GVA TECH株式会社では、テクノロジーで契約業務に関する課題の解決を目指すだけでなく、弁護士の先生方へお役に立つような情報発信を行っています。その一貫として、弁護士の先生向けに、業務効率化や顧問獲得に関するセミナーも開催しています。
今回は、弁護士の業種特化をテーマに、IT業界、医療業界に特化している弁護士にご登壇いただき、そのノウハウを余すところなくお話しいただきました。
- 最初の顧問先10社をどうやって獲得するのか?
- 特化することのメリットは?
- 他業種をやらないことのデメリットは?
- 業界知識を身につける方法は?
など、業種特化の際に気になるポイントを、具体的な事例を元に語っていただきました。
パネラーとしてご登壇いただくのは、IT業界に特化した弁護士として知られるファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士 藤井 総先生と、医療機関に特化しているよつば総合法律事務所 京事務所 所長/弁護士 川崎 翔先生です。
ホストを務めるのは、弊社の代表であり、GVA法律事務所 代表弁護士の山本 俊。
本まとめは前後編でセミナーをレポートいたします。
藤井 総 先生
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
代表弁護士
2007年に弁護士登録(旧60期)。2015年に事務所を開設。「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことをミッションに掲げて、ITサービスを運営する企業に特化して法律顧問サービスを提供している。クラウドサービスを活用することで業務を徹底的に効率化し、勤務弁護士やスタッフを使うことなく、たった1人で約70社の顧問先に対応しながら、コロナ禍の前は毎年100日以上海外を旅していた。
川﨑 翔 先生
弁護士法人よつば総合法律事務事務所
東京事務所 所長
2009年に弁護士登録(新62期)。父(開業医)や弟など親族に医師が多いこともあり、2017年から医療機関の顧問に特化。2017年12月には、医師とスタートアップ企業を創業し、執行役員に就任。2019年4月には、医療法人の承継を受けて理事に就任。クリニック立ち上げから、受付業務、レセプト請求などの現場を経験。医療機関の再生から行政対応(個別指導)まで、現場に則したアドバイスを得意とする。
モデレーター:山本 俊
GVA法律事務所 代表弁護士
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで49位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「GVA(ジーヴァ)」シリーズの提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。
その業種に特化した「理由」
IT業界に特化しているファースト&タンデムスプリント法律事務所の藤井 総先生、クリニックや診療所などの医療機関に特化しているよつば総合法律事務所の川﨑 翔先生。
それぞれに、まずは気になる顧問先の数についてお伺いしました。
藤井先生:
現在の顧問先はおよそ70社。内訳は、90%以上がITサービスを提供している企業やIT関連機関で、すべて藤井先生おひとりで対応している。
川﨑先生:
川﨑先生個人の顧問先は約40社。そのうち80%以上が医療機関。
山本:
GVA法律事務所全体でおよそ250社。そのうちスタートアップ企業が約90%。
それぞれ特化している業種の顧問先が80%以上という高割合。
他業種からの依頼にどう対応しているか伺うと、藤井先生は「ITサービス以外の企業からご依頼が来ても受けず、知り合いの先生を紹介している」、川﨑先生は「同じ事務所のアソシエイトに振っている」とのこと。
おふたりとも、他業種の顧問は新規に受け付けないというスタンスのようです。
特定の業種に絞って弁護士としての活動を続けていくという決断はどのように下されたのか、藤井先生、川﨑先生それぞれ、独自の戦略がありました。
藤井先生:
もともとITサービスが好きだった藤井先生。23歳で弁護士登録した際、若さがデメリットとなり「重厚長大な企業から依頼は来ないと思った」(藤井先生)。若さを武器にできるならIT系、加えてIT業界は今後伸びる、金銭的に余裕のある企業も多いだろうと考え、アプローチを掛けていった。
