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新たな法務パーソンが日本の未来を作る 「稼ぐ法務」になるために必要なリスクテイクのマインド(後編)

セガサミーホールディングス株式会社(東京都品川区)はグループ全体で約9000人の社員を擁する総合エンタテインメント企業として知られている。法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長を務める東郷伸宏氏は、「法務パーソンが、今後の日本企業の命運を握っている」と語る。法務部はコストセンターではなく稼ぐ部門になれると話す東郷氏が目指す「新たな法務のあり方」とはどのようなものなのか。話をお聞きしました。

前編はこちら


「これからの企業法務の話を聴こう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方に、そのお考えや実践内容についてじっくりお話いただくインタビュー企画です。

これからの企業法務について

新たなビジネスの隣に法務ニーズがある

ーーセガサミー内で、法務部門が新たな価値を生み出せた例についてお聞かせいただけますか?

東郷:
現在、日本国内でカジノを含む統合型リゾートの開発が進んでいるなかで、当社は横浜をターゲットに事業に乗り出しています。社内には特命プロジェクトが組まれていて、法務のメンバーも参画しているのですが、統合型リゾートという新たなビジネス分野には、新しい法律や規制が現在進行系で生まれています。

そこに法務の人間が加わり、どのように対応していけばよいのかを日々、研究・分析しています。新たなビジネスが生まれようとしている場所に法務が加わって、直接自社の事業開発に携わっていく。従来とは違った法務の新しい価値を提供できているなと、手応えを持ってプロジェクトを進めています。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーーまさにそういった環境は法務が活躍できる領域ですね。これはセガサミーさんに限った話ではなく、新たなビジネスを展開しようとしている企業では、同じシチュエーションが生まれうると感じます。

東郷:
既存の規制内においてもそうでしょうし、グレーゾーンの中で新たなビジネスを考えている会社でも同じだと思います。規制やグレーゾーンをいかにクリアしていくかが、ビジネスが伸びていくか死んでしまうかの境目なのではないでしょうか。

Airbnbも「グロウ・オア・ダイ(grow or die)」を合言葉に法務部門がビジネスに関与していたと言われていますが、会社を成長させていくのか死なせてしまうのか、その命運は法務が握っていると思っているので、法務の使命は大きくて深いんですよね。

ーー正解のない新しい領域を切り開いていく、これはやりがいを持って仕事をできる部分ですね。

東郷:
本当にそう思います。これまで「法務の人間はビジネスから遠い」とか「現場から遠い」という見られ方をしていましたし、法務担当者自身もそのような見られ方にストレスやジレンマを感じていた部分があったと思います。

でもその立ち位置は、誰かから命じられた結果として収まったわけではなく、我々法務の人間みずからが、ビジネスの最前線から遠く離れた場所から遠巻きに眺めてきてしまったことが原因で生み出された立ち位置だと考えています。

本来、我々法務部門はもっと面白い現場や場面、新たな価値を生み出すシーンに足を踏み入れることができるはずだし、これまでだってできたはずなのに、リスクヘッジに注力してしまった結果、やってこれなかったという思いがあるんです。

今後、法務は「自分たちがビジネスの中心にいる」と感じられる部門に生まれ変わっていけるし、そこにこそ法務の大きな可能性が眠っていると思っています。

ーー環境の変化に伴って、法務部を希望する新たな人材のキャラクターに変化は見られますか?

東郷:
企業法務関連の団体や協会が手掛ける研修や研究会に参加していますが、そこで出会う方々の印象は、時代とともに変化していると感じますね。昔ながらの、常に机に座って六法全書とにらめっこするおじさんたちという印象から、ビジネスに法務としてどのように貢献できるかを真剣に考えているアクティブな若手が法務の中でも増えてきたと感じています。

新卒採用の場面を見ても、当社がエンタメ企業だからという側面はあるのですが、コミュニケーション能力が高く、学生時代にはアクティブにさまざまな経験を積んできた人材が来ることが多いんです。他社さんの若手と話をしていても、アンテナが高くチャレンジングな思想を持った人材が増えていますね。

ーー時代の流れによってパーソナリティにも変化が見られるんですね。

東郷:
法務の仕事というのは、あらゆる方面にアンテナを高く張って、感受性豊かなマインドを持っていないと、リスクに対して素早く反応できませんし、リスクの予測ができません。新人1年目で入ってきた法務部のメンバーに対して、「法律だけではなくいろんなものに目を向けましょう」という教育は、多くの会社で行っていると思うのですが、その結果が現れているのか、「真面目一本」といったような昔ながらの企業法務のイメージは徐々に変わってきていると思います。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーー柔軟な発想力を持つ人材が流入してきたタイミングと、社会から法務に寄せられるニーズが変化してきたタイミングとが合致したのが「現在」です。これは変革のかつてないチャンスと言えますね。

