GVA TECHでは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。
今回は、バーチャル株主総会支援サービス「Sharely」を展開しているコインチェック株式会社 Sharely事業部 部長の大島 啓司氏と、GVA法律事務所 代表弁護士の小名木 俊太郎氏を講師に招き、バーチャル株主総会の基礎知識と現状について解説を行いました。
法的な論点から実際の開催事例まで、バーチャル株主総会の最新動向がわかります。
本まとめは前後編でセミナーをレポートいたします。
目次
ご登壇
大島 啓司 氏
コインチェック株式会社 Sharely事業部 部長
中央大学商学部を卒業し、その後大学院にてMBA修了。ランスタッド日本法人立ち上げに参画し、D&BTSRのJVにてエンタープライズ事業拡大に従事。その後、マーサージャパンの報酬部門で報酬制度の変革を支援。そして、人事コンサルティング会社を起業し、4年半後に株式譲渡を実施。エイチームの社長室でQiitaのPMI、M&A支援等に従事し、2021年3月にコインチェックに参画し、Sharely事業責任者として、バーチャル株主総会の普及に日々邁進。
小名木 俊太郎
弁護士法人GVA法律事務所 代表弁護士
2008年 慶應義塾大学法学部 卒業
2011年 明治大学法科大学院 修了
2011年 最高裁判所司法研修所 入所
2012年 八重洲総合法律事務所 入所
2013年 東証一部上場企業法務部へ出向
2016年 GVA法律事務所 入所
2016年 and factory株式会社 社外監査役就任(現任)
2018年 GVA法律事務所 パートナー就任
2019年 Capy株式会社 社外取締役就任(退任済み)
2020年 GVA法律事務所 共同代表就任
バーチャル株主総会ってなに?
本セミナーでは以下の内容について解説されました。
- 株主総会の基礎知識
- バーチャル株主総会の種類
- バーチャル出席型
- バーチャル参加型
- バーチャルオンリー型
- .ライブ配信
まず基礎知識。
定時株主総会招集の時期は、決算日を基準日として3ヵ月以内。3月決算が多い日本では6月までに開くことが多いとのこと。招集の方法については上場企業では取締役会決議をして招集通知を送り、定時株主総会の開催という流れになります。
小名木弁護士が企業内弁護士として活動した高島屋では4月に招集通知の案を確認しながら5月に招集通知を送っていたそうです。
株主の権利として次の3つについて解説されました。
- 議決権の行使
- 動議
- 質問
「議決権の行使」は、当日行使するのか、どう行使するのかがバーチャル株主総会で問題になります。「動議」は、バーチャルで出席している方、参加している方に認める必要性があるのかどうかが論点になります。「質問」は、質問権という形で会社法上で定められているのですが、ここに関してバーチャルの人に認めないのは本当にいいのかが問題になります。
ハイブリッド出席型をカンタン解説
バーチャル株主総会の種類
バーチャル株主総会は大きく3つの種類に分類され、追加でライブ配信が加わると大島氏は語っています。
- ハイブリッド出席型
- ハイブリッド参加型
- バーチャルオンリー型
+
ライブ配信
「ハイブリッド出席型」は、バーチャルとリアルとを一緒に開催する形で、バーチャルの形でも法的に出席していることになる形です。
「ハイブリッド参加型」は、バーチャルとリアル双方開催するのですが、バーチャルでの出席者は法的な出席ということではなく参加しているに過ぎない形です。
「バーチャルオンリー型」はバーチャルのみということです。
「ライブ配信」はライブで配信するだけという話になるので、あまり論点は出てきません。
上記について、それぞれの定義が大島氏からなされました。
「ハイブリッド出席型」は、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に会社法上の出席をすることができる株主総会です。法定の「出席」にあたるため、バーチャル出席の株主もリアル株主総会に出席していることになります。そのため、リアルタイムで議決権行使を可能とするシステム構築や、サイバーセキュリティ対策が必要となります。
ハイブリッド出席型では、インターネットで参加している株主も「出席」とみなすため、招集決定の際に株主総会の物理的な場所及び「出席の方法」を取締役決議しなければなりません。実務上は、バーチャル出席に関する事項を記載した招集通知について決議することになります。