川﨑先生:
実家が開業医だったため、子どもの頃から病院が身近だった。開業医特有の問題点や悩み、困りごとをある程度理解していた上、医者ならではの価値観や物の考え方、大事にしていることなどもある程度把握できていた。
藤井先生は「好き、若さ、今後の業界の発展」を考えてIT業界への特化を決めたとのこと。先生として活動を続ける前から、自身で趣味のWebサイトを立ち上げ運営しており、自分の得意分野であったことも特化の理由のひとつだったようです。
川﨑先生は「小学生の頃は救急隊からの電話も取っていた」と語るほど、医療が身近に合った環境。開業医だった父親の背中を見ている中で、診療しつつ病院を経営するドクターたちを支援したいという思いが高じていったと語っています。
スタートアップ支援で知られるGVA法律事務所を作った山本も、スタートアップ支援を初めた理由のひとつは「楽しかったから」と答えています。
「弁護士1~2年目の頃、いろいろ動き回っているうちにスタートアップ界隈の方々と知り合いました。彼らが生み出している新しいビジネスの話を聞くのが楽しかったんです。それで専門の事務所を立ち上げた感じですかね」(山本)。
とはいえ、ただ「好き」というだけで特化する業界を決めるのは早計だと藤井先生は分析しています。
「アーティストが好きだからアーティスト支援専門の弁護士になるといっても、世の中のアーティストの大部分がそれ一本で食べて行くのは難しいわけです。そういった方々が個人で月に5万円の顧問料を払うかといったら払わないですよね。そう考えるとアーティストをターゲットにするのは難しいかもしれません」(藤井先生)。
その業界が一定の顧問料を支払えるだけの体力を備えているのか、冷静な分析が必要ということでしょう。
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最初の顧問先10社をどのように獲得したか
現在の業種に特化して、最初に獲得した顧問先10社はどのように開拓したのか。
それぞれ異なる業界のスペシャリストとして知られる両先生、モデレーターを務めた山本、それぞれ開拓方法にも違いがありました。
藤井先生:
「IT弁護士」を謳ったWebサイト、知り合いのIT業界のコンサルタントからの紹介、IT業界でのセミナーの3ルートで主に開拓。
川﨑先生:
開業医である父親からの紹介、医師会での講演で知り合った医師などで開拓。
山本:
積極的に異業種交流会やセミナーに参加、名刺交換から継続的にアプローチし開拓。他にもスタートアップ法務の全体図を解説するセミナー講師を務め、そのセミナーから顧問先となった依頼者も。
現在はWebサイトからの集客が中心と語る藤井先生も、特化当初は苦手な「飲み会営業」にも行っていたと、昔を振り返って語っています。
「私はお酒が飲めないので烏龍茶で付き合うのですが、あれはしんどかったですよね。飲み会は自分には向かないと思って、Webサイトに力を入れるようになりました」(藤井先生)。
現在は、Webサイトから継続的に受任していると語る藤井先生は、Webマーケティングでの注意点についても具体的なアドバイスを行っています。
「以前はそのジャンルについて、さまざまな記事を載せた情報集約型のWebサイトを作るだけで依頼が来たのですが、いまはそのようなサイトが乱立しているので、同じようなサイトを作っても問い合わせには結びつきにくいでしょう。現在は、情報集約型というよりも、自分の実績や仕事のスタイルなどを発信することで、自分のファンになってもらう形でないと選ばれなくなっています」(藤井先生)。
とはいえ、競合がいない新分野であれば差別化は不要。「競合がいないのなら情報集約型のサイトでも純粋に目立ちます」(藤井先生)と、チャンスはまだ潜んでいるとも語っています。
業種を絞ることで得られる「メリット」
業種を絞ることで得られるメリットがあります。
同じ業種のため、似たような相談や案件が蓄積されることで向上する業務効率。同業他社からの紹介が増加する、同業が集まる場所に顔を出す機会が増えることで営業効率も高まり、業務効率や営業効率が向上することで、利益率の改善も期待できます。
