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【2024年株主総会対応】~気の利いた答弁をバックアップする~ 最新想定問答の準備

近年、株主総会は株主と経営陣が直接対話する「コミュニケーションの場」としての重要性が再認識されています。このため、多くの企業が、事務局作成の想定問答を読む旧来の答弁スタイルから、担当役員が自分の言葉で説明する方式に移行しています。

一方で、個人株主は経営環境に関連する時事的な質問を多く行う傾向があり、これらの質問についてある程度の出題予想が可能です。したがって、事前に関連する制度的・構造的な知識を準備することで、担当役員が自然かつ深度の高い回答を行い、株主の満足度が高い総会運営が実現できます。

本セミナーでは、株主総会の指導に精通した鳥飼総合法律事務所の島村謙弁護士をお招きし、2024年6月総会で予想される時事的トピックについて、事前準備が有効なものを厳選し、必要な背景知識と理想的な答弁の方法を解説していただきました。

総論:望ましい株主総会の準備方法

ご紹介をいただきました、鳥飼総合法律事務所弁護士の島村と申します。よろしくお願いいたします。

早速ですが、セミナーを始めていきたいと思います。

まず総論としまして、これからの株主総会をどう考えていくべきか、ということを簡単にお話したいと思います。

1.個人株主にとっての株主総会の重要性

まず1番目に、個人株主にとって、株主総会はより重要になってくるということをお伝えしたいと思います。

最近、会議体としての株主総会に、どこまで意味があるのか?というような、株主総会を重視しないような議論が聞かれるようになりました。しかし、そうでもないんだ、ということをお話したいと思います。

⑴ガバナンスコードの基本原則5というものの影響もあって、機関投資家や、アクティビストと呼ばれる株主との関係では、かなり積極的に、会社が対話に応じるようになりました。昔からやっている決算説明会のような場でも、会社と投資家の双方向的な対話がなされます。

ところが、個人株主は置いてけぼりになっています。企業との直接対話はできませんし、決算説明会にもなかなか入れてもらえない。依然として彼らにとっては、株主総会がほとんど唯一、経営陣との対話ができる場である、と言えると思います。

実際、個人株主は、株主総会を大切に考えていると思います。コロナが明けて、株主総会がリアルで開催されていますが、かなりの人数の個人株主がいらしています。しかも、お土産を廃止している会社が非常に多いのですが、それでも多数の株主が来る状況です。株主総会に足を運んで、直接に経営陣の話が聞きたい、そう思っている個人株主が非常に多いのだと感じます。

⑵では、質問した株主数の変化をデータから拾ってみました。2014年の1番左を見ていただくと、質問なしが60%もありました。それに対し、2023年を見てみると、質問なしの会社は25%しかありません。7割5部もの会社で、株主からの質問が出ているということです。

皆さん分かるかと思いますが、アクティビストは例外として、機関投資家が総会で質問するということはあまりないです。ほとんどの質問は個人株主から出ているというのが、実態だと思います。

2. 個人株主の質問の傾向

よく出た質問のジャンル別のランキングを作ってみました。

2014年を見ていくと、1番は経営政策、2番が配当政策・株主還元、3番が株価動向、4番が財務状況です。この1〜4は、株主の短期的な利益に結びつく質問です。

それに対して、5位・6位を見ますと、人事・労務、つまり従業員を大切にしているか、というような観点からの質問と、関連会社の不祥事等の問題といった、広く言えばガバナンスの質問が出ていたといえます。ガバナンスというのは、中長期的な利益の観点での質問といってよいと思います。

2023年を見ていただくと、1〜3はやはり短期的利益に関するものが出ておりますが、4以下は、資本コスト、女性の活躍、賃金・労働環境です。ガバナンスコードで提示されている内容がそのまま聞かれているというのが、最近の特徴です。ガバナンスに関する質問が増えている。個人株主もいろいろですが、中長期的に株を持つ覚悟があって、ガバナンスにも関心がある、そういう方が結構いるのだと。私の実感としても、そう感じています。

