GVA TECHは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。
昨今、当局による下請法の摘発件数が激増しています。下請法は、意図して違反する悪質なケースのみならず、知らないがゆえに一線を越えてしまうことも珍しくありません。当局から「勧告」措置を取られてしまい、企業名が公表されるなど大きなダメージとなってしまいます。
セミナーでは、下請法に精通したGVA法律事務所の原田 雅史 弁護士を講師としてお迎えし、下請法の基本から分かりやすく解説いただきました。本まとめで、セミナー内容をレポートいたします。
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原田 雅史 弁護士
弁護士法人GVA法律事務所
2016年弁護士登録、2019年GVA法律事務所入所。
企業法務、海外案件を担当。
前職では、東証一部上場メーカーで企業内弁護士として広く法務業務を担当。
下請法については、公正取引委員会による立入調査の対応も経験。
目次
10年で倍増している下請法の指導件数
下請法とは
下請法は、下請取引の公正化、下請事業者の利益保護のために制定された法律です。
当局による下請法取締件数の推移を見てみると、近年、取締りが強化されていることが分かります。
青い棒グラフが指導件数。2011年が4,000件強だったものが右肩上がりで伸び続け、最新のデータでは8,000件を超える件数になっています。当局による執行が強化されていることがよく分かります。
オレンジ色の折れ線グラフは勧告件数です。勧告とは、違反の対応が悪質な場合に、事業者の名前や取引の内容、違反の内容を公表するものです。悪質性が高いものでないと勧告の対象にならないので、指導に比べると件数は少なくなります。
下請法には3つの特徴がある、と講師の原田先生は語ります。
1.形式的な適用
下請法は「資本金額」「取引内容」によって、形式的に適用の有無が決まります。
2.当事者の合意が通用しない
民法の一般原則には「当事者の合意の自由」があり、基本的に合意があればどんな内容でも合意できるとされています。しかし、立場の強いものと弱いものとの関係性では、立場の強いものが不当な条件を弱いものに課してしまうことがあります。弱いものを国家が後見的な立場から保護するために制定したのが下請法ですので、合意が通用しないことが多く規定されています。
3.知らないうちに違反していることがある
当事者の合意が通用しないからこそ、知らないうちに違反していることがあるのも下請法の特徴です。下請法の知識不足のために、知らずに違反してしまうケース。基本的に下請法の問題はこのうっかり型がほとんどです。
一方、自ら認識した上で違反を行う悪質なケースも見られます。これに関してはただちに対応しなければ勧告の対象になるため、きちんと対応することが必要です。
下請法を考える際には、次の3つのポイントを抑えることが重要とのこと。
- そもそも下請法が適用されるか
最初に確認しないといけないのは適用されるかどうか。適用されない取引のケースもあります。 - 3条書面に関する問題
立ち入り調査が入ると3条書面に関しては間違いなく指摘されます。 - 親事業者の禁止事項の検討
禁止事項については多岐にわたるため、別途セミナーで解説されます。
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「資本金要件」と「取引内容」で適用可否が決まる
下請法が適用される要件 その1:資本金要件
下請法が適用される要件には「資本金要件」と「取引内容」の2つがあります。
取引内容は、具体的に個別の取引内容を見ての判断が必要になりますが、資本金要件は資本金を見れば一目瞭然なので判断しやすい要件です。資本金要件を考慮する際、どんな取引なのか、どのような取引かによって見る金額が変わります。
製造委託なら、自社が3億円の資本金を超える事業者であれば親事業者に該当します。相手が3億円以下の会社なら下請事業者に該当するので、下請法が適用される可能性があるという見方になります。
情報成果物作成委託の場合には金額が変わります。該当する取引がどの委託にあたる取引なのかを確認し、金額を間違えないように注意が必要です。
下請法が適用される要件 その2:4種類の下請取引
下請取引には4種類あります。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
※修理委託に関してはセミナー時間の関係とほかの3つに比べると少ないために割愛
委託者が1~4を「業として」行っているものは下請取引となります。
「業として」の定義は、事業者がある行為を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合となっており、事業としてやっているものが業となります。
「業として」に該当する例
製品Aを作るX社がこの製品を大量に受注した。自社だけでは製造しきれないので、Y社に製造委託をしたというケース。この場合、X社にとって製品Aを製造するというのは普段やっていることです。そのため、外部であるY社に委託するのは「業として」に該当します。
「業として」にあたらない例
X社が取り扱いのない製品Bを受注した場合に、Bの製造をY社に委託したケース。X社にとって製品Bを製造することは事業としてやっていないことになるため、「業として」の要件は満たしません。Y社に委託しても下請法の適用にはなりません。
4つの下請取引について、原田先生から次のような解説がなされました。
1.製造委託
定義:物品(半製品、部品、付属品、原材料及びこれらの製造に用いる金型を含む)の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランド等を指定して製造(加工を含む)を委託すること
