2021年4月16日、日清食品ホールディングス株式会社のCLO・執行役員、ジェネラル・カウンセルを務める本間正浩氏をお招きし、オンラインセミナーを開催しました。
日本のインハウスローヤーの可能性を切り拓き、後進の育成にも注力し続けてきた先駆者が語る、法務パーソンの限りない可能性とは?
当日のセミナーの模様を、前後編に分けてお届けいたします。
本間 正浩氏
日清食品ホールディングス株式会社
CLO・執行役員、ジェネラル・カウンセル
1989年弁護士登録。10年のプライベート・プラクティスの後、1999年、GEエジソン生命保険(株)執行役員・ゼネラル・カウンセルとなり、企業内法務に転身。その後、デル(チーフ・リーガル・カウンセル)、GEコンシューマーファイナンス(チーフ・リーガル・オフィサー)、新生銀行(法務部長)等を経て2013年より現職。
日弁連弁護士業務改革委員会・企業内弁護士小委員会座長。Executive Committee member, ACC Asia GC100、日本組織内弁護士協会海外事情研究会座長
「これからの企業法務の話をしよう」
リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方とディスカッションするセミナーです。ゲストと弊社の山本との"未来の企業法務のあり方"に関する議論を通じて、法務部門の組織づくりのヒントをお届けします。
目次
パートナー機能とガーディアン機能
本間 正浩 さん(以降、本間):
ジェネラル・カウンセルは何をするべきなのでしょうか。
先ほどご紹介した「あり方研究会」でも議論されています。「グローバル化の進展」「イノベーションの加速」「コンプライアンス」という3つを軸に、企業が直面するリーガルリスクが複雑化・多様化していると。それに対応するために、企業法務を強化する必要があるということで、経産省が旗を振っているわけです。
その中で、企業法務に求められている機能でよく言われるのが2つの機能です。
ひとつは「パートナー機能」。ビジネスと一体のチームのメンバーとして企業の積極的な発展に貢献することですね。
もうひとつが「ガーディアン機能」。企業に法令等を遵守させ、リスクを回避して企業を守る、このふたつが重要であるとされています。
この両者ですが、まずは、お互いが相対立、緊張関係にあることは容易にご理解いただけると思います。しかし、それでは終わりません。先ほども申し上げたとおり、ジェネラル・カウンセルは結果を出せなければならない。であれば、このふたつは対立しているだけではなくて、一種の循環関係があると私は思っています。
パートナー機能の前提にガーディアン機能
まずパートナー機能ですが、ジェネラル・カウンセルは強力なガーディアンであることが「前提条件」だと思っています。
利益追求のあまり、違法行為に走って制裁を受けたというのでは、企業を発展させたとは言えません。むしろ、ビジネス目的を達成するためにギリギリを狙えば狙うほど、一線を越えないために的確な判断と、その判断に従ってビジネス側が我々の言うことを聞いてくれる、コントロールができるということが要求されます。
「あり方研究会」報告書一節に、「パートナーとしてテニスコートの全面を使ってプレイをする」という比喩が出てきます。しかし、これは闇雲に強い球を打ち返せばいいということを意味しているわけではありません。
どんなに強い球を打っても、ラインから1センチでも外に出たらそれは「アウト」なんです。ということは、ギリギリを狙えば狙うほどしっかりとボールをコントロールしなければならないということなんです。
会社を潰してしまって、パートナーもなにもあったものではありません。
パートナーとして信頼されてこそのガーディアン
一方で、ガーディアン機能です。判断の実現ということを考えた場合、ビジネス側がこちらの言ったとおりに動いてくれなければガーディアンの機能は果たせません。こちらの言ったとおりに企業が動かなければ企業を守れないんです。
そこで、企業が我々を信頼してくれなければ、ビジネス側の人たちは我々の言葉を聞いてくれないわけです。どんなに正しいことを言っても、聞いてくれなければガーディアンとしてなんの意味もない。結果を出すという意味においても同様です。
となると、ガーディアンたるためには、信頼されるパートナーでなければなりません。常に「ノーノーノー」「これは違法です、やってはいけません」と言ってばかりでは、重要な議論、意思決定やその他の主要な企業活動から排除されてしまい、結果的にガーディアンの機能を果たせなくなってしまいます。
