GVA assistは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、法律事務所に所属する弁護士の先生や、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、弁護士業務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。
今回は、法律事務所に特化した案件管理システム LEARA を開発している、株式会社レアラの大橋良二弁護士をお迎えし、リーガルテック活用のポイントについてお話いただきました。
本まとめは前後編でセミナーをレポートいたします。
大橋 良二 先生
株式会社レアラ Co-Founder/弁護士
現役弁護士。一新総合法律事務所 理事 兼 東京事務所所長。日本弁護士連合会 業務改革委員会所属。
デジタルソリューションを活用した法律事務所経営改革の第一人者。弁護士業界全体がデジタルシフトしていくことの社会的価値の大きさを信じ、LEALAを共同設立。
康 潤碩(かん ゆんそ)
GVA TECH株式会社 CLO/弁護士
横浜国立大学法科大学院卒業後、司法試験合格を経てGVA法律事務所に入所。2017年末頃よりGVA TECH株式会社のリーガルサイド責任者として参画。2019年よりGVA法律事務所のパートナーに就任するとともに、GVA TECH株式会社のCLO(Chief Legal Officer)に就任。
目次
法律事務所に特化したクラウド案件管理システム「LEALA」の特徴
LEALA は法律事務所の変革を支援するクラウド案件管理システムとして開発が進められています。株式会社レアラの大橋良二先生は、ご自身が弁護士であることもあり、法律事務所の業務について精通しています。その知見を活かし、幅広い業務、幅広い事務所規模でも対応できる案件管理システムとして LEALA を開発しているとのこと。
リリースからわずか2年で、弁護士数50人を超える大規模事務所から独立開業したてのひとり事務所まで、多くの事務所に導入実績があるそうです。
法律事務所の業務の進め方は事務所ごとに異なり、事務所の規模や手掛けるジャンルによっても大きく変わります。にも関わらず、なぜ LEALA が導入されているのか、そのポイントは「柔軟なカスタマイズ性にある」と大橋先生は語ります。
「LEALA は Salesforce というプラットフォームを活用してシステム開発をしています。Salesforce は非常にカスタマイズ性の高いシステムです。事務所のご要望でこういう項目が欲しい、こういう項目を登録したい、といったご要望にもきめ細かくご対応できるのが特徴です」
先述の通り、法律事務所の業務の進め方は事務所ごとに異なることから、案件管理をするにしても独自の項目が求められます。一般的なアプリケーションでは法律事務所ごとの細かい運用まではカバーしづらいところも、LEALAでは柔軟に対応できるそうです。
Salesforce とは、日本を含めた世界でもっとも利用されている案件管理アプリです。日本国内でも、内閣官房、三菱UFJ銀行といったセキュリティに厳しい組織にも活用されています。しかし、当然ながら法律事務所向けではありません。そのまま法律事務所で使おうとすると設定やカスタマイズが大変です。
LEALAは、Salesforceプラットフォームの良いところは残しながら、法律事務所向けにカスタマイズしたものを提供しているサービス、だそうです。
LEALA開発の背景
LEALA はなぜ開発されたのでしょうか。最初のきっかけとしては、大橋先生が海外の法律事務所を視察したときのご経験が大きかったそうです。
数年前にフィンランドの有名な法律事務所を見学した際、システムをとても上手に活用しているさまを目の当たりにされました。情報の収集、依頼者や顧問先とのコミュニケーション、案件管理、スケジュールやプロジェクトの管理など、日本だと口頭または紙などで行われていたことの殆どが、システム上で行われていて、大変驚いたと語っています。
そのようなシステムを日本の法律事務所向けに提供できないかと考え、開発を始めたのがきっかけだったそうです。
そうした経緯を経て、2016年、大橋先生がパートナーを務める一新総合法律事務所で、LEALAの前身となるシステムを独自に開発しようとしたそうです。その背景には、法人としての一体性を確保したいという目的がありました。
「一新総合法律事務所は新潟が本店なのですが、東京に支店を出すことになりました。拠点が増えてそれぞれの拠点で情報が拡散してしまうため、コミュニケーションの量を確保しないと、法人としての一体性を保つのが難しい、といった課題がありました。そこで、クラウド上で情報共有をして、事務所が一体として活用できるシステムが必要だということになり、まずは Salesforce を事務所で導入しました」
Salesforce を事務所に導入するにあたって、コスト面や導入時のカスタマイズの問題が顕在化したそうです。
まずコストについては、導入時、ライセンスと開発費用を合わせると1千万円以上かかったとのことです。また、導入時のカスタマイズにおいても、法律事務所ならではの悩みがあったようです。たとえば主任弁護士の項目を入れる、事件分野をの分類・管理など、いろんな条件を一つひとつ整理してカスタマイズしていかないといけないのが、とても大変な手間だったそうです。
そうした問題を乗り越えてリリースした LEARA の特徴として、カスタマーサービスの充実も挙げています。
事務所ごとに使いやすいようカスタマイズができる分、使いこなせれば大変強力な武器となりますが、使いこなせなければ意味がありません。LEALAではアプリケーションを売って終わりではなく、アプリケーションを売ったあとのサポートも充実させることで、実際に使ってもらえるよう支援しているとのこと。