医療機関に特化している川﨑先生は、IT業界に特化している藤井先生に相談した際のエピソードで、業務効率向上の効果を語りました。
「以前、IT案件の質問を藤井先生にお願いしたんです。そうしたら秒で回答が返ってきたんです。業種特化によって業務効率が高まるというのはこういうことかと実感しました」(川﨑先生)。
このときのことを振り返って、藤井先生は次のように話しています。
「あれは回答がChatwork(チャットツール)に残っているのを検索したんです。過去に自分がした回答が一瞬で出てくるので、あとはそれをコピペするだけです」(藤井先生)。
以前は、蓄積した知見をEvernote(メモツール)で分類・管理していたとのことですが、分類作業が煩雑となったため現在では行っていないとのこと。Chatworkにすべて質問と回答は集約されているので、必要なキーワードを検索することで、自身が過去に対応した質問と回答にアクセスできるようになっていると語りました。
また、前述の「業務効率、営業効率、利益率の改善」以外にも、「集客効果」「QOL(Quality of life、生活の質)の向上」もあると、藤井先生は実感しているそうです。
「IT業界に特化して、IT+弁護士と検索したときに上位表示されることで、問い合わせが来やすくなるのです。また、もうひとつメリットがあって、QOLなのです。毎回知らないジャンル、知らない業界から相談が来たら、法律以前に業界の慣習や用語、考え、進め方の手順などを勉強しないといけません。それらを毎回調べるのは、知識欲は満たされるかもしれませんが正直つらいですよね。でも、特化しておくと、すぐに相手と簡単に理解し合えるので、仕事が楽になる。そうするとQOLが上がるというメリットがあります」(藤井先生)
特定の業種に特化して、知見と経験を蓄積していくことで得られるメリットは大きいようです。
業界特有の知識を身に着ける「方法」
業種に特化する以上、業界の専門知識は不可欠になります。
業界特化に成功し、顧問先を増やしている先生は、どのようにして知識を蓄えていったのでしょうか。
藤井先生:
業界の人に聞く。IT業界の法律相談を受ける中で、なぜそういう問題が起きたのかを深堀りしていくことで、業界特有の慣習や構造を理解できた。また、業界関係者が参加する飲み会に顔を出し、業界人同士の会話からも学ぶことが多かった。
川﨑先生:
医師である父と弟に、医療専門誌に掲載されている興味深い記事(法律系、トラブル系)のスクラップを依頼し、事例を収集。業界特有の空気感や慣習は、弁護士資格を取得する前から、実家のクリニックで体感していた。
山本:
スタートアップ法務を解説する書籍をすべて読破。企業法務ファイナンスに関する書籍やメルマガから、資本政策や新しいファイナンススキームについても研究。流し読みをするのではなく、書いてあることをすべて理解することで、他者と差別化した。
3者それぞれ、自分なりの方法で業界知識を習得していったようです。
書籍やヒアリングで学ぶだけではなく、実際の案件をこなすことで学べることも多くあります。実績が乏しい初期は、あえて無料または安価で相談を受け、実績を積むと同時に知見を貯めるという方法も明かしています。
「僕も昔、1ヵ月5社限定でIT業界の契約書チェックを無料で行うキャンペーンをやりました。チェックをする中で相手からヒアリングして、業界特有の契約問題を理解していったんです。僕が知識を学ぶ場であるのと合わせて、チェックして問題点を指摘して、『有料ですが修正しますか?』と営業を掛ける場としても活用しました」(藤井先生)。
医療業界という特殊な世界に特化している川﨑先生は、「暗黙知や空気感も大事にしている」と語ります。相手との共通言語で会話をすることで、信頼感を得ることも大切なようです。
「暗黙知、空気感は触れていないとわからないと思っていたので、常に業界関係者に触れるようにしていました。特化当初の見込み客は、ほとんど父からの紹介や関係者でしたが、『こいつわかってるな』と思ってもらうには共通言語で話せるというところが大切だと思っていました。先生のところの電子カルテ、うちと一緒ですよとか、最近あの機材の不具合出ましたよねとか、くだらない話ができるところで、うまくやれていたのかなと」(川﨑先生)。
特化する際には、法的な知識はもちろん、実務的な知識や技術、業界ならではのルールや共通言語までカバーすることが大切ということでしょう。