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【セミナーレポート】これからの企業法務の話をしよう「SmartHRの法務マネージャーが実現したい “これからの”法務のあり方」(前編)

2021年3月26日、クラウド人事労務サービスの最大手である株式会社SmartHR コーポレートグループ 法務ユニットチーフの小嶋陽太弁護士をお招きし、オンラインセミナーが開催されました。

わずか3年で社員数十名規模から数百人規模へと急拡大していく中で、法務部門が抱える課題や、最先端のITサービスを提供する企業で法務部門が提供できる価値について、お話を伺いました。

当日のセミナーの模様をお届けいたします。


小嶋 陽太氏
株式会社SmartHR
コーポレートグループ 法務ユニット チーフ

小嶋 陽太
株式会社SmartHR
コーポレートグループ 法務ユニット チーフ

弁護士登録後、都内法律事務所にて企業法務から個人事件まで幅広い分野を担当。2014年から西村あさひ法律事務所にてキャピタルマーケット分野を中心に執務し、多数の国内企業のIPO案件等に関与。2018年に株式会社SmartHRに移籍し、以後同社の法務全般・資金調達・リスクマネジメント等を担当。


「これからの企業法務の話をしよう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方とディスカッションするセミナーです。ゲストと弊社の山本との"未来の企業法務のあり方"に関する議論を通じて、法務部門の組織づくりのヒントをお届けします。

これからの企業法務について


4大法律事務所からITベンチャーへの転身

山本 俊(以降、山本):
このセミナーも3回目となりました。「これからの企業法務について話をしよう」をテーマに、リーガルテックの導入が進んだ未来の法務の形について、ゲストをお呼びしてお話していただいています。

今回は、株式会社SmartHRの法務部門を取りまとめている、小嶋陽太弁護士をお招きして、お話を伺ってまいります。

小嶋 陽太 さん(以降、小嶋):
よろしくお願いいたします。株式会社SmartHRで法務部門の責任者をしている小嶋と申します。よろしくお願いいたします。

まずは会社紹介と合わせて、自己紹介いたします。弊社は株式会社SmartHRと申します。2013年に設立した、いわゆるスタートアップです。プロダクトのローンチは2015年の秋ですから、現在でおよそ5年が経過しています。

私は、2018年10月にSmartHRに入社したのですが、それまでは8年間、弁護士として活動していました。入社した段階で、弊社にとって私が初めての法務専門の社員でした。入社後、現在に至るまで法務全般を手掛けています。

前職は、西村あさひ法律事務所でファイナンスの弁護士として仕事をしていました。中でもキャピタルマーケットという、市場を通じた資金調達の分野を主に担当させていただきました。

山本:
株式会社SmartHRさんは、社員の数が急激に増えている企業としても知られていますね。

小嶋:
おかげさまで毎年右肩上がりに仲間が増えていて、2021年3月時点で369名になりました。2015年の秋にプロダクトをローンチしてから、ずっと増えて続けています。

SaaSビジネスは人員が大量に必要になりますので、売上が伸びるのとほぼ同時期か、または売上を先取りする形で人員を集めないと、良質なサービスの提供を続けづらいのが特徴です。法務としては、この人員の急拡大がこれからの課題のひとつと捉えています。

山本:
法務部門は何人で回しているのですか?

小嶋:
現在、法務部の人員は私を含めて2名です。手掛けている業務は、本日のセミナーをご覧いただいている皆さまの会社とそれほど変わらないと思います。契約審査、コーポレート法務、知財、リスク管理とガバナンス、あとは押印フローや体制の構築などですね。

将来の目標として、5年以内に法務部門を10名程度の規模に拡大していかないと、弊社の人員増を支えていけないと考えて、組織化の準備を整えています。

法律事務所と民間企業との「違い」

山本:
さっそく本題に入りたいと思います。法務部門の業務では、どの業務が大きな割合を占めているのですか?