決して、パートナーとガーディアンは二者択一ではなく、そのふたつの機能を同時に果たさなければならない、そこが我々の仕事の難しさです。
「守りの法務」は結果を出せていなかった
「あり方研究会」報告書にも言及されていますが、最近よく言われるのが、「守りの法務から攻めの法務へ」という言葉です。これまでの日本の法務機能は守りだったと。これからは攻めの法務、パートナーとして企業と一体となって攻めなければならないと言われています。
しかし、私の認識するところによれば、これはパートナー&ガーディアン機能とは別の議論であると思っています。
もし、今までの法務機能が「守りだった」ということであれば、ガーディアンとして結果を出せていたのか?ということなんですね。
ガーディアンならば、会社を守ったという結果を出さなければならない。でも、守りだと言いながら、これも「あり方研究会」報告書からの引用なのですが、 「法務部門の判断での重要案件の変更につき、日本では(中略)『助言のみ』が59.8%である」、つまり結果に影響をもたらしていないんです。ここでいう「守り」というのはリスクの指摘にとどまっているわけです。
つまり、これは「正しいことを言いました」というだけの法務だったのではないかと。ならばこれは、ガーディアンではありません。そして、ガーディアンでないのなら、パートナーでもありえないわけです。
よく「守りの法務から攻めの法務へ」というのを、パートナー&ガーディアン論と一緒くたにして理解されている方がいますが、私は違うだろうと思っています。
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ジェネラル・カウンセルの落とし穴
最後に「ジェネラル・カウンセルの落とし穴」についてお話しします。
ジェネラル・カウンセルが企業のことを考えて、ギリギリのところを狙おうとする、一所懸命やればやるほど崖にギリギリまで近づいていき、気が付かないうちに、いつしか転落する、これが我々の落とし穴です。
職務に誠実であればあるほど、諸要素を誠実に検討したあげくに、バランスを失してしまい、知らず知らずのうちに崖に近づき、やがて転落してしまう危険性があります。しかも、どこに崖があるのか、客観的に知るすべはありません。
ジェネラル・カウンセルは「正解のない世界」で結論を出すことを求められる仕事である、ということです。
特に銘記するべきことは、我々が信頼されて、企業の中で影響力を持てば持つほど問題は深刻になるという点です。我々の影響力が高まれば、我々の言うことがそのまま通ってしまうんです。ということは、私が誤った判断をしたら、会社はコケるんです。会社を危険にさらしてしまうという結果に直接結びつく、そこがジェネラル・カウンセルというポジションの恐ろしさです。
これは英語で「Double Hatting」という言い方をしますが、これは「二足のわらじ」とでも意訳できるでしょうか。ジェネラル・カウンセルは専門家としての判断と、マネジメントとしてビジネスを進める判断が衝突する、その部分のバランスを取らなければならない役割を担っていることを表した言葉です。
最後に、イギリスの「Yes, Prime Minister」というTV風刺コメディーをご紹介します。これは、信頼されたジェネラル・カウンセルの姿、その怖さにも通じるところがありますので読んでみてください。
新たに首相に就任した主人公が軍司令部に案内され、一つの装置を見せられる。そこでの主人公と案内役の将軍との会話
※一部編集「これは何だね」
「核ミサイルの発射ボタンです。これでミサイルが発射されます」
「(うろたえて)そんな単純なことなのかね」
「はい」
「私がそう言えばそうなるのかね」
「はい」
「誰か、私に異論を唱えるものはいないのかね」
「まさか。軍人は異論なく命令に従います」
「もし、私が酔っていたらどうなるのだ」
「安全のために、そうされないことをお勧めしますね」
「(すがるように)もし、引き金を引いて、そのあと考えが変わったら?」
「ご心配なく。そのことを知るであろう人はおよそいないでしょうから。は、は、は」
「首相、これがあなたが就きたがっていた仕事ですよ」
きついブラック・ユーモアですが、意味がお判りでしょうか。
駆け足になってしまいましたが、時間になってしまいました。ここで一区切りとします。ありがとうございました。
質疑応答
信頼を獲得するためには?
