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創業間もない経営者が押さえておきたい契約書チェックのNG集(後編)

GVA TECH株式会社では、テクノロジーで契約業務に関する課題の解決を目指すだけでなく、弁護士の先生方や法務に携わる方へお役に立つような情報発信を行っています。その一貫として、業務効率化や顧問獲得に関するセミナーも開催しています。

今回は「創業間もない経営者が押さえておきたい 契約書チェックのNG集」をテーマに、非法務の担当者が最低限押さえておきたい契約書チェックのポイントをお伝えしました。

創業まもない企業では、非法務の担当者が契約書チェックをすることも多く、中には社長や役員が自らチェックするケースもあるかと思います。そこで今回のセミナーでは、非法務の方が最低限の契約書チェックを遂行できるようになることをゴールに、具体例も交えながら以下の流れでお話ししました。

  1. 企業の契約関係の全体像
  2. 契約書がなぜ必要か
  3. 契約書の読み方(総論)
  4. 時間がなくても気を助けるべきポイント(各論)

後編では、ケースごとのNG事例を解説します。


仲沢 勇人
弁護士法人GVA法律事務所 弁護士/リードアソシエイト
GVA TECH株式会社 リーガル部門統括マネージャー

一橋大学法科大学院卒業後、司法試験合格を経てGVA法律事務所に入所。2018年頃よりGVA TECH株式会社に参画。2020年よりGVA TECH株式会社のリーガル部門統括マネジャーに就任。顧客に対するサービス導入コンサルティングとリーガルコンテンツの監修業務などを行う。


時間がなくてもここだけはチェック!ケース別NG例

ここまでご紹介したポイントに沿って、ケース別に修正すべきNG例を見ていきます。

ケース1:大手企業との協業

NG1:NDAで、当社だけが秘密保持義務を負う内容になっている

大手企業との協業をスピーディに進めようと、中身を確認せずにNDAにサインしたという話も耳にします。NDAを締結するだけであればリスクは低いと考えている方もいるようですが、そんなことはありません。実際に、NDAを締結していなかったがために失敗した企業や、NDAを締結していたおかげで命拾いした企業も見ています。

タイトルのように、NDAで当社だけが秘密保持義務を負う内容になっている場合は要注意です。この場合、先方は当社から仕入れた情報を原則自由に使っていいことになり、早い段階から大手に模倣される可能性が高まります。体力的・リソース的に優位な大手が同様の事業で当社を模倣すれば、当然ながら市場で勝つ可能性が低下します。

ここでの対応策はシンプルで、互いに秘密保持義務を負う内容に修正することです。「X社は」と当社のみが主語になっている箇所を、「X社及びY社は」に修正します。

NG2:類似取引の検討が禁止されている

この文言は、他の企業との類似の協業の検討、及びその実行を禁止するものです。最もうまくいく協業の形を模索する選択肢すら潰されてしまい、肝心の取引ゴールを達成しづらくなります。取引契約書ではなくNDAに含まれているケースもありますので、注意しておく必要があります。

これについては、相手方に遠慮することなく全文を削除しましょう。削除について万が一異議を申し立てられた場合は、搾取するような内容の契約を押し付けてくる企業ということですから、取引そのものの停止を検討してもいいくらいであると考えます。

NG3:返還・破棄条項がない

これは、協業(の検討)を打ち切る場合に、提供した情報等の返還・破棄に関する文言がそもそも入っていないケースです。協業(の検討)を打ち切った後でデータ等を流用される可能性を防げず、当社の競合他社に当該情報を流用されるリスクもあるため、この条項が入っているかは必ずチェックしましょう。破棄証明書の提出を義務付ける文言まで盛り込めるとベストです。


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ケース2:協業取引を開始する

次に、協業取引を開始するケースです。ここでは具体的な差分を見ていくため、細かいシチュエーションを設定します。

<シチュエーション例>

  • Y社との協業の話が進展し、テストながらシステム連携の開発を進めようという話になった。
  • 口頭ベースでのやりとりでは、エンドユーザーの売り上げは50:50でという話になっている。
  • 知的財産権について、特に話はしていない。
  • 他の企業に対して同様の取り組みを進めることも構わないと言ってくれている。
  • Y社は大企業だし、契約書もそうなっているだろうから、あまり真剣にチェックする必要もないかな。

NG1:取引内容が実態と整合していない

契約書の文言が、そもそも従前の取り決めと異なる内容になっているケースです。

<Y社から提示された条文>

第●条(アプリ収益の分配方法)

1.Y社は、本アプリから生じた収益(甲がプラットフォームから報告を受けた本アプリによる売上総額から消費税を控除した金額をいう。)を、本件〇〇ごとに算定し、次の各号に従ってX社に分配するものとする。

(1) オリジナル●●に係る課金収益  X社が5%、そのY社が95%とする。
(2) 既存●●に係る課金収益  Y社が100%とする。
(3) 本アプリ上に表示する広告に関する広告主からの収益  前号と同様とする。