さて、そういう個人株主は、どの会社にとっても非常に大切です。色々な観点があろうかとは思いますが、例えば、敵対的な提案がなされて、支配権が争われるような場面があります。そういった場面で、個人株主の方が経営陣に味方してくれたという事例は少なくないようです。有事に限らず平時でも、株価の形成や議案の賛成率を伸ばす観点からも大切です。 個人株主は大切でして、その個人株主たちは株主総会を重視しているわけですから、株主総会は、実はこれからもっと大事になるかもしれない、そう考えるべきだと思うのです。

3. これからの株主総会が目指すべきもの

では、そういった個人株主の皆さんが集まる株主総会で何を目指すべきか。⑴に書いた通り、個人株主の心理的な満足を獲得すること、換言すれば、経営陣の「よい印象」をもってもらうことが重要です。

もちろん、株主総会は会社法上の機関ですから、議案を適法に成立させることは大事です。ただ、適法性が問われるような、「荒れる総会」は、ほぼないわけです。従って、今は個人株主の満足の方を重視した運営がされるべきかと思います。

それでは、個人株主に満足してもらうため、そもそも彼らが、何を求めて株主総会に来ているのかを考えますと、大きく2つあります。

1つは、会社の中身の説明を聞きに行くということです。招集通知に書いてあっても、読むのも大変であるため、直接言葉で、要点を聞きに行く、ということです。そういう意味での情報収集です。

2つめは、経営者の人物や、会社の雰囲気を見に行くということです。経営者が信頼できそうか、人柄はどうか、ということを感じるために来るわけです。

従って、会社側の意識として、まず大切なのは、社長が信頼できる人物であるということをしっかりと印象付けることです。そのためには、社長が議長をする場合には、質問への回答よりも、まずは、議長として堂々と、議事進行をしっかりやっていただくことを重視すべきだと思います。有能な社長であればあるほど、何でもかんでもご自分でやりたくなるかもしれませんが、そうすると、いざ、意表を突くような質問が本番で出てしまうと、慌ててしまって、ちょっと心配な印象を与えかねません。

では、堂々とするためにはどうすればいいかですが、とにかく議長は、「ゆっくり喋る」ことです。ゆっくり喋ると心に余裕が生まれ、本当に落ち着いた雰囲気が出てくるものです。逆に、早口になると、情報処理能力が間に合わなくなり、アップアップ感が出てきて、少し心配な雰囲気になってしまいます。

やや脱線してしまいました。今日は議長の話ではなく、個別の答弁担当役員の方の準備についてのお話ですから、答弁に関してのお話をしたいと思います。

「質問タイプ別、個人株主様が満足する回答方法」です。質問を大きく2つに分けて考えると便利かなと思います。

まず、ア. 「ファクト(業績など)についての質問」です。こちらについては、ファクトを聞きに来ているため、ファクトを可能な範囲で誠実に回答するだけです。回答できるファクトというのは、広い意味での招集通知、事業報告や決算書に書いてあることですね。準備の範囲は限定されているため、これは皆さんばっちり準備できていると思います。

もう1つ、イ. 「経営参加型の質問」と名付けてみました。例えば、「最近他の会社でこんな不祥事があるけど、当社は大丈夫か」という心配・懸念を問う、あるいは「他社ではこんなことやってるから当社もどうか」というような提案をしてみるというような、もっと会社を良くしたいという思いから上げてくれる質問が、2つ目の類型です。時事に関する問題や、ガバナンス関連の多くが、この2つ目の類型です。

後者の「経営参加型の質問」は、結局、株主さんは心配をしてくれてるわけです。心配をしてくれてる人に対して良い印象を与えるにはどうすればいいかというと、心配をきちんと共感するということです。しかも、これは心がけ次第でできることです。従って、答弁担当役員の方々はそういう心がけを持っていただくと、非常に答弁が楽になると思います。