東郷:
そうですね。もし、この変化が何十年か前に訪れていたら、このチャンスも取り逃していたと思うんです。おそらく「法務はそんなことはしなくていい」「契約書だけ作っていればいい」といった議論が起こり、その議論を押し返せずに変化の芽は潰れていったのではないでしょうか。

現在、企業法務の分野に登場してきたスターの存在も大きいと思います。かっこいい法務パーソンが増えてきましたよね。彼らのような先人がリーダーシップを発揮してくれたおかげで、法務業界全体に変化の兆しが出てきていると思うんですよね。

今なら変われる。諸先輩方が牽引して作ってくれたムーブメントに優秀な若いメンバーが流入してきました。企業法務の価値を大きく変わっていける実感があるんです。裏を返せば、この機会を逃すと当分、ポジティブな変革期は訪れないだろうとも感じています。

今後、日本の人口が1億人を割り込み、内需だけではやっていけない時代が来る。そのとき、我々はもう一線を退いていますからいいのかもしれませんが、今の若い子たちは今のままだとしたらかわいそうです。だからこそ、我々現役の法務担当者が先陣を切って変わっていかないといけない。

諸先輩方と一緒になって、このチャンスを逃すことなく法務のありようを転換することができたら、今の若い子たちが一線に出てきたときに世界と戦える日本企業を作れるのではないかと思っています


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まずは話を聞きに行くことから

ーー広く「企業法務」という枠組みを底上げできれば、必然的にそこにいる法務人材の価値も上がっていきます。新たなビジネスを生み出す、言い換えるなら企業に大きなリターンをもたらす存在としての法務人材、そのような評価を勝ち取る環境づくりができるタイミングでもありますね。

東郷:
いわゆるコストセンターといった扱いをされてきた法務部門ですが、利益を獲得できる部門になれると思うんです。私はよく「稼ぐ法務」という言葉を使うのですが、話していると法務が稼ぐってなかなか結びつきにくいワードだったらしくて「インパクトありますね」とよく言われるのですが、稼げる部門だと思うんです、法務って。

ーー「稼ぐ法務」とは、どのようなイメージですか?

東郷:
これまでは、弁護士報酬と法務部員の人件費を費やして、見えない利益を守ることができたといって満足していたのが「法務部門」だったと思うんです。そこから脱却し、事業部門とともにアイデアの種から一緒に育て、規制を乗り越えて実現化し、新たに100億円の利益を獲得するような「価値共創」ができる法務ですね。

ーーそこまでドラスティックに変わると、法務人材のパーソナリティにも変化が必要です。

東郷:
おっしゃるとおりです。ただ「法律に詳しいだけ」ではなく、一流のビジネスパーソンとしてのビジネスマインドを持っていることは不可欠です。また、新たに価値を創造していくわけですから、「○○だからできない」と、できない理由を見つける人材ではなく、実現させるために「できる方法」を考えられる法務人材であることも必要です。そのような人材であれば、リスクマネジメントのプロとして、規制や権利の壁を乗り越え、実現化するまでの水先案内をすることができます。

長らく、法務というのは「裁判が起こりました。勝ちました。良かったですね」とか、「トラブルが起こりました。なんとか収めました。頑張りましたね」というように、問題が起きてから初めて評価される部門でした。

今後は、平常時や、新たな一歩を踏み出そうとしているときにこそ企業に貢献して評価される部門に生まれ変わっていくと思っていますし、ひとりのビジネスパーソンとしても事件・事故が起こるのを指をくわえて待っているのではなく、アクティブに能動的に自分が動くことで未然に防ぎ、それによって大きな評価を勝ち取れるビジネスパーソンに生まれ変われるのではないかと思っています。

ーーこの記事の読者で「新しい動きをしていきたい」と感じていらっしゃる方も多いと思います。古き良き法務から脱却していくために、たとえば「法務経験10年」の中堅社員が、明日からできることは何だと思いますか?

