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企業の失点を防いで価値を上げる 常識の向こう側にある、新たな法務の「カタチ」(後編)

株式会社SmartHR(東京都港区)は、国内No.1のシェアを誇るクラウド型人事労務ソフトを提供し、急成長を続けている。同社で法務部門の責任者を務めるのは小嶋陽太弁護士。小嶋氏は、弁護士、事業会社、両面での経験を元に「法務の未来には大きな可能性がある」と語る。これからの法務の新しいスタイルや考え方について話を伺いました。

前編はこちら


「これからの企業法務の話を聴こう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方に、そのお考えや実践内容についてじっくりお話いただくインタビュー企画です。

これからの企業法務について

接点をもつ、怒らない、代案を用意する〜心がけているポイント

ーー小嶋さんがお考えになる新しい法務のスタイルという点において、ひとつ「コミュニケーション」というのがキーワードになっていますね。誤解なく相手に伝える、必要なことを屈折させることなく社内にインストールする、他部署から適切に情報を収集する、これらを上手に行うコツなどはありますか?

小嶋陽太氏(以下、小嶋):
接点をもてそうな場面では、積極的に他部署のメンバーと交流をもつことは意識しています。法務の人間として、相談以外の文脈で接点をもてたほうが自分にとってもラッキーですので、飲み会しかり、当社で実施している全社シャッフルランチなどもできる限り出るようにしています。

そういった場で接点があると、相談の場面に至っても「あのときはどうも」から入れますから、スムースに話が進みますよね。法律相談のために飲み会に出ているわけではないですが、結果的に生きていると思います。

ーー法律相談の際に気をつけているコミュニケーションのポイントはありますか?

小嶋:
当社の法務メンバーはみな同じかと思いますが、相手を否定しないことは意識しています。相談の際には、さまざまなミスについても話を受けることもあると思うんです。そんなときでも否定はせず、相談してくれてありがとうという気持ちをもって対応しています。

「なんでこんなことしちゃったんですか?」といった言葉を使ってしまったら、もう相談したくないと感じると思いますし、むしろ「伝えてくれてありがとうございます」というコミュニケーションを心がけたほうが、次も報告や相談をしてくれると思います。

ーー法務として、相談に対してNGを出さなければならない場面もあるかと思います。そんなときにはどうされていますか?

小嶋:
月並みですけれども、ただ「ダメ」というのではなく、代案を準備するということですよね。プランAは法的にNGで、安全なプランBだと効果が低いといったケースはよくありますが、法務から両方のニーズを満たせそうなプランCを提案することを心がけています。

そうすることで、法務に相談しても否定もされないし、なんとか別の案も出てくるしと、話をしてもらいやすい環境ができているかなという実感があります。

ーー相談すれば、なんらかの解決策が出てくるというのは心強いですね。

小嶋:
相談にくる人たちも、「このプランではダメかもしれない」とはわかっていることが多いですよね。そのときに、プランCが出ることを期待して相談に来てもらえれば、そこでコミュニケーションが発生します。逆に過去にプランCを提示していなければ、新たな相談自体も発生していないかもしれません。そうなると、問題が潜在化してしまって、いつか大爆発してしまう可能性もあります。

とはいえ、NGの場面でも「ダメ」と言えず、なあなあになってしまうのはもっとよくありません。トラブルの温床になってしまい、後に違反や炎上につながってしまうので、やわらかい姿勢とダメと言える強さの両立が、法務パーソンには求められるのではないかと思います。

ーー温床化させないためのコミュニケーションの入口として、飲み会やイベントについて触れていらっしゃいましたが、そういった場では仕事の話ではなく雑談をされているのですか?