矢印の先の2つ目ですが、その問題について、深く検討している、ということが示せれば、なお良いです。このためには、ある程度の準備が必要で、やはり想定問答集を作成する過程でいろいろ勉強するほかないと思います。とくに、時事問題は恐ろしくって、それがどういう問題なのか知れないと、まともな答弁なんてできません。ですから、どんなに役員が忙しくても、最低限の準備とインプットはしないといけません。事務局も、そういう目線で役員レクチャー用の資料を用意すべきで、今日は、そのサンプルをいくつか作ってきました。

プライバシーガバナンス

例えばということで、いくつか、事前準備が有効だと思われる時事問題をとり挙げています。

まず、「プライバシーガバナンス」という言葉を用いた質問が出る可能性があると思いますが、広くプライバシーに関する問題というのが関心事項になっています。

そして、この類の問題は、そもそもプライバシーとは何なのかということのイメージを持っておくと回答が楽になります。

前提知識

プライバシー概念の発展プロセスと書いております。

発展というだけあって、プライバシーの概念は、どんどん変遷しています。従来は「プライバシー = (私生活)をみだりに公開されない権利」というような説明がされていました。

近年になると「自己情報コントロール権」という言葉が出てきます。単に「侵害されない」だけではなく、自分の情報は自分でコントロールしたいというような権利に発展しました。これを具体化したのが個人情報保護法です。同法は、個人が事業者に対して「私の個人情報を削除してください」、あるいは「書き換えてください」と言える仕組みになっています。

さらに現在は、「IoT やAIの時代」のプライバシーです。

例えば、匿名化されているビッグデータ、防犯カメラに映り込んだ自分の顔、インターネットの購入履歴といった、個人に由来するものの、必ずしも、個人が特定できない情報までもが、プライバシーの問題として語られるようになってきた、ということです。「プライバシーガバナンス」という文脈でのプライバシーは、この意味です。

プライバシーガバナンスがなぜ大事かというと、これを不適切に利用してしまうと、経営に悪影響が生じ、企業価値が下がるからです。リクナビ事件という、就活生たちのネットの履歴等に由来するデータを与えていたということで非常に問題になった事件は、まだ記憶に新しいと思いますが、プライバシーガバナンスを理解する好事例です。

経産省が「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」というものを出しました。この影響で、プライバシーガバナンスについて質問が出るかもしれません。

ただ、このガイドブックはあくまでガイドブックですから、ここに書いてある通りできている会社はまだ少数だと思います。今回は、できていない場合の回答例を考えたいと思います。

答弁の方針

⑵ 答弁の方針です。

Q1. 「個人情報の保護は大丈夫ですか」

「個人情報」と呼ばれる場合は、プライバシー概念の2つ目にあたり、個人情報保護法に従って、全ての会社がきちんと対応しているはずです。答弁のやり方は、冒頭で申し上げた通り、まず共感を示すことが大切です。

  1. 「当社は、個人情報の保護が、お客さまや社会からの信頼の基礎となる、という認識のもと、個人情報の保護に万全を尽くしております。」

質問している株主は「個人情報って大事だと思うけど大丈夫?」と聞いてるため、「個人情報って大事だよね」という共感をまず表現する、ということです。

その上で、「具体的には〜」というように、質問の中身に答えていきます。

Q2. 「ビッグデータの活用ってやってますか」

これは、「大丈夫なの?」というよりは、「うまくやれたらいいよね」という、提案の雰囲気だと思ってください。

  1. 「いわゆるビックデータの利活用による消費者行動の解析・予測などが、マーケティングや商品開発に大いに役立ち得るものと認識し、その利活用について研究を進めております。」

