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企業の失点を防いで価値を上げる 常識の向こう側にある、新たな法務の「カタチ」(前編)

株式会社SmartHR(東京都港区)は、国内No.1のシェアを誇るクラウド型人事労務ソフトを提供し、急成長を続けている。同社で法務部門の責任者を務めるのは小嶋陽太弁護士。小嶋氏は、弁護士、事業会社、両面での経験を元に「法務の未来には大きな可能性がある」と語る。これからの法務の新しいスタイルや考え方について話を伺いました。

「これからの企業法務の話を聴こう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方に、そのお考えや実践内容についてじっくりお話いただくインタビュー企画です。

これからの企業法務について

株式会社SmartHR コーポレートグループ 法務ユニットチーフ 小嶋陽太 弁護士

事業側でのビジネスに惹かれてSmartHRへ

ーー小嶋さんは都内での法律事務所でのご経験を経て、4大法律事務所のひとつとして知られる西村あさひ法律事務所に転籍されていらっしゃいますね。

小嶋陽太氏(以下、小嶋):
弁護士になってから、はじめの4年は別の法律事務所で企業法務を含めて幅広い経験を積ませていただきました。やがて、自分自身に専門性を持たせたいと思うようになったころ、西村あさひ法律事務所のファイナンスの部署で弁護士を探しているとお声がけいただきまして、転籍することにしたんです。

もちろん予想はしていたものの、実際に入所してみると皆さんすごい方ばかりで、素晴らしい方々とご一緒できたのは幸運でした。

ーー小嶋さんは現在、SmartHRの法務部の責任者としてご活躍されているわけですが、それまでの8年間、弁護士としてご活動されていました。法律事務所から事業会社に移る際、どのあたりに魅力を感じたのですか?

小嶋:
やはり、より事業に近いところで仕事をしてみたいという思いですね。西村あさひ法律事務所では日々、充実した日々を送っていましたので、決して転職を考えていたわけではなかったんです。

SmartHRの代表を務めている宮田昇始(株式会社SmartHR代表取締役)とは、彼が起業する前からの知り合いでした。起業したSmartHRが急成長していることはさまざまなメディアや彼自身のSNSを通じて伝わっていて、刺激を受けていました。

当時、私は主にベンチャー企業のIPO案件などを担当していました。日々の業務を通じてベンチャー企業を身近に感じており、エキサイティングで面白そうな業界だなという想いは抱いていたんです。

一方で、弁護士としてIPO案件を担当する場合は、関与できるのは上場の1年前や半年前あたりから。ご依頼をいただいて、そこから上場に伴う膨大な書類を作ることが仕事の中心になります。それ以前のタイミングで直接関わることは少ないんですね。

より事業側で企業法務に関わってみたいという思いが高まった時期と、知人が設立した会社が急成長を遂げている時期がちょうど合致し、入社することになりました。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 法務ユニットチーフの小嶋陽太弁護士

企業の失点を防いで価値を高めるのが「法務」

ーー8年間、弁護士としてご活動された後に、現在では事業会社でひとりの法務パーソンしてご活動されています。立場が変わったことで、なにかご自身に変化はありましたか?

小嶋:
当然ながら、よりビジネスパーソンであることが求められるようになりました。法務パーソンである前にビジネスパーソンである、という点は違いとして感じます。

ーー具体的にはどのような点ですか?

小嶋:
弁護士は会社の外部から法律の専門家として携わります。その際、もちろんクライアントの事業についての知識は必要なのですが、現在のほうがより強く求められるようになりました。

法務パーソンの場合、自社のプロダクトの状況や、事業の成長具合、他部門や他の組織で誰が何をしているのかということを知らないわけにはいかないんですね。そういった社内の事情を把握せずにコメントをしても響きません。

なにか相談を受けて、そのままではゴーサインは出せない状況だった場合も、「ダメですね」というだけでは、「じゃあどうすればいいですか?」と当然、次の回答を求められます。その回答をするためには、自社についての深い理解がないとコメントできません。

守備範囲についても違いがあります。私は法務部門の責任者ではあるものの、法律のことだけを話しているわけにはいきません。聞かれることは、必ずしも契約書や法律の解釈ばかりではなく、組織体制上の懸念なども含めて、「なんとなくリスクのような気がする」といった相談も来るわけです。正直、このあたりになるともはや法律の知識はまったく使っていない気もします(笑)。

法律の専門家としての振る舞いだけを求められているのではなく、「企業の失点を防いで価値を上げる」、これが求められるようになったことが、弁護士との違いだと感じています。

ーー企業の失点を防いで価値を上げる、これは具体的にはどのような点ですか?

小嶋:
たとえば、わかりやすいのは炎上リスクです。世の中で炎上する事柄というのは、必ずしも法律に違反することが原因というわけではないですよね。

もちろん、原因がコンプライアンス違反等の場合もあるので法律の知識は大切なのですが、初動対応や記者会見での展開など、法律とは直接関係のない要素も非常に大きく影響します。

よく言われるように、外部の弁護士として関わる場合、立場や情報量の問題で最後はどうしても「最終的には御社のご判断になります」とか「法律では問題ありませんが」という回答で締めざるを得ず、その先はアドバイスしづらいところがあります。

一方、事業会社に勤める法務パーソンとして関わる場合、当社の規模だとまだレピュテーション専任の人材がいるわけではありませんので、その辺も含めて法務がケアに入っていますね。もしもネガティブインシデントが起きたら企業価値が毀損されてしまうところをどう守るのか、どう防ぐのかという部分ですね。

ーーそのニーズに応えるためには法律以外の知識や情報が必要になりますね。

小嶋:
まずは社内の情報について頭に入れておく必要がありますよね。たとえば、あの部署では個人情報の取扱いが多く発生するとか、あの部署はハラスメントが起きやすい状況にあるかもしれないなどといったことは把握できている状態が望ましいと思います。

書籍や研修でリスクマネジメントの基礎を学ぶことも大事ですが、そのまま同じ状況を自社に当てはめることはできませんので、自社の組織について正しく把握した上で応用することが必要かと思います。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 法務ユニットチーフの小嶋陽太弁護士

ーーいわゆる炎上など、レピュテーションリスクに対応するために、事前に法務部の方々ができることには、なにがありますか?