東郷:
明日からとなると、やはりまずは現場の人に話を聞きに行くということじゃないですかね。会社のことをわかっていない法務の人間って多いんです。いま起こっていること、目に見えていること、社会に出ていることはわかっていても、まだ世に出ていない、出そうともしていない、社内でくすぶっているアイディアベースのことって、見えていないことが多いんですよ。当然ですよね、世に出ていない話ですから。

でも、そこにこそ法務が価値を発揮できるチャンスがあるんです。世に出てから対応するのでは今までと変わりませんよね。世に出る前のアイディアにいかに関与できるか、そのアイディアを大きく育てられるかがこれからの法務の価値。ですが、それらの情報は待っていては手に届かないので、自ら動いて取りにいくことが大事だと思います。

最初は話を聞きに行っても訝しがられて「なにかあったんですか?」と言われるかもしれませんが、「これからやろうとしていることで我々が貢献できる、協力できることがあるのではないかと思うので、話を聞かせてもらえませんか?」と、チャレンジをすることは明日からもできますよね。

面識のない他部署の人の話を聞きたくなったら、同期を通じてコンタクトを取ってもよいだろうし、その担当者を知っている人に間に入ってもらってもいい。「いまやろうとしていること、考えているアイディアはありますか?」と聞く程度のことであれば、時間も工数も掛けることなく、10年目のメンバーでも明日からできるんじゃないかと思います。

ーー昨今、リーガルテックが著しく進化しています。上手に活用して業務の効率化を図り、空いた時間で新たな価値を提供できると捉える人と、導入されたら自身の業務を奪われてしまうとネガティブに捉える人がいらっしゃいます。東郷さんはどのようにお考えですか?

東郷:
新たなチャレンジをしようとすれば、リソースが必要になります。時間や人手ですよね。そのリソースを獲得するための武器こそがリーガルテックでありDXだと思っています。リソースを獲得できた暁には、これまで取り組めなかったコミュニケーションの時間に使ったり、レギュレーションを超えるための方法を考える時間に充てたりできます。

日常的に、目の前に大量に送られてくる契約書を審査することに忙殺される企業法務の方々が多いですよね。新たなツールを使うことで工数を圧縮して、獲得した時間を新たな価値に投資していく、このサイクルが回っていくと、新しい企業法務の形に近づいていくのではないでしょうか。

また、リーガルテックを導入することで自分たちの仕事がなくなるのではとネガティブに捉える方がいますが、そんなことはないです。自分たちの価値を何十倍、何百倍にするためのツールなんだという視点に向き合いさえすれば、新たな価値を生み出すサイクルが回っていくと思うんですよね。

ーー空いた時間でコミュニケーションを取ることもそうだし、自社のビジネスについてしっかり理解を深めることもそうだし、業界で何が起こっているのか、社会で何が起こっているのかの情報収集にも充てられます。より自分の武器や知識を増やしていき、さらに倍々ゲームで価値を広げていくこともできるようになりますね。

東郷:
企業法務の方々は、法律のインプットについては熱心なのですが、違う領域やビジネスに直結する情報のインプットはまだまだ不足しています。業務を効率化して、空いた時間でもっと広い分野の情報収集を行えれば、自身の持つ既存の能力と新たな情報が組み合わされて、革新的なアイディアが生まれることもあるでしょう。法律の勉強だけではなく、幅広い視点の勉強は必ず役に立つと思います。

ーー実業の部分と法律の知識が噛み合ったらこんなに強いことはありませんね。かつてのように法務部の皆さんが「なにかあったら呼んでください」という姿勢でいるのは、企業にとっても、ひいては日本全体にとってもマイナスだということがよくわかりました。

東郷:
「感動体験を創造し続ける。~社会をもっと元気に、カラフルに。~」という当社のミッションに法務の人間が直結できる部分があるのではないかと思っています。法務が変わることで日本社会全体を元気にできる、そういう価値を生み出せるのではないかと感じていますね。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーー本日はありがとうございました。

(2021年3月取材)


これからの企業法務の話をしよう セガサミーホールディングス株式会社 法務知的財産本部 法務部 法務管理課 課長 の東郷 伸宏さん

東郷 伸宏氏
セガサミーホールディングス株式会社

法務知的財産本部 法務知財ソリューション部
リーガルオペレーション課 課長

金融ベンチャー役員を経て、2006年サミー株式会社に入社。以降、総合エンタテインメント企業であるセガサミーグループの法務部門を歴任。上場持株会社、ゲームソフトウェアメーカー、パチンコ・パチスロメーカーのほか、2012年にはフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県)に赴任。2017年現職。
部門の立ち上げから、数十名規模の組織まで、多種多様な法務部門をマネジメントしている。

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