と答えることで、「ビッグデータは大事だよね」という共感を示しています。続けて

「現状では、具体的な利用開始には至っておりませんが、引き続き、鋭意、取り組んで参ります。」

と、なんだか前向きな雰囲気で終わるという回答例にしています。

結局この会社は「まだ何もやっていません」と言っているに等しいのですが、まずは共感し「やってない」という言葉を「これからやる」という前向きな言葉に言い換えるだけで、全然違う印象が残せていると思います。 A’の方は、むしろきっちりやっている会社の回答例です。。

営業秘密

2. 営業秘密の管理です。

寿司チェーンの例がありますので、全ての会社で聞かれる可能性があると思います。

問題の所在から確認したいと思います。かっぱ寿司の例というのは、はま寿司で働いていた方が、営業秘密(原価や仕入れ先)の情報を持ち出した事例で、カッパクリエイトの元社長や、一緒に情報に触れてしまった元部長にも有罪判決が出ています。さらに、カッパクリエイトという会社に対しても有罪ということで、罰金が課されるというような報道がなされています。

この問題からも明らかですが、営業秘密の問題というのは、2つの側面があります。

①営業秘密を「守る」観点(はま寿司側)

②営業秘密を「持ち込ませない」観点(カッパクリエイト側)

この双方でしっかりと対応しているというメッセージが示せると、非常に安定感が出ると思います。

前提知識

⑵ 前提知識です。

ア. 不正競争防止

この法律により営業秘密は保護されるのですが、自分が営業秘密だと思っていれば何でもかんでも守られるわけではない、ということが大切です。

営業秘密の定義は、「秘密として管理されている、有用な情報」です。そのため、管理が不十分だと守られないということが大事です。従って、「しっかりと管理しているか」というところがすごく大切な答弁のポイントになります。

それから、いま不正競争防止法の改正がなされていまして、退職者による営業秘密の侵害に対して立証責任が軽減されるということで、今後さらに、この退職を巡る営業秘密の問題というのは、より法律問題になりやすいということです。

答弁の方針

答弁の例を見ていきます。

Q:「かっぱ寿司さんのような問題が当社で起きることはないんでしょうか?」

  1. 「当社としましても、御指摘頂いた他社事例を踏まえ、改めて営業秘密の管理の重要性を再認識し、その強化に取り組んでおります。」

まず、「危ない、大事な問題だよね」という共感を示します。続けて、

「この問題については、当社の営業秘密の漏洩をどう防止するか、という観点と、他社から当社に転職等される役職員による、他社の営業秘密の持ち込みをどう防止するか、という異なる二つの観点があると認識しております。」

と言うと、納得してもらえるかと思います。

あとは具体的な取り組みを挙げ、かいつまんでお話ししてください。あとは具体的な取り組みを挙げ、かいつまんでお話してください。

機能性表示食品/食の安全(紅麹の例を前提に)

続いて3番目、機能性表示食品の問題です。紅麹の例を挙げています。

本セミナー実施時点では、原因の特定には至っていませんが、いずれにせよ、ガバナンスの観点からいくと、 クライシスコントロール(クライシスコミュニケーション)の問題というのが挙げられると思います。

前提知識

機能性表示食品とは何か。簡単に言うと、消費者庁に「機能性表示食品として販売します」という届け出をします。届け出というのは、国側のリアクションを必要としないんです。つまり、国の審査も無く、医薬品と異なり治験が行われることも勿論ない。安全性の確認はされてないということになります。

にも関わらず、当局によれば、「血圧が高めの方に」という表示で販売するのはOKとされているんです。一方で、「糖尿病の疑いがあるあなたへ」と書いては駄目なんだそうです。違いがよくわかりませんね。

医薬品と違って治験をしておらず、安全性が確認されていないにも関わらず、効能を謳うような表現で販売できてしまう制度そのものにも問題がありそうです。ただ、株主総会の場で制度批判をしても仕方ないため、口には出さないけれど、そういう問題がある、ということは念頭に置いておくと良いと思います。

イ. 紅麹問題

症例が報告されてから消費者庁への報告まで2ヶ月以上かかったと報道されております。生死に関わる事例ですから、人の命を最優先するのであれば、いち早く公表すべきだったのではないか、という議論が、やがて出てくるはずです。