小嶋:
他社の具体的な事案を収集することです。幅広く具体的な他社事例について情報を集めていくと、どの事例が自社でも起こり得るのか、仮に発生したらどのくらいのインパクトがあるのか具体的にイメージできるようになりますし、社内で情報共有するときにも伝わり方が違いますよね。

実際に他社のこの事案では株価にこのくらいインパクトがありましたねなどと、具体例や数字を交えて話すと社内の皆さんにも理解してもらいやすいので、自社に合った事例の地道な収集は大切かと思います。

ーーレピュテーションリスクについては経営陣にも問題意識を共有しておく必要がありますね。

小嶋:
それも事例が有効だと思います。問題への対処のために記者会見が開かれたり、善管注意義務を問われる事態になっていたりすればするほど、経営陣にとっても身近に感じやすく、「自社で起こった場合にはどう対応しようか」と、危機感が募りやすいと感じます。

ーーレピュテーションリスクについて考える際、SNSの知識や肌感といったものが欠かせないと思うのですが、これらについての知識も今後、必要になっていくとお考えですか?

小嶋:
自分を棚に上げて言いますが、やはり、これからは法務担当もSNSに対するリテラシーが高いほうがよいだろうと思います。

たとえば当社の場合、社員はSNS上で積極的に会社やサービスに関する発信をしてくれているのですが、会社名・サービス名を用いている以上は一定のルールやガイドラインを設ける必要があります。そのルールを考える際に、表現の自由や当社なりのオープンさは維持しつつも、望ましくない表現を生まない仕組みを作るといった、絶妙なバランス感覚が必要だと考えています。

おかしな社内ルールを作って、会社やサービスの内容が社会に伝わらないとか、逆に誰もルールに従わないというのでは意味がありませんので。

また、ガバナンス方面からの視点でいえば、ステークホルダーへの説明責任を意識することも必要ですよね。当社は未上場の企業ですが、もし上場企業だったらこの行動は市場関係者やお客様にどう説明するのかとか、ステークホルダーを意識して、しっかりと説明ができるかどうかという視点で物事を考えられると、既存の法務の枠を飛び越えた存在意義が生まれ始めるのではないかと思っています。

株式会社SmartHR コーポレートグループ 法務ユニットチーフの小嶋陽太弁護士

火事場での経験が広げる法務の「可能性」

ーー従前の法務部のイメージから、大きく業務の幅が広がっていきますね。一方で、なかなか大変なようにも思います。

小嶋:
チャンスだとは思うのですが、おっしゃるとおり、大変しんどいとも思います(笑)。社内に周知する際に、自分や法務部門が自社のカルチャーを体現しているというか、「この会社はこうありたい」という部分において、ある程度の規範を示さないといけないわけですからね。

創業者ならまだしも、法務担当者が、社員みんなにとって納得感がある規範・カルチャーを体現するというのは大変荷が重いですよね。ですので「できますか」と言われると非常に不安ですが、既存の法務の枠を飛び越えていくためには、やらないといけないのではないかと思っています。日々、試行錯誤ですね。

ーー難しいけれどもやりがいのある、新しい法務のスタイルですね。

小嶋:
ひとつの企業が社会の皆さんに認めていただく、安心感を持っていただくためには、法律的にセーフなのかアウトなのかという点はもちろん重要なのですが、それを超えて説明責任を果たせているかという点もとても大事ですよね。

法務の役割として、企業の失点を防いで価値を上げつつ、中長期的な成長を支えるという点は、これからさらに求められてくるのではないかと考えています。

ーーこのようなネガティブインシデントに対応するプロフェッショナルというのは見当たらない印象です。今後、法務部が対応するようになったら、キャリア形成においても変化が起きそうですね

小嶋:
やはり、ネガティブな事象への対応というのは、それが得意な人は社内に多くないと思いますし、立候補者がたくさんいるジャンルではないですよね。

大企業ですと危機管理専門チームがあったりするかもしれませんが、そうでない企業においても、インシデントが起きたら広報なども含めて収拾までオーナーシップをもって進めることができるとか、記者会見の準備・進行についても肌感があるとか、そういった人材が求められてくるのではないかと感じています。

そして、そういった問題はシステムが止まってしまったなど、必ずしも法律問題だけではないことが多いですよね。最後、賠償問題などに進んだ際には法律の出番かもしれませんが、そこまでいかない段階であっても適切に対応できるか、もし法務の方がカバーできたら活躍の場が広がっているように感じます。

そのような火事場の経験や事前のリスク管理に強みがあると、それを生かして監査役や監査等委員として機能したり、内部監査室への道もあったり、さらには増加傾向にある上場企業の社外取締役として就任される方も増えるかもしれません。法務出身の方が今後多彩な分野で活躍していけるのではないかと期待しています。


後編に続く

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