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新たな法務パーソンが日本の未来を作る 「稼ぐ法務」になるために必要なリスクテイクのマインド(前編)

セガサミーホールディングス株式会社(東京都品川区)はグループ全体で約9000人の社員を擁する総合エンタテインメント企業として知られている。法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長を務める東郷伸宏氏は、「法務パーソンが、今後の日本企業の命運を握っている」と語る。法務部はコストセンターではなく稼ぐ部門になれると話す東郷氏が目指す「新たな法務のあり方」とはどのようなものなのか。話をお聞きしました。


「これからの企業法務の話を聴こう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方に、そのお考えや実践内容についてじっくりお話いただくインタビュー企画です。

これからの企業法務について


セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

日本の競争力低下の原因は「法務部」にある?

ーー東郷さんは、ベンチャー企業のコンプライアンス担当役員を経てセガサミーで法務に携わってこられましたが、その間約17年、法務人材を取り巻く環境面での変化はなにかお感じになられていますか?

東郷伸宏氏(以下、東郷):
法務部という組織と、法務部でやっている仕事、あとコンプライアンスという言葉・中身が、社会に浸透してきたと感じています。かつては法務部で仕事をしていると話すと、「総務ですか?」とか「具体的にはなにをしているのですか?」といった反応が珍しくなかったのですが、現在は「法務部です」と話すだけで伝わるようになりました。

ーー認知が浸透してきたことで、法務の方々への期待も変わってきたのではないでしょうか?

東郷:
まさにいま、法務部門が次のステップへと歩を進める変革期がやってきたと実感しています。これまで法務部門に寄せられてきた期待は、契約書を作ったり、チェックしたりすることや、コンプライアンスの名のもとに社員教育をしたり体制づくりを行うことなどが一般的でした。

最近、法務部門が発揮できる価値はそれだけではないのでは? と、より大きな期待が寄せられるようになったと感じています。

ーー行政から「法務部門が日本企業の成長を停滞させた」と指摘を受けた内容のレポートが出されるなど、周囲からの見られ方に変化が起きていますね。

東郷:
失われた30年と呼ばれる時代において、法務が日本企業の停滞に関与してしまっていた部分はあると感じています。

この数十年、契約書しかりコンプライアンスしかり、「会社を守る」「ビジネスを守る」という部分に法務のマインドが極端に集中しすぎてしまいました。その結果、良かった部分もあるのかもしれませんが、弊害として企業の成長を阻害してしまったところはあるのではないかと思います。

ーー「守りの法務」という言葉がありますが、そういう側面が強かった法務のあり方から脱却して、今後はビジネスをより促進させていく「攻めの法務」のマインドが必要ということでしょうか?

東郷:
「戦略法務」という言葉がありますが、昔から法務もそういった領域にシフトしていかなければいけないと言われ続けてきました。ですが、なかなか切り替えられていないのが現状です。しかし、日本の行く末を見ていくと、切り替えないと立ち行かなくなっています。

人口が右肩上がりで増えていた時代であれば、国内のニーズだけを捉えていくビジネスでも良かったのですが、今後の日本はそうではありません。人口は減っていくし経済規模もシュリンクしていく中で、海外に出ていかざるを得ないわけですよね。

  • 世界に目を向けたとき、果たして現在の日本国内にGAFAに対抗しうる企業はあるのだろうか?
  • この数十年で、日本企業は著しく競争力を失ってしまったのではないか。
  • そして、その責任の一端は法務部門にあるのではないか。

そのような反省を踏まえた上で、世界的な競争力を持ちうる企業を作り出していくことが、我々法務の人間にも求められているのではないかと感じています。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーー世界と戦っていく企業を作るため、これからの法務人材に必要な考え方はなにがありますか?

東郷:
いくつかポイントがあると思うのですが、特に重要なのは「リスクテイクのマインド」だと思います。

日本人はどうしてもゼロリスクを追い求めすぎてしまうところがあります。ですが、仮にリスクがあったとしても、分析をした上で飲めるリスクであるなら飲んでしまえばいいわけです。リスクを取らないと新たな価値は生まれませんから、まずはリスクテイクのマインドを法務が持てるかどうかが、すごく大事だと感じています。

リスクについて別の視点から考えると、「日本人はチャレンジをして成功することよりも、失敗しないことに満足を覚える民族だ」と言われているんですよね。このマインドは日本企業の法務部に非常にマッチしてしまっていて、法務という狭い領域でミスをせずにやっていくことに満足してしまう時代が長く続きました。

しかし、これからは失敗を恐れるのではなく、失敗したら次に活かすことに発想を切り替えることが大事になると思っています。とは言っても、この切り替えは一朝一夕にはいかない、大変ハードルが高い変革であることもわかっているんです。