そこで思い出されるのが、ウ. ①雪印乳業事件です。

古くなった脱脂粉乳を、温め直して販売に用いてしまったら、大変な食中毒が起きたという事件でした。これも、回収あるいは告知が遅れたため被害が膨らみまして、結果として会社自体が解体されるという大変なことになりました。

対照的な事例としてよく取り上げられたのが、②ジョンソン&ジョンソンのタイレノール事件です。

販売していたタイレノールという薬を服用した人が死亡した、という情報に触れた同社は、いち早く、全面的にその情報を開示しました。そうした方が、やがて企業イメージのアップに繋がるだろう、という現実的な判断もあったようですが、実際問題として、早期に情報を開示することで、被害の拡大を防いだわけです。結果、同社は、今も超一流企業として生き残っています。

①と②の対比から、こういった問題の中では、消費者の安全を最優先することが、長い目で見れば、企業価値を上げていくのだという経験則を踏まえた答弁ができると、答弁に深みがでるかなと思います。

答弁の方針

答弁の例です。

Q.「当社では紅麹を使用した製品もあるんですが、大丈夫ですか?」

食品メーカーさんや医薬品メーカーさんで特に、このようなストレートな質問が来るかなと思います。

  1. 「紅麹問題の報道に触れ、直ちに当社の製造・販売する全製品の原材料を洗い出したところ、幸い、紅麹を使用している製品はありませんでした。また、機能性表示食品の取扱いはございません。なお、安全・安心な食を消費者の皆様にお届けすることは、食品メーカーである当社にとって最も重要な使命の一つです。」

そして、「そこで当社では〜」というような形で、取り組みをアピールしていくと良いかと思います。

その次の「また」以下については、あえて触れなくてもよいかもしれませんが、質疑の文脈によっては使える場合もあるかもしれません。1箇所訂正しましたが、「安全性が危ないとき」等の表現は、あえてする必要はないかと思います。

人的資本経営

続いて4つ目、「人的資本経営」というキーワードです。

こちらも、キーワードの背景情報等を知っておかれると便利だと思います。

前提知識

ア. 人材版伊藤レポート

この言葉がそもそも日本で流行るきっかけになったのが、「人材版伊藤レポート」と呼ばれているものです。

その主眼は、「人事を、管理の問題ではなく、売上・利益を上げていく源泉として認識し、経営戦略の一部に位置づける」というものです。

さらに、人事部門に特化し、CHROや人事担当役員の設置、経営戦略と連動した人材戦略の策定などをやってください、などなど、色々なことが、このレポートに書いてあります。

イ. 人的資本開示の義務化

有価証券報告書に女性管理職比率や男性の育児休業取得率、賃金格差といった情報の記載、人材の多様性の確保や社内環境整備に関する方針など、そして方針に関する指標の内容、KPIなどを示すことが求められています。上場会社の皆さん、すでに開示していると思います。ただ、実際の開示を見ると、このKPIの記載の具体性については、かなりばらつきがある状況のようです。

そうすると、開示を読んだ株主さんが株主総会にいらっしゃいますので、今年はこの人的資本経営に関する質問というのは、相当増えるのではないかと思います。

答弁の方針

何を聞かれるかですけども、

Q. 「人的資本に関する指標と目標として、〜という開示をされていますが、この内容で十分なんですか?」

ここまで辛辣に言わないかもしれませんが、今後改善発展していくのか、あるいはその方向性は何か、というような質問があり得るかと思います。

  1. パターンの通りまず共感から始めていきます。

「当社は、人への投資が、中長期的に売上や利益を向上させる源泉であると理解し、人材育成の方針は経 営戦略の重要な一部であると位置付けています。したがって、人材育成の目標や指標もまた、経営戦略の発展とともに発展・変化して行くものと理解しております。