物品の何かしらを指定して製造してくださいとお願いすること、これが製造委託です。もう少し違う言い方をすると、物品について何かしらのカスタマイズ要素があると製造委託になります。
逆に、単に既製品を買うだけということであれば、製造委託には該当しません。既製品であっても少しでもカスタマイズした場合は製造委託になります。たとえば、1メートルの鉄の棒を製造委託した場合、既製品である場合は製造委託に該当しません。
しかし、1メートルの鉄の棒を「自社のために2センチだけ短くしてくれないか」と委託した時点でカスタマイズの要素が入ってくるので製造委託に該当します。
製造委託には、さらに4つの類型があります。
(1) 物品の販売を業として行っている事業者が、その物品の製造を委託する
例として、自動車メーカーが販売する自動車のホイールの製造をホイール製造業者に委託するケース。自動車メーカーが車ではなく車の部品であるホイールの製造を委託するケース、これが第1類型です。たとえば物品が車である場合、車の販売を業として行っている事業者がその車の製造を委託する場合には分かりやすいのですが、車そのものではなく部品の製造を委託しても第1類型に当てはまります。
なぜそうなるのか。製造委託の定義には「半製品、部品等も含む」とあります。物品というのは完成品という意味ではなく、部品等も含むことになります。ホイールは車の部品。車の販売を行っている自動車メーカーが部品であるホイールの製造を委託すれば第1類型に該当するという理屈です。
(2) 物品の製造を業として請け負っている事業者が、その物品の製造を委託する(いわゆる再委託)
ホイール製造業者が自動車メーカーからホイールの製造委託を請け負いました。その製造を、さらに下請けに委託するケースです。
(3) 物品の修理を業として行っている事業者が、その部品の修理に必要な部品又は原材料の製造を委託する
(4) 自ら使用又は消費する物品の製造を業として行っている事業者が、その物品の製造を委託する
この(4) だけ少し毛色が違います。(1)~(3) は基本的に事業者がお客さんに対してなにかをするときのものですが、(4)は自ら使用・消費する物品です。自家使用する物品の製造を業として行っている事業者がその物品の製造を委託する場合となっています。
たとえば、自社で製品運送用の梱包材を製造しているメーカーが、これをほかの資材メーカーに委託するケース。梱包材はお客さまに提供するために作っているわけではなく、あくまでも自分たちが運送の際に必要なものとして使っています。自社で製造している梱包材を外注した場合には第4類型に該当します。
逆に、自社で梱包材を一切製造していない場合であれば、この第4類型には該当しません。自社で作っているときに外注すると該当します。
2.情報成果物作成委託
情報成果物の定義が3つあります。
(1) プログラム(電子計算機を機能させて、ひとつの結果を得ることができるように組み合わせたもの)
テレビゲームのソフト、家電製品の制御プログラム、顧客管理システムなど
(2) 映画、放送番組、その他映像又は音声その他の音響により構成されるもの
テレビ番組、CM、アニメ、ラジオ番組、映画など
(3) 文字、図形もしくは記号もしくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
設計図、ポスターのデザイン、商品・容器のデザイン、コンサルティングレポート、雑誌広告など
こちらには3つの類型があります。
(1) 事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成を他の事業者に委託すること
例:放送事業者が、放送するテレビ番組の制作を番組制作業者に委託する。
放送事業者にとっての提供の目的たる情報成果物といえばテレビ番組です。この作成を制作業者に委託すれば第1類型に該当することになります。
(2) 事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成を他の事業者に委託すること(いわゆる再委託)
放送事業者から番組制作の依頼を受けた業者が、さらに下に再委託するケースです。
(3) 事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成を他の事業者に委託すること
例:自社のWebサイト等の作成を社内に部門を設けて行っている場合に、その作成を委託する。
自社でWebサイトの作成もやっている企業も多いと思います。Webサイトは自分たちで使うものなので第3類型に当たります。
3.役務提供委託
事業者が業として行う提供の目的たる役務(サービス)の提供の行為を他の事業者に委託すること
例:貨物利用運送業者が請け負った貨物運送のうちの一部を他の運送事業社に委託すること
運送というのはサービス業です。請け負った仕事を他の事業者に委託すれば該当することになります。一方、自ら用いる役務について他の事業者に委託すること(自家利用役務)は下請法の対象にはなりません。
例:工作機械メーカーが自社工場の清掃作業を清掃業者に委託すること
製造委託と情報成果物作成委託では、自分が使う物品や情報成果物等について自社で製造している場合に外注すると適用対象になったのですが、役務提供委託に関しては適用外です。
以上の4種類が下請取引に関する説明なのですが、実際の運用ではどれがどれに該当するかの判断は難しいところがあります。ですので、最初に下請法は形式的で、適用要件については資本金要件とこの下請取引要件の2つで形式的に判断すると説明したものの、下請取引に該当するかどうかは難しい問題をはらんでいるということについてはご認識ください。
(後編へ続く)