しっかりLEALAを使いこなしてもらい、それぞれの事務所で上手に活用し、事務所が成功していく。「お客さまの成功を目標として営業している」そうです。
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LEALAで業務を効率化し、弁護士一人あたりの案件数が100件に
大橋先生から、LEALA を導入している事務所が、導入前に抱えていた主な課題をお話しいただきました。
1.業務に必要な情報が分散しているので一元化したい
情報をExcelでまとめていたり、複数のアプリケーションに入れていたり、情報が一元化できていない事務所が多いです。情報が一元化されていないということは、一括で検索できないということなので、情報を活用することもできません。これを一元化したいというニーズが一定数以上あるそうです。
2.事務所として業務品質に拘りたい
期限管理や、交渉中に一定の期間が経過したらアラートが出る機能、新人の弁護士が所内の情報を検索して過去の事例を探しやすい状態にする、等、事務所全体としての業務品質をベースアップしたい、というニーズも多いそうです。
3.勘頼みの経営から脱却したい
これからは法律事務所もしっかりと「経営」をして、個々の弁護士に質の高いリーガルサービスを提供してもらうことが重要になると大橋先生は語ります。
経営においては、勘も非常に大事ですが、もう一つ大事なのがデータです。経営者弁護士にはデータをしっかり分析することも求められます。LEALAは分析に優れたツールで、自事務所のデータを分析する際に、活用したいという要望も多いとのことです。
LEALA ご導入事務所の事例
セミナーでは LEALA を導入している事務所の事例も紹介いただきました。
事例1:ExcelからLEALAへ。生産性が2倍に。
大阪のある弁護士法人では、個々の弁護士がExcelで事件を管理して、さまざまな場所に情報が分散していたのですが、LEALA 導入後は従来の2倍以上の生産性を上げることになり、弁護士一人あたりの案件数が100件に増加したとのことです。
事件の処理を効率化して、システムで対応すべきところはシステムで、人でやるべきところは人でと、分業して活用することで生産性を挙げている事例といえるでしょう。
事例2:月30時間の工数を削減
弁護士1名、事務局4名のある法律事務所は、一般民事の案件を数多く手がけられていました。LEALAを導入することで事務処理の負担が軽減されて、弁護士の業務時間が月あたり30時間も削減されたそうです。結果として、業務処理のスピードが上がり、コロナ禍でも受任件数、売上ともに増加することができたとのこと。
事例3:経営・マーケティング分析に活用
7支店展開している弁護士法人で、弁護士数13名の法律事務所では、経営分析の観点で利用されているとのこと。
事務所にどのような問い合わせがありどういう形で受任しているのか、各支店や事件分野ごとの広告費はいくらで費用対効果が出ているのか、といった、事務所を成長させるための経営やマーケティング分析に活用しているとのことです。
弁護士が"紹介される"ためには専門性がキー。専門性を磨くためにツールを活用。
セミナーの第2部では、GVA TECH株式会社 CLO/弁護士の康(かん)が、弁護士のリーガルテック活用のポイントについて解説しました。
まず、弁護士は依頼者に選ばれないといけません。その選ばれる最多の理由は「紹介者が信頼できる」ことです。信頼できる人に紹介された弁護士には専門性があるように見えますし、信頼が増します。
弁護士に依頼する、という行為は、一般の方にとっては日常的なできごとではないため、信頼できる知り合いから紹介してもらうケースが多いのが現状です。そうなると、信頼される方から紹介を受けるためには、紹介する方が「その弁護士を認知しているかどうか」がポイントになります。
「誰か良い弁護士はいないか」と聞かれたときに、ぱっとその弁護士の名前が思い浮かぶことが大切で、単に「弁護士の○○さん」では埋もれてしまう。「○○の分野に強い」弁護士の○○さんでなければ、ファーストチョイスで思い浮かんでこない場合が多いのでは、と康弁護士は警鐘を鳴らします。
康の実体験も語られました。
「弁護士1年目からAI系ベンチャー企業の顧問を5〜6社担当していたので、AIとIoT専門ですと明言するようになりました。すると、AIでもIoTでもないVRの会社さんのご紹介もいただけるようになったんです。紹介いただく際は「康さんはAI専門と言っていますが、VRもできますか?」といったコミュニケーションが増えたので、「○○専門」と言い切ることが重要なのかもしれません」と語っています。
弁護士がこの専門性を身につけるためには、定型業務を圧縮したり、自分がやらなくても良い作業を効率化して「時間」を創出し、その時間で専門性を身につけるのが大切だと康弁護士は語ります。
そのために必要なのがITツールです。たとえば、契約審査におけるナレッジを自身のPCで管理していると、チームで連携するときに情報が分散してしまい非合理的です。ITツールでしっかり共有して開示できる仕組み、かつ、スピーディーに取り出せる仕組みが大事だと康は語ります。
ベンチャー企業に強い法律事務所が活用しているITツール
GVA法律事務所が導入しているITツールも解説されました。GVA法律事務所ではコミュニケーションツールから業務管理サービスまで、分野ごとに様々なサービスを導入しています。そのなかで、康は「クライアントとのやり取りを円滑にすすめるためにも、弁護士はコミュニケーションツールを幅広く触っておいたほうがいい」と語っています。
「ITベンチャーの顧問先が多いこともあり、いろんなコミュニケーションツールを使っています。弊所はSlackをメインで使っていますが