御指摘のとおり、昨年の有価証券報告書では、~としておりますが、将来的には、事業環境の変化を踏まえた新しい経営戦略を策定して行く中で、人的資本に関する方針等も発展させて行くべく、~という指標の有効性の検証や問題点の把握にも努めて参ります。」

というような、経営戦略と連動していく方針を示すことで終わらせる答弁の例を作ってみました。

ジョブ型雇用

続いてもう1つ、ジョブ型雇用というのも、株主に聞かれると思います。ただ、このジョブ型雇用は、共感の示し方が少し難しいです。「ジョブ型雇用を、当社もやったら?」と聞かれた際に、「あれいいよね」と答えて良いのかどうか、少し距離を保つ必要がある問題なのか、ということです。

前提知識

今現在、あるいは今までやってきた雇用システムが相応に素晴らしいものだということを理解した上でないと、正しい問題把握ができない分野です。

ア. 日本型(メンバーシップ型)雇用システム

日本型雇用では、どの会社も長期雇用を前提としていたため、ポストに空きが生じた場合でも、外部の労働市場から調達する、つまり転職者を受け入れるのは難しい。そこで、社内の配置転換で応じることが必須です。当たり前に思っているかもしれませんが、配置転換をフル活用するのは日本の特徴なのです。配置転換が前提だとすると、雇用する段階ではその人のjobの内容は特定できませんから、雇用契約書にjobの内容は記載できません。

他方、配置転換を従業員に受け入れてもらうためには、ポストの内容、jobの価値にしたがって給料が変わるようでは都合が悪い。むしろ、いろいろな仕事、jobに対応できるポテンシャルの部分を育てたい。そこで、いろいろな仕事を経験し、長期にわたり、ポテンシャルが上がると給料と役職が上がる仕組みとして、職能資格制度という制度が採用されています。ほとんどの会社さんが今も使っていらっしゃると思います。

この制度のもとで育った人たちが今経営をしていて、日本をどんどん良くしてきたわけですから、職能資格制度は、長期雇用を前提とした場合、それなりに合理的なシステムなはずです。

ただ、「遅い昇進」あるいは「遅い昇給」といった問題が、IT人材や外国人材、さらに一部の突出した能力のある若い人を惹きつけるという観点からはネックになった、そういうほころびが出てきています。このほころびをどうしたらいいのかというところで、まだ答えは見つかってないけれども、1つのヒントとしてジョブ型があるということです、つまり、「全面的に、すべての会社がジョブ型になる」とか「なるべき」というような話ではない。

ちなみに、本場アメリカのジョブ型というのは、あらかじめ職務内容を明確にし、それに見合ったスキルの人を外部の労働市場から探してくる、そして給料もjobの難易度で決まる、という仕組みです。そのため、逆に言うと、昇進も昇給も期待できないため、もっと上に行きたいと思った人は転職を繰り返し会社を渡り歩く、というような実態になってしまうようです。

というわけで、ジョブ型雇用の質問が出てきた場合、必ずしもジョブ型が善で日本型が悪だ、みたいな前提で答弁してはいけない。そうではなく、日本型でやってきた当社の人事制度には綻びも見られるようになった、だから、その点は何等かの方法で補強して行くんだと。そういうニュアンスで答弁するのが良いと思います。

答弁の方針

では、想定問答の例をみてみます。

Q. 「新聞を読んでいると、いくつかの優良企業がジョブ型雇用を進めていますが、当社はどうですか?」

  1. ですが、前述のとおり、ストレートに「ジョブ型っていいよね!」とは言えない。そこで、少し視野を広げ、「ジョブ型」=「人事の問題」と捉えて、「人事は大切だよね」という方向で、共感を演出しています。

「会社はまさに人でできておりますから、人材の採用や育成は、中⻑期的に企業価値を向上させる源泉であると理解し、人事戦略を経営戦略の重要な一部と位置付けています。

当社の人事制度は、採用した人材を丁寧に育成し、⻑期にわたり会社に貢献してもらうことを可能にする仕組みを長らく採用しております。いわゆるジョブ型の雇用制度とは異なるものですが、これまでのところ、人材の採用と育成という観点から、相応の成果を発揮しているものと評価しております。