バーチャル株主総会の招集通知について
続いて、招集通知にどんなことを書くかについての解説です。
経産省によるガイドラインから、大島氏の解説がなされました。
- 動画配信するインターネットアドレス
- ログイン方法(出席方法)
- 通信障害発生の可能性
- 代理出席の制限
- 質問の制限
- 動議の制限、採決の取り扱い
- 事前の議決権行使の取り扱い
- 強制的な通信遮断の可能性
1、2に関しては、株主の本人確認が必要なので、事前にURLを送りIDを確認して出席を確認する方法が一般的とのことです。
4の代理出席の制限について、問題になるところがある、とのこと。結論から言うとリアル株主総会に限ってOKという判断になっているそうです。どのような人を代理人として出席させるかに関しては、基本的に会社側の裁量が働くところです。バーチャルで出席される場合は本人確認が難しいため、代理出席はリアルの株主総会に限るというのが一般的な取り扱いになっているかと思います。
また、代理出席を認めた場合、本人確認書類をどうするかという問題があります。リアルの総会に代理出席した人と、株主がオンラインで出席していますというとき、どういう取り扱いをしますかというのは検討が必要かと思います。
5の質問の制限。これに関しては、一人あたり何回までにしてほしいといったことはリアルの総会でもあり得ることです。質問を制限すること自体は会社法上問題ないと考えられているとのこと。
特にオンラインでは、手を挙げて答えるというよりは文字を送ることになるので、文字数の制限が出てくるのは仕方がないと言われているそうです。ただ、「招集通知に、事前に質問内容を書いておいたほうがいい」と言われていると大島氏は語っています。
6の動議。動議は現状の考え方としては、「リアル株主総会で実際に出席している方だけが動議を提出できる」ということを、招集通知に記載をするのが一般的とのこと。それ自体は会社法上問題ないと考えられています。
理由としては、動議を提出する権利自体は、実際にリアルの株主総会に来れば確保されているからとのこと。しかし、事前に招集通知に書いておかないと問題になる部分のため、しっかり書いておきたいところです。
仮に動議が出た場合の対応をどうするかについては、採決が必要な動議については「棄権又は欠席として取り扱う」ということを記載しておくことも重要です。実質的動議については棄権、手続き的動議については欠席、として取り扱うのが一般的です。実質的動議というのは、議案を内容修正しますとかそういうもので、手続的動議でわかりやすいのは議長不信任などです。
7の事前の議決権行使の取り扱い。リアル株主総会では、事前に議決権行使したとしても、出席を確認した時点で事前の議決権の効力は失われるものとしています。
これは、ハイブリッド出席型の場合は、基本的にはログイン時点では事前の議決権行使の効力を維持しつつ、当日の採決のタイミングで議決権行使があった場合に限って効力を破棄することも可能とのこと。この辺は決めの問題だと大島氏は語ります。
どういうルール、運用にするかを招集通知に記載しておくことも重要とのことです。
以上が招集通知に関する話で、最後、株主総会が終わったら議事録を作成します。
議事録についても、出席型に関しては出席の方法の記載が会社法上で定められているので、「なお、一部の株主は、当社所定のWebサイトにアクセスし、会場の画像・音声のライブ配信を受け、質問を送信する方法による本総会に出席した」という形で書いてあることが多いとのことです。
議事の経過の要領及び結果に関しては、特に区分した記載は必須ではないとされています。
ここまでがハイブリッド出席型です。
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最近増えている「ハイブリッド参加型」
出席型が法律上の出席と扱われるのに対して、参加型は出席と扱われません。
インターネットの手段を用いて、株主総会の内容を確認・傍聴できるのが参加型の特徴です。そのため、バーチャル上での採決の参加や議決権の行使は行えないと考えられています。
意思決定
意思決定に関しても出席としては扱わないので、必ずしも法定の意思決定が必要とはなりません。ただ実務上はバーチャル参加に関する事項を招集通知に記載しますので、そちらに関して決議をするということになるとのことです。