2.Y社は、前項に定めるX社に支払うべき収益(以下「本分配金」という。)について、当月末締めにて集計を行い、翌々々月の2営業日までにX社に対して報告し、当該報告の当月末日までに、X社に対して銀行口座振り込みの方法により支払いを行うものとする。なお、本分配金の支払手数料は、X社が負担する。

口頭でいくら約束していても、契約書段階でギャップを見落としてしまうと、契約書の内容が優先されてしまいます。時間がなくても数字はしっかり確認し、可能であれば取引内容を理解している人に5W1Hを意識したチェックを依頼し、正しい情報に修正しましょう。

<Y社から提示された条文の修正例>

第●条(アプリ収益の分配方法)

1.Y社は、本アプリから生じた収益(甲がプラットフォームから報告を受けた本アプリによる売上総額から消費税を控除した金額をいう。)を、本件コンテンツごとに算定し、次の各号に従ってX社に分配するものとする。

 (1) オリジナル●●に係る課金収益  X社が50%、そのY社が50%とする。
 (2) 既存●●に係る課金収益  Y社が100%とする。
 (3) 本アプリ上に表示する広告に関する広告主からの収益  前号と同様とする。

2.Y社は、前項に定めるX社に支払うべき収益(以下「本分配金」という。)について、当月末締めにて集計を行い、翌々々月の2営業日までにX社に対して報告し、当該報告の当月末日までに、X社に対して銀行口座振り込みの方法により支払いを行うものとする。なお、本分配金の支払手数料は、X社が負担する。


NG2:知財の帰属が全て先方になっている

成果物の権利が全て相手方に移転する内容になっていると、貴重な営業財産を失う可能性があります。ワーストケースとしては、今後同種のアプリ開発・利用がNGとなる可能性が考えられ、非常に重要な内容です。

<Y社から提示された条文>

(知的財産権の取扱い)

1.本件業務遂行により作成された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条を含む。)その他の知的財産(特許権、実用新案権、商標権、意匠権、その他の知的財産権(それらの権利を取得し、又はそれらの権利につき登録等を出願する権利を含む。)をいう。)に関する権利(以下、これらの権利を総称して「知的財産権等」という。)は、すべてY社に帰属するものとし、その対価は、Y社がX社に支払う委託料に含まれるものとする。

2.X社は、委託業務遂行の過程において知的財産権等が発生した場合、Y社にこれを通知しなければならない。

法律上、知財権は創作・発明した人に帰属するのが原則ですが、以下のように「帰属」と「利用」の問題に切り分けることで、双方が納得できるような落としどころを見つける幅が広がります。

  • 帰属の問題:権利を保有し、自由な利用・処分ができる(好きに扱える)
  • 利用の問題:権利を保有しない当事者が、協業の範囲を超えて利用することの可否、有償・無償、第三者への再利用許諾の可否、などを指定できる

「帰属」と「利用」の問題に切り分けることでアレンジの幅が広がる分、どのように落とし込むかの判断も難しいものとなりますが、ここでも各選択肢のメリット・デメリットを言語化して比較し、ワーストケースのインパクトを考慮して合理的なリスクコントロールをすることが望ましいでしょう。

事例では、自社サービスに使われている知財は自社に残すことで事業の持続可能性を確保しつつ、利用範囲を明確に設定した上で利用許諾をすることで、先方との関係性も維持できる内容になっています。

<Y社から提示された条文の修正例>

(知的財産権の取扱い)

1.本件業務遂行により作成された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条を含む。)その他の知的財産(特許権、実用新案権、商標権、意匠権、その他の知的財産権(それらの権利を取得し、又はそれらの権利につき登録等を出願する権利を含む。)をいう。)に関する権利(以下、これらの権利を総称して「知的財産権等」という。)は、X社が従前から保有するものを除き、Y社に帰属するものとし、その対価は、Y社がX社に支払う委託料に含まれるものとする。

2.X社は、委託業務遂行の過程において知的財産権等が発生した場合、Y社にこれを通知しなければならない。

3.第1項においてX社に留保された知的財産権について、X社は、Y社に対して、本件取り組みにおける成果物利用の限りにおいて、その利用を許諾する。当該利用許諾の対価は、委託料に含まれるものとする。

非法務パーソンの契約書チェック、ポイントはたったの2つ

今回「創業間もない経営者が押さえておきたい 契約書チェックのNG集」をテーマにお話ししましたが、非法務パーソンの契約書チェックのポイントは以下の2つにまとめることができます。

1. 取引内容が正確に契約書に反映されているかチェックする

2. 自社のビジネスゴールの達成可能性を低下させる条項がないか、想像力を働かせてチェックする

非常にシンプルなポイントですので、ぜひこれらを意識して契約書チェックに臨んでみてください。

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