もっとも、足元のIT化、国際化の進展を踏まえた場合に、現在の人事制度では足りない部分が出てくる可能性も、十分あります。そこで、現状の制度に甘んじることなく、必要に応じて、御指摘頂いたジョブ型の要素を取り入れることも含めた、人事制の改革・改善を続けて参ります。」

というように、「ほころびも出てくるため、今後はきちんと見直しもやっていきます」というメッセージを出すのが、非常にバランスがいいかなと考えます。見直しもやっていきます」というメッセージを出すのが、非常にバランスがいいかなと考えます。

生成AI/ChatGPT

AI/ChatGPTに関してです。

生成AIを使ったビジネスが大変な市場規模になっているということで「うちも何かできないんですか/やっているんですか」というような質問は、どの会社でも聞かれる可能性が高いと思います。そのため、生成AI(ChatGPT等)の大まかな仕組みを一応理解しておくということが、まず大事になってくると思います。

利用プロセスとリスクのイメージ

私も詳しくはないのですが、概略だけお伝えします。

例えば生成AIって何ができるかというと、実際試しにやってみた方も多いと思いますが、プロンプトと呼ばれる指示入力の画面があり、そこに目的やタスク、例えば「以下の制約条件のもと、新商品のセールスプロモーションに使うパンフレットのたたき台を作って」などとし、制約条件として「添付した商品の写真を効果的にレジュメに取り込んでね」というような指示をすると、この写真を上手く色々なところに使ったパンフレットを作ってくれます。他にも、簡単なプログラムを作るといったことも出来てしまうというものです。

この指示を出すと、生成AIエンジンが学習用データセットというものを参照して、そのデータの中から意思決定をし、最終的に生成されたコンテンツを作ります。学習用データセットは、実は限定もできるようですが、基本的にはインターネットの世界で転がっているあらゆる情報の中からヒントを探して作品を作っていく、というような仕組みのようです。

そうすると、どのようなリスクがあるかというと、特に大きなものは法律上のリスクです。

ア. 著作権法違反のリスク

① 自分で入力画面に挙げたものがそもそも他人の著作物だという場合には、著作権法違反になるかもしれません。

②生成されたコンテンツが他人の著作物に激似だという場合、違法となる可能性もあります。

イ. 個人情報保護法違反のリスク

ウ. 情報漏洩リスク

まず、プロンプト入力画面に個人情報を入れてしまうと、その個人情報を持って生成AIがインターネットの世界を歩き回るんだと思ってください。

そうすると、生成プロセスで他人の情報を拾ってしまう可能性や、情報が漏れてしまう可能性があります。

個人情報が漏れてしまうのと同じように、プロンプト画面に入力してしまったせいで、営業上の秘密が漏れるというリスクもあります。

答弁の方針

というわけで、答弁の仕方としましては、「すごく期待しているし、良いところを上手く使おうと思っているけれど、リスクもあるよね」という2つの側面で答えるのが良いのかなと思います。

Q. 「チャットGPTなどの生成AI使ってますか。」

  1. 「ご質問を頂きました生成AI につきましては、社内ドキュメントの作成などの場面で大幅な業務効率化の助けになるものと認識しており、当社としてもその有用性に注目しております。

もっとも、生成AIに関しては、著作権侵害や情報漏洩等の観点からは、一定のリスクがあるものと承知しております。

そこで当社では、信頼できる事業者に限定し、厳格な社内ルールのもとで使用を開始しております。」

今はまだ本格的には使っていない場合には、

「厳格な社内ルールを定めることを検討し、その上で本格的な利用を進める予定です。」

というような回答の仕方もあるのかなと考えました。

一部割愛してしまって申し訳ありませんが、講義は以上で終わりにしたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。

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