過去の事例を見てみると、1千万円以上の減額といった大きいお金の動きがないとなかなか勧告にはなりません。単なる3条書面違反程度では勧告にはならないと考えられます。
下請法に理解がある事業者であることを当局に示すことも重要です。調査をした結果、担当者が下請法をなにも分かっていない、企業としても不備だらけと思われてしまうと、2回も3回も調査が来てしまいます。
調査を受けること自体が事業者にとっては負担ですので、そうならないように理解があることをアピールすることが大切です。
具体的な対応
連絡を受けたときに、当局から取引に関する書類を送ってくださいと依頼を受けることがあります。違反をしている内容のものもあると思いますが、偽造するのはやめましょう。取引に関連する書面をそのまま送るしかありません。
大事なのは違反がある状態の書面を、調査当日までにきちんと正しく直しておくことが大切です。調査の当日に担当者と話して、この人たちは自分たちの違反している部分について認識があって改善していると安心しますし、2~3回と調査する必要はないなとなりますので、きちんと改善しておくことが非常に重要です。
同時に被調査部門と理解を共有しておくことも非常に重要です。基本的に法務の担当者が当日同席することはできるのですが、取引に関してメインで話すのは調査部門の担当者です。メインで話す以上、いろいろ話すことになりますので、下請法上まずいことを口走ってしまうと当局からの印象も悪化しますので、事前に理解を共有するようにしてください。
立ち入り調査後
改善指導ということで書類の改善がメインになります。調査の依頼が来た時点でただちに対応をして、調査当日までに書面等の改善を行うことが重要です。先回りして対応しましょう。
以上、皆様のご参考になれば幸いです。
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