招集通知への記載事項
招集通知への記載事項も出席型に比べるとだいぶ異なります。
1.参加の方法
当日の参加方法、このURLから株主総会を見ることができますと通知します。
2.参加の意義
当日の議決権行使、採決への参加不可と書いておく必要があります。質問権に関しても参加型であって出席はしていませんので、質問権も基本的にはありません。あくまでコメントに過ぎないと書いておく必要があります。ただ、会社が質問として取り扱ってあげるのは問題ないとのことです。議決権行使に関しては代理人出席日委任状提出が必要です。参加していたとしても、議決権は行使できないので、出席する場合は委任状を出してくださいと書いておく必要があります。
3.議事録への記載
議事録に関しては任意的記載事項となり必須ではありません。
4.コメントの取り扱い
特に文字数を制限したりすることも問題ないそうです。あくまでもコメントなので、コメントに回答しないことも法律上は問題がありません。
5.招集通知発送後の決定
招集通知発送のあとに「参加型にする」と決定することも可能とのことですが、普通は発送時点で決定しておくべきだと大島氏は語っています。
法改正され認められた「バーチャルオンリー型」
バーチャルオンリー型は最近、法律の改正があって定められたものです。
バーチャルオンリー型
現行の会社法下では選択肢がなかったが(会社法298条1項1条により「場所」を特定する旨定められている。)、現状のコロナ禍では不便だということで、産業競争力強化法によって、2021年6月16日に施行された法律によると、場所の定めのない株主総会に関しても認めると定められています。これがバーチャルオンリー型の株主総会に関する定めになります。
ただし、要件が4つあります。
- 上場会社であること(金商法2条16項)。
金商法上の有価証券報告書を提出していること。 - 経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けること。
手続きが必要になりますのでしっかりと申請することが必要です。経済産業省のホームページに申請書があります。事前に申請をしないとバーチャルオンリーではできませんのでご注意ください。 - 定款の定めがある。
しっかりと定款変更してからないとバーチャルオンリー型は開催できません。施行後2年間は2の産業大臣と法務大臣の確認を受けた上場会社については、定款の定めがあるとみなすことができるという経過措置が定められています。 - 招集決定地に「省令要件」を満たしていること。
細かく定められているので、別途要件をご確認ください。
バーチャルオンリー型は日本でまだ数例しか行われていないため、今後、実例が増えていく中でより粒度の高い議論が行われることになるでしょう。
ライブ配信型は株主総会の様子をライブ配信するだけで、コメント機能も不要です。法的には傍聴にあたり、出席とは考えられていません。
事例から学ぶ、バーチャル株主総会を成功させるためのポイント
第2部では、コインチェック株式会社でSharely事業部部長を務める大島氏から、「バーチャル株主総会を成功させるためのポイント」について解説いただきました。
「Sharely」とは、コインチェック株式会社が提供しているバーチャル株主総会、オンライン決算説明会の支援サービスです。プラットフォームを提供するだけではなく、実際の運営支援も行っているとのこと。2021年の時点で、バーチャルオンリー型の株主総会を3社が開催しました。そのうちの1社をSharelyでサポートしています。
大島氏によると、2021年がバーチャル株主総会元年とされ、6月時点の株主総会に関しては319社がバーチャル株主総会を実施したとのこと。そのうち出席型は14社で5%程度です。2022年6月の総会は2〜2.5倍に増加するのではないかと見込んでいます。
バーチャル株主総会について、参加者である株主はどう捉えているのかのアンケートも行ったそうです。オンラインという席が設けられて便利になったといった好意的な意見が9割を占めており、距離の制約をなくすバーチャル化は評価が高いと言えそうです。
「株主総会に参加すると、非常にポジティブな心理が株主の中に生まれるという結果もありますので、オンラインを併用することで、これまで参加が難しかった株主にも参加してもらい、自社への好感度を高めることも、IRの観点からも今後重要になっていくのではないか」と大島氏は指摘しています。