小嶋:
やはり「ビジネス法務」が一番のボリュームです。契約審査や法務相談が、全体の6〜7割を占めている印象ですね。具体的には、契約審査が月に50件ほど、法務相談が60〜70件ほどです。

弊社のサービスは利用規約をご確認いただいた上でお入りいただくサービスですので、サービス利用契約をレビューする機会はそれほどありません。ですので、契約審査依頼としてはその周辺のNDAや業務委託契約などが中心で、毎月50件くらいというところですね。

法務相談は、お客様が弊社とご契約されるにあたって契約上のご不明点等についてお問い合わせいただくことがあるので、そのお問い合わせを受けた営業担当からの相談を受けて、我々がいろいろな案を出すというのがメインになります。

コーポレート法務」では、取締役会の事務局も私が担当していますので、議題を決めたり、当日運営したりというのがメインです。また、登記が発生したら、我々が外部の専門家と連携しながら進めていきます。

知財法務」については、SaaSプロダクトは日々開発・改善が進んでいくので、改善ポイントに新規性があって高度だというものがあれば、それについて特許を掘り起こしてみたり、新たなプロダクトが生まれるときにはプロジェクトに入れてもらって権利化を検討するという感じですね。

山本:
知財もカバーしているんですね。

小嶋:
そうですね。パテントビジネスを行う意図はないのですが、重要な発明の権利化を放置してしまうのは事業運営上よろしくないので、必要な特許を検討するという工程は省かないようにしています。

山本:
小嶋さんは現在、株式会社SmartHRという企業内で業務を手掛けていますが、これまで法律事務所勤務が約8年、SmartHRでのキャリアが約2年半と、法律事務所のほうが長いですよね。法律事務所と会社組織との違いについて教えてください。

小嶋:
いくつかありますので、順番にお話ししますね。

1つ目は、「当たり前だよ」と思われるかもしれませんが、意思決定をする回数が激増しました。

法律事務所時代は、来たものを素早く丁寧に手掛けていくことには重点を置いていましたが、基本的には受動的な動きであり、能動的に「決断する」という機会はそれほど多くなかったんですね。

ところが、会社に属してからは、小さなことから大きなことまで、決断が求められます。小さな例を挙げれば「この判子の鍵は誰が持ちますか」「どこに入れておきますか」といったことから、決めていかないといけないわけです。これは法律を検討して決まることではありません。法律事務所時代は、法律上はどちらでもいいことについて決定する機会は少なかったなと思います。

さらに、決断したルールをマニュアルなどを通じて他の社員に周知しないといけないわけですが、明確な理由がないと「なぜこうなっているのですか?」と聞かれることももちろんありえます。そのため、ルールを考える、理由を伝えて納得してもらう、この2つをセットで考える機会が増えたと感じています。

2つ目は、ミッションの設定です。

法律事務所時代は、依頼いただいた仕事を全力でやるという取り組み方でした。ミッション設定そのものをしたことがなかったんです。

しかし、会社に入ると最初の1on1で、自分がこれからなにをやっていくかを話し合うことから始まりました。他者からの依頼によらずに、自分で「これをやります」とミッションを決めていくのは新鮮でした。

3つ目は、組織についての考え方ですね。

そもそも組織を作ったり、機能を他の部門と分担したり、人をマネジメントしたり、またはマニュアルを作ること自体、私の中にその概念がありませんでした。法律事務所では、そのような考えがあまり強くないと思うんですよね。

組織を作る、1on1を定期的に実施してメンバーに目標を持ってもらうといった経験がなかったので、企業にお勤めの皆さんが、そういった部分をいかに重視してリソースを割いているのか、実感しています。

4つ目は、事業や組織の理解の必要性です。

自社のプロダクトがどのような仕様になっているのかを理解していないと、法務の人間として仕事をすることができません。また、会社はどちらの方向に向かっているのか、どの部署で何を担当しているのかを正しく把握することの重要性も感じています。

山本:
法律事務所勤務で、外部からクライアントの事業や経営に携わるのと、社内で直接関与するのとでは、どちらのほうが自分の生み出した価値を実感しやすいですか?

小嶋:
現在のほうが実感しやすいですね。我々にとってのお客様は、弊社の事業部メンバーになると思うのですが、彼らからの感謝の思いを感じやすい気がします。

弁護士時代にもクライアントの担当者の方から「先生、ありがとうございます」と感謝のお言葉をいただけましたが、やはり社内メンバーの方がより距離が近いですし、結果も自分の目で見られるので役に立ったという思いは感じやすいですね。


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他部署との円滑なコミュニケーションの秘訣とは

山本 俊(以降、山本):
法務部門は、会社のあらゆる部署とコミュニケーションを取ることが求められます。他部署との関係構築、言い換えるなら情報が集まってくる仕組みづくりについて、工夫している点はありますか?