山本:
本間先生、ありがとうございました。参加者の方々から、いくつか質問が来ています。
「ベンチャー企業のCLOをしています。判断したことを実行してもらうために、社内政治も必要とおっしゃっていました。特に管理部門間での信頼獲得をするためにしたことや、エピソードがあれば教えてください」
本間:
変な言い方なんですけど、パフォーマンスですよね。思い切って、思い切ったことを言っちゃうんです。アグレッシブなことを常に言う。
もちろん前提として、アグレッシブな意見を発信したあとで、万が一失敗したときにどう挽回するかは常に考えているんですよ。もしも何かあってもボヤで済むように。
そうやっていても、いつか「絶対にダメです!」と言わないといけない場面が出てくるんです。そのときに、いつもあれだけアグレッシブなことを言ってビジネスをサポートする結果を出している彼が「ダメだ」と言うのであれば、ここは本当にダメなんだろう、ならば仕方がないで通るんですね。
なにより大切なのは逃げないことです。たとえば、よく弁護士もやるし法務部員もやってしまうのは、「こうすべきです」と意見を言った上で、「これには実はこういうリスクがあります」と伝えて逃げたつもりになっている。これは僕はやるべきではないと思っているんです。
あとで問題になったとき、「僕はあのときリスクがあると言いましたよね」と言ったところで、誰も聞いてはくれませんよ。言い訳としてしか受け取ってくれないんです。だからなるべく明確な回答を出す。
ただ、失敗がボヤで済むように後始末はしないといけませんけどね。答えになったかな。具体的な話ができれば面白いんですけどね、さすがにね。
法務パーソンに弁護士資格は必要?
山本:
次の質問です。「企業法務を担当する者にとって弁護士資格は必須でしょうか」
本間:
これはセミナーの中でもお話しましたが、必須ではありません。
専門的な技量を持っていて、プロフェッショナルとしてのアイデンティティを持っているかどうかが重要であって、弁護士であることは必須ではないと私は思います。
ただ、弁護士であること、より正確に言えば自分が弁護士であるという意識、これはプロフェッショナルとしてのアイデンティティを保つ役割を担うでしょうし、あるいは弁護士であれば、外から彼は法律の専門家でありプロフェッショナルであると思ってもらうための重要な証拠ですよね。
ロイヤーだというと、世間の人々は一定の水準はあるんだろうと思うわけですよ。それがなければ、自分がそれだけの専門家であることを実質的に証明しないといけないわけです。それは意外な負担です。
先人から後進へのアドバイス
山本:
まだまだたくさん質問が寄せられているのですが、時間の関係で最後の質問です。
「大変、感銘を受けました。本間先生より、これから法務としてさらにキャリアを進める若輩者に対して、なにか一言アドバイスをお願いします」
本間:
がんばって、だけではだめ?(笑)
面白いですよ、インハウスは。特に偉くなればなるほど責任も増えますが、自分のやれること、権限も大きくなるので、やっぱり面白いですよ。
こういう言い方をすると語弊があるのですが、自分の言葉で社長が動いた、会社が動いた、1センチでもビジネスが前に進んだ、10度でも会社の進路の角度が変わった。これを自分の力がやったことだと感じられる、これって大変な快感なんですよ。ということなので、がんばってください。
何度も言って申し訳ないんだけど、結果を出すかどうか。ここがポイントだと思います。そこはしょうがない、そして運もあるんです。それも含めて、結果は結果でしかないんです。
運も実力なんですけど。上手にチャンスを捕まえられるのかどうか。つかめるかどうかは腕ですよね。チャンスをつかんで評価してもらって、高みに登るというのがインハウスとしては、弁護士資格の有無は直接関わりなく、法務というのはそういう意味で面白いと思うんです。
もうひとつ、法務というのは最後は「正義」だと思えるんですよ。
数字も大切なんだけど、正義を守る仕事をしながら、尊敬されてお金をもらえる仕事ですから、非常に楽しい。大変ですけどね。責任を負わなければならないというところは大変なんだけど、そこはクソ度胸とエイヤ!でがんばってください。
山本:
本日は貴重なお話をありがとうございました。
本間:
とりとめなくなってしまいましたけど、皆さんまたお目にかかりましょう。
本日はありがとうございました。