バーチャル参加型で株主総会を開催した企業の事例についての解説もなされました。
事例1:デジタル化へのチャレンジ
開催前に抱えていた課題は
- 株主総会のデジタル化にチャレンジしたい
- できるだけ多くの株主に平等に参加してもらいたい
の2点。これらをどう解決したのでしょうか。
開催は2021年6月。バーチャル株主総会に取り組むのはこれが初めてで、いきなり出席型で開催するのはハードルが高いと判断し、参加型に挑戦した企業です。株主に距離の制約なく平等に総会に参加してほしいという課題を解決するためにバーチャル株主総会開催に踏み切りました。
効果として次の2点が挙げられました。
- 事前質問を受け付けて、質問数が増え、株主との対話を実現
- 全国の株主に、オンラインで参加していただけた
事前質問を2週間程度の期間を設けて集めたことで質問の数が増え、株主との対話が促進されたとのことです。また、距離の観点からまったくこれまで参加しなかった人が参加できたのも大きなメリットだったそうです。
事例2:一人でも多くの株主にご参加いただきたい
2つ目の事例です。こちらの企業は次のような課題を抱えていました。
- 一人でも多くの株主にご参加いただくためオンライン化したい
- バーチャル株主総会の運営に必要なノウハウを知りたい
コロナ禍前から参加が少なかった企業だったため、オンラインを取り入れてみようと考えたとのこと。今後、出席型やオンリー型にチャレンジするために、まずは参加型から手掛けて自社にノウハウを貯めたいという課題もお持ちだったそうです。
開催した結果、
- 参加した株主からの指摘もなく、無事に終了した
- 事務局としてバーチャル株主総会の運営経験を積めた
とのことです。
また、出席型、参加型での株主総会となると、オンライン配信にばかり目が行きがちですが、現場のレイアウトも重要だというお話もありました。株主さんの導線や映り込みへの対策は、会場とかなりの連携をしないとバーチャル株主総会・参加型、出席型は成功できないそうです。
バーチャルオンリー型の支援事例
バーチャルオンリー型 1つ目の事例
ひとつ目の事例は、Sharelyで手掛けることも初めてだったため、さまざまな観点から検討・分析を行い手掛けたとのこと。
バーチャルオンリー型は完全オンラインでの開催になります。開催会場と相談しつつ、発行会社の弁護士とも綿密な打ち合わせをして法律に問題がない形を遵守した形で開催。インターネットに疎い株主に関しては、原則として事前の議決権行使を促す形で進めたそうです。
開催にあたっては不安な点もあったといいます。たとえば、オンラインの参加が難しい株主さんに対してどうケアをするのか。バーチャルオンリー型は会場が存在しないためどうするか、というところです。
経済産業省に確認すると、なんらの配慮もないのはマズイとの回答だったとのこと。どうしてもオンラインにアクセスできない方にはヘルプデスクを用意したり、FAQを設けたり、事前の議決権行使を促すといった配慮が必要だったそうです。
また、システム自体は問題なくてもたまたまログインできないこともありますので、違うURLでライブ配信を用意したりと、導線を何重にもわたって用意したとのことです。
バーチャルオンリー型 2つ目の事例
株主数が6000名程度。Sharelyが支援する前は自社でバーチャル参加型の株主総会を運営していたのですが、初めてバーチャルオンリー型で開催するにあたってSharelyが支援したとのこと。
開催にあたっては、本社のセミナールームを1フロアまるまる会場にしたそうです。Sharelyからはプロジェクトマネジメントとして大島氏が責任者として運営し、テクニカルスタッフが3名、カスタマーサポート1名の万全な対応を行ったとのこと。
バーチャルオンリー型のメリットは、会場で参加している株主さんの映り込みや導線の配慮をしなくて良いので、自社らしい株主総会、自社らしいイベントに近い株主総会を作れるところだと大島氏は語っています。
これらの事例を持つバーチャル株主総会支援サービスSharely 。Sharely はマネックス証券を運営しているマネックスグループの子会社であるコインチェック株式会社が運営しています。暗号資産取引所を作ったエンジニアが監修している点が他社と比較した際の強みだと語っています。
(後編へ続く)