小嶋:
はい、雑談です。当社では、人事部主導で定期的に100人以上の規模のオンライン飲み会やランチを開催しています。コロナ禍の影響で、対面でのリアルイベントが難しい状況ですので、こういったオンラインイベントで他部署のメンバーとは接点をもつようにしています。

法務部門に限らない課題ですが、当社の場合、毎月10名以上の社員が新たに増えている状況のため、能動的に接点をもつように動かなければ、なかなかコミュニケーションを取ることが難しくなりつつあるんです。法律相談の際も「先日はどうも!」と一言交わせるだけでも違うので、こういったイベントは大変ありがたいですね。

ーー法務の皆さんは、一般的に仕事量に比べて人員が少なく、日々の業務に忙殺されやすい部署だと伺っています。お忙しい日々の中、いかに業務を効率化していくかが課題のひとつではないかと思うのですが、SmartHRさんではどのような取り組みをされていますか?

小嶋:
実はまだリーガルテックを使い倒すところまではできていません。当社の法務組織がまだ小さくて大幅な効率化が望みづらいということもあり、現在はまず、ツール利用の前提としてどういう運用・フローが適当なのかを構築・調整している段階です。

並行して、自社内の他部門がどのような取り組みをしているかを調べることもしています。一般論として、法務パーソンだけだと効率化などのアイディアはなかなか出にくいところがありますので、当社の情報システム部や経理部などの他部署がどういうツールを利用しているか、他のツールとのつなぎこみを進めているかなどを知るのは非常に参考になります。

ーー法務部に寄せられる期待が大きくなっていくことに比例して、法務部の皆さんが新たな分野の情報や知識を入れていくことも求められていますね。業務を効率化して、空いた時間で新たなチャレンジをする、そういった動きが今後必要になっています。

小嶋:
そのとおりだと思います。それが前編でお話した、法律を飛び越えた活動につながっていければ素晴らしいと思いますし、法律も日々変化しているので、そちらの理解も必要ですよね。

電子契約ひとつ取っても解釈が目まぐるしく進化していますし、業界知識のキャッチアップや、自社のプロダクト理解も含めて、視野を高く持って情報収集や勉強に時間を割きたいと思っています。



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法務の可能性を拡げた先にあるのは「法務以外のなにか?」

ーー前編では、法務に求められる新たな可能性のひとつとして「リスク管理の専門家」への道についてお話をいただきました。新しい分野に法務の業務を拡大していくためには、法律以外の分野に目線を広げることが必要になっていきます。これらの業務は、従来の一般的な法務部の業務からは少し外れている印象です。

小嶋:
たしかに、契約書レビューのようなピュアな法務業務とは少し毛色が異なりますね。やはり、日々の業務の中で浮いた時間で、いかに別の分野に意識を割けるかというところがポイントなのではないかと思います。その先に、活躍の余地が広がるかもしれないと思っています。

ーーレピュテーション対策などのリスク管理は、実際にことが起こっては困りますが、万が一、起こってしまったときには重要な役割を担えます。

小嶋:
リスク管理やガバナンスという点に活躍の余地があるとすると、レピュテーションの問題に限らず、いろいろな分野で可能性があると思うんですよね。

たとえば、M&Aをする際に、それがお客様や市場にどう受け止められるのか、CFOだけでなく法務担当者もステークホルダーを意識して「こういう理由でこのM&Aをします。種々のリスクもありますがそれらも考量した上でこの意思決定をしています」と説明できるように準備する。

法律のみならずリスクの検討に強みを持つ法務担当者が関与を高めることで、より良い意思決定につながるのではないかと思います。

また、新規事業を生み出す際も出番がありうると思っています。社会情勢やESG(環境・社会・ガバナンス)など、社会でどのような動きが期待されているかというところも新規事業とは無関係ではありません。そういった、ステークホルダーを意識することで見える視点は、レピュテーション関係以外の部分でも有効だと思います。

ーー高くアンテナを張って、社会全体を見渡す視点が必要になりますね。

小嶋:
そうですね。私も得意ではありませんが、意識するようにしています。

ーー法務の業務から始まって、役割がどんどん拡大していくと、最終的には能動的にビジネスに生み出して、事業を大きくしていく価値を生み出せる可能性がありますね。

小嶋:
たとえば、新規事業を立ち上げるというのは、法務から遠いところにあるように見えますが、法務の皆さんも事業を推進するために日々の業務にあたっているわけですから、実は業務の延長線上にあるのかもしれません。まずは、自身の得意なところから高めていって、そこからどんどん視野を広げていった結果、事業開発に行く方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ーー選択によってはジョブチェンジしている可能性すらありますね。