小嶋 陽太 さん(以降、小嶋):
弊社はもともと社員同士の飲み会やイベントが多い会社なのですが、この文化の影響は大きいと感じています。イベントでの雑談やコミュニケーションによって、日頃仕事でやり取りの機会が少ない社員とも関係構築ができますので、なにかある際には必ず出席するようにしています。

あとは、「鬱陶しいな」と思われているかもしれませんが、オフィスで誰かとすれ違うときには、できるだけ一声かけるようにもしています。

山本:
法務がどうやって他部署の情報を取得するのかというところは、さまざまな場所で論点となるのですが、特別なことではなく、挨拶や飲み会や、雑談など、そのような基本的な部分で相談に来る質や量というものに変化はあるものですか?

小嶋:
変わってくると思います。そのような日常のコミュニケーションが上手な方は、優れた法務なのではないかとも思います。

また、法務に来る連絡の中にはトラブルの報告もありますよね。そのときに、基本的には怒らないようにしています。むしろ「報告してくれてありがとうございます」という姿勢で接します。そのうえで、対処法を示した上で、「また何かあったときにも、すぐにご相談してくださいね」と伝えると、次も報告してもらいやすいと感じています。

山本:
次に、プロダクトと法務との関わりについてお聞きしたいと思います。たとえば、プロダクトの開発の際に、企画段階から入り込んだり、サービス設計の段階から、リーガル的な視点で介入したりといったことはされていますか?

小嶋:
プロダクトの会議も定例で行われているので、そこに法務のメンバーが出て少しでもキャッチアップできるようにしています。もちろん、会議外で自ら相談をしにきてくれる開発メンバーはたくさんいますが、それだけではすべてを拾えないので、定例会議や経営会議などで懸念点に気づいたら指摘することを意識しています。

また、プロダクトの定例会議で他社特許の紹介をする時間をもらっています。類似する他社の実例を話すと、開発メンバーからも「じゃあ、うちの○○も特許を取れるかもしれない」といった意見をもらえて議論が生まれたりするんですね。そういった意味でも、開発サイドの会議に入れてもらうのは大事なことと捉えています。

山本:
開発側の会議に出席することで、企画段階や制作過程から関われますよね。その段階から関わることでの楽しさはどのあたりで感じますか?

小嶋:
やっぱり自分のアドバイスが活かされて仕様に反映されるのはうれしいですよね。また、前もって知財の権利化も進められるので、徐々にですが会社が強くなっていく実感を得られます。会議に出ることでプロダクトの理解も進んでいますから、ローンチ後にも継続して内容の濃いアドバイスができていくという、有機的なサイクルが回っているなとも感じます。

山本:
とはいえ、日々の業務があるなかで、プロダクトの開発状況をすべて把握するのも難しいですよね。会議でキャッチアップする以外に意識されていることはありますか?

小嶋:
そうですね。社内で公開されている共有情報や議事録をなるべく多く見るように意識していますね。一人ではやりきれないので分担して。そして読んで気づいたことがあれば、担当者に自ら聞きに行くのと合わせてセットかなと思います。

山本:
他部署とコミュニケーションを取る中で、ビジネス側はやりたいけれども、リーガル的には絶対にNGだというような状況での激論のようなものはありますか?

小嶋:
事業部の皆さんがしっかり話を聞いてくれているというありがたい前提があるのですが、激論はないですね。当然、法務側の意識も大切で、AとBの選択肢があったとき、AはそのままゴーでBはダメだった場合に、頭ごなしに「Bはダメ」というのではなく、新たにプランCを提示して「これならできます」というのは欠かさないようにしています。

また、結論を伝えるときにも、なぜそのような結論になるのか、背景や理由を必ず伝えるようにもしています。「こういう決まりだから」「内部統制上ダメなんで」という言い方では、相手の納得感が低くなるのはよくわかるので、趣旨や理由を伝える意識はしています。

山本:
真面目な法務の方ほどダメなときに「ダメ」と言ってしまいがちな気がします。第3の案を出したり、円滑なコミュニケーションを取るための秘訣みたいなものはありますか?

小嶋:
「趣旨」にさかのぼって話すように気をつけたら、少しずつ伝わりやすくなりました。あとは他部署で上手な方のコミュニケーションを真似するのも良いかと思います。

あとは、相談に来てくれている相手が業務上でなにを目標にしているのか、なにがKPIになっているのかも理解できていたほうが、相手も納得のいく結論が出やすいと感じます。相手の目指しているゴールを意識して、理解した上で話をするということですね。

後編に続く

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