日本人の根底にある「ミスしたくない」というマインドに結びついてしまっているし、日本社会の仕組みがミスを許しにくい環境であることも関連しています。たとえば、倒産とか破産をしてしまうと、ふたたびカムバックするための制度が日本は弱いですよね。そのようなネガティブな環境を乗り越えていくのは大変なのですが、リスクテイクの発想への切り替えは、まず初めに取り組まなければならないと思っています。

ーーとは言っても、法務がジャッジを誤ることによって起きるトラブルは、企業に大きなダメージをもたらすことがあります。

東郷:
失敗にもいくつか種類がありますよね。単なる調査不足、知識不足、認識不足による失敗と、リスクを全部洗い出した上でリスクテイクをしてやってみたらうまくいかなかった失敗。このふたつは同じ「失敗」といっても大きく違うと思うんですよ。

我々法務の人間は、リスク分析の専門家であるべきだと思っています。リスクの分析や洗い出しは漏れや抜けがないように徹底的にやらなければなりません。その上で、そのリスクを取るのか取らないのか、経営陣と一体となってジャッジしていくことが求められているのではないかと思います。

ーーたしかに同じ失敗でも種類が違いますね。

東郷:
リスク分析をした上で起こったトラブル、これは想定の範囲内の出来事ですよね。たとえば裁判が起こったとしても、その裁判自体も事前に可能性として予見しているわけですから、すでに手は打ってある。「裁判起きたね」「受けて立ちましょう」でいいわけです。

日本人も日本企業も、争いを避ける傾向が強いので、裁判を起こされたとなるとまるでミスをしたかのように言われがちなのですが、チャレンジをする過程で争いは起きますよ。争いが起きたのなら、戦って勝つなり、和解をして先に進んでいくなり、戦略的に考えていけばいいだけなので、極端に争いを避ける必要はないんです。

ーー日本ではどうしても「裁判=悪」という風潮がありますからね。

東郷:
「ここはお互いの主張や権利がぶつかり合う部分なので、相手から訴えられるかもしれません」「でも勝てる可能性が高いですし、勝てばこれだけ大きなリターンを得られるので、このリスクを取りましょう」といったことを法務から経営陣に提言できるのかどうかですよね。

それを法務から言えれば「よしわかった、ならば裁判を起こされたときには正々堂々と戦おう」といったジャッジを経営陣もできるわけですから。ここは法務が会社に大きく貢献できる領域です。

法務部門の人間は、自分だけ安全地帯にいて、他部署のメンバーに「赤信号だから渡るな」もしくは「赤信号ですけど、渡るか渡らないかの判断は事業部門の責任ですよ」と言いがちなんです。もちろんこれはたとえ話で、法律を守ることは大前提でのことですよ。

私は、当社の法務部のメンバーに「法務の人間なら、他部署の人たちと一緒に赤信号を渡りなさい」と言うようにしています。つまり「逃げるな」と。

みんな怖いんですよ、赤信号を渡るのは。でも、ちゃんとリスク分析をして、この赤信号は渡れる、もしくは渡っている途中でなにかが起こったとしても耐えきれるダメージだから、事業部門や経営陣に「一緒に渡りましょう」と言えるかどうかが、これからの企業法務パーソンであれるかどうかの分水嶺になるのではないかと思っています。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーー誰しも赤信号を渡るのは怖いですからね。

東郷:
怖いですよ。判断を誤ったら行政的な罰則を受けるような大失敗があるかもしれないし、他社や消費者から裁判で訴えられることもあるかもしれない。当然、絶対に渡ってはいけない赤信号がありますから、そこはリスク分析をして「ここは渡ってはいけません」と言わないといけないんですけどね。

でも、渡ってはいけないというためには、別の場面では「ここは渡れます」と言えていないといけないし、さらに渡るときには「一緒に渡りましょう」と言えないと、止まってくださいと言ったときにも聞いてもらえなくなると思うんです。

日本企業がコンプライアンスを強く意識し続けてきたこの数十年で、真面目な会社ほど大きなリスクが潜在化していったと思っているんです。法務が強く「ダメです」とだけ言い続けてきた会社ほど、他部署から「法務にこのリスクは教えられない」「話したら止められる」と遠ざけられて、隠されてしまったんですね。そしてどうなったかというと、後で見つかって大爆発してしまった。

日常的に法務が度量を広げて「どんなリスクでも言ってくださいね」「なにかあったときには一緒に戦います」「皆さんを守りますからね」と言っていれば、「実はこんなリスクがあってね」と相談してくれていたかもしれない。

でも、お役所的にダメだダメだと言い続けてしまった結果、みんな隠そうとしてしまって、あとになって大騒動になる事故がものすごく多かったんです。これは法務の人間として反省すべき点だと思います。

これからは、そのような潜在的なリスクを法務がいち早く認識して対応していければ、社会に迷惑を掛ける大事故になる前に、対応できるようになるのではないでしょうか。そのためには「一緒に渡ろう」と言える法務じゃないと現場の人たちも胸襟を開いて話してくれませんよね。

相談した途端に「何をやっているんだ!」と、警察みたいに言われるような法務だったら、誰も相談なんてしてくれませんから。


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法務部はバックオフィスではない

ーー気軽にモノを言い合える雰囲気を作るためには、法務の方々が前のめりとなって、事業部の方々と一緒にビジネスを作っていく、リスクも一緒に取っていく姿を見せることが必要ということですね?