小嶋:
新規事業創出の部分に興味関心があったらビジネスサイドへ、リスク管理に興味があればリスク管理委員会へなど、さまざまなパターンがありそうですが、頑張りによって可能性の門戸は広く開かれているかもしれません。ただ他部門の方々との厳しい競争に参加するということなのでより一層の精進が必要ですね。

急成長企業で経験を積みたい法務パーソン求む!

ーー株式会社SmartHRさんは、売上、人員規模ともに急成長を続けていらっしゃいます。その急成長企業で、法務部門の責任者としてご活動されているわけですが、やりがいを感じる部分はどこですか?

小嶋:
おかげさまで、急成長する企業を中から支えるチャンスに恵まれた、という点はそのままやりがいに繋がっています。

急成長するがゆえに、急速にメンバーが増えたり、社会的な責任が大きくなったりする部分への対応は決してラクではありませんが、それも大きなやりがいです。たとえば、2021年1月だと入社が19人だったのですが、これが1年ではなくて1ヵ月の人数というところは自分の勤める会社ながら驚きます。

この先、より大きな規模になって、ステークホルダーの皆さまからも中長期的に評価いただける企業になった場合、それは法務のみんなの功績でもあると思っているので、そういった部分にもやりがいを感じますね。

ーーお話を伺うだけで刺激的な毎日ですね。

小嶋:
本当にそうですね。組織の急拡大とともに、法務部門も増員していかないと耐えられなくなっていきますので、先取りして組織運営を考えなければいけないと思っています。そういったことは、法律事務所時代には考えたこともありませんでしたので、新たな経験として日々、試行錯誤を続けながら頑張っています。

ーー株式会社SmartHRの法務部門の責任者として、今後どのような人材と一緒にお仕事をしていきたいと考えていますか?

小嶋:
全分野で人手が足りないので、ベンチャー企業ならではの変化や進化が苦にならない方であればどなたでも、まずはカジュアル面談をお申し込みいただきたいと思っています。当社では今後さらにコーポレートアクションが増えていく可能性がありますので、コーポレート法務にご興味がある方はぜひご応募ください。

また、当社は多くの個人情報を扱うビジネスを営んでおり、お客様にご安心いただける情報管理が求められる企業ですので、個人情報の管理や法制に興味がある方も、ぜひご連絡いただければと思います。

ーー多岐にわたる業務を経験できそうですね。ちなみに、入社後すぐにこれらの業務を行えるのですか?

小嶋:
できますと言いたいのですが、これはご本人と既存メンバーの努力次第かもしれません。

というのも、現在、当社ではこれらの分野の担当者が確立しているわけではありません。つまり「法務部の仕事である」という整理にもなっていないので、まずは法律相談などの既存の法務業務を通じて社内の信頼を得た上で、会社から任せてもらえる分野を徐々に広げていく必要があると考えています。

従来の法務部門の業務も回していただきつつ、法務パーソンの新たな活躍の余地を作りたいという「いいとこ取り」ではあるのですが、両面含めて一緒に取り組んでいただけると嬉しく思います。

ーー厳しくも、やりがいがありますね。今日は興味深いお話をありがとうございました。

小嶋:
ありがとうございました。

(2021年4月取材)

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小嶋 陽太氏
株式会社SmartHR
コーポレートグループ 法務ユニット チーフ

小嶋 陽太
株式会社SmartHR
コーポレートグループ 法務ユニット チーフ

弁護士登録後、都内法律事務所にて企業法務から個人事件まで幅広い分野を担当。2014年から西村あさひ法律事務所にてキャピタルマーケット分野を中心に執務し、多数の国内企業のIPO案件等に関与。2018年に株式会社SmartHRに移籍し、以後同社の法務全般・資金調達・リスクマネジメント等を担当。

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