東郷:
そうですね。これまで、法務部は数字を負わない風潮がありました。数字は営業部門や開発部門などの責任で、我々は負いませんと言いがちだったのですが、私は法務も数字に責任を負うべきだと思うんです。

「法務は会社の成長を一緒に追い求める仲間なんだ」「彼らは本当に一緒に責任を負ってくれる人間なんだ」と営業部門や開発部門の担当者が感じてくれて初めて、向こうから相談してくれるようになるし、腹を割って話してくれるし、なにかトラブルがあったときに早めに来てくれるようになるんだと思います。

個人的なことですが、私は法務部をバックオフィスと捉える風潮が嫌いなんです。総務部門から派生してできた部署という歴史的な背景があるので、管理系の部門=バックオフィスと言われがちなのですが、法務はフロントオフィスの部門であるべきだと思っています。事業部のすぐ隣にいて、一緒に事業を作っていく部門でいなければならないと思いながら日々の業務を行っています。

ーー法務部が並走してくれるというのは、事業部にとって大変心強いことだと思います。ビジネスのスピードもクオリティも安全性も高まっていくわけですから。

東郷:
これからの日本企業の法務がそういった形に変わっていけたら、かつては潰してしまった革新的なアイディアや斬新な企画を、価値のある形で社会に還元できると思うんです。

新しいビジネスの種を、これまでの法務の頑ななリスクヘッジのせいでみすみす埋もれさせることなく、法務が事業部と一緒にチャレンジして世界と戦えるビジネスを生み出していく、これは非常にエキサイティングなことだと思いますね。

セガサミーホールディングス株式会社 法法務知的財産本部 法務知財ソリューション部 リーガルオペレーション課 課長 東郷伸宏氏

ーー従来型の法務から脱却していくためには、法務が綿密にコミュニケーションしなければならない先が2つあると感じました。1つは経営陣、もう1つは他部署ですよね。まずは経営陣から信頼を得るために大切なことは何がありますか?

東郷:
法務はリスクに関する分析結果を、「会社へのリターン」とセットにして経営陣に話をすることが大事だと思います。単に「守りを捨てます」と言ってしまうだけだと経営陣も怖がってしまいます。守りをおろそかにするということではなく、取れるリスクを取った上で、そのリスクを大きく上回るリターンがあるのだ、ということを法務から経営陣にしっかりとアピールできるかが重要だということです。

リターンがしっかり見えたとき、リスクを取りに行こうとするのか、リターンを捨ててディフェンシブに行こうとするのか、それは経営判断なので、その判断をするための適切な材料を提示できるようになることが大事だと思います。

ーー事業部の方々とのコミュニケーションはいかがですか? 誤解を恐れず言うなら、法務部というのはややもすると、他部署から避けられがちな部門という印象です。

東郷:
話しかけにいくと嫌がられたりしますからね(笑)。ですが、これからの法務としては、受け身ではなく能動的にコミュニケーションを取りにいくことが必要だと思います。事業部から相談をもちかけてくれるのを待つだけではなくて、いま事業部の現場で何が起こっているのか、何をやろうとしているのかを積極的に聞きに行く努力をするべきだと思いますね。

最初は警戒してなかなか教えてくれないと思うんです。それでも繰り返し話を聞こうとする姿勢を見せるうちに、ようやく話してくれた「いまやろうとしていること」に対して、法務から「もっとこうすればアクセルを踏んでスピードアップできる」「こういうアプローチをすることによって規制を乗り越える方法もある」など、ある種の社内営業的な発想で法務から提案をしていくことが、信頼を勝ち取っていく第一歩になるのではないかと考えています。

ーー提案は待ちの姿勢ではできない行動ですね。

東郷:
これまでは、法務は来る仕事を待つ姿勢が強かったと思うんです。しかしそうではなくて、セールス部門と同じように外に打って出る、営業をかけていくマインドを持てると、新たな法務のあり方や価値が生まれていくんじゃないかと思いますね。

ーー法務部の皆さんにとってのクライアントは経営陣であり事業部の皆さんです。そういった方々、いわゆる顧客に自分たちの価値を提供して、法務の価値を認めてもらうという、いわば発想の転換が必要になるということでもありますね。

東郷:
そうですね。実際にそこにチャレンジして成果を出している会社もありますから、そういった会社がどんどん増えていくことで「法務ってこんな使い方ができるんだ」という認知が浸透していくと、より広い用途で法務を活用してもらえるようになりますよね。

法務をどんどん使ってもらって、どんどん相談してもらって、会社全体として新たな価値を生む。法務部の価値を大きくしていくことが、1社でも多くの企業で起こることを期待しています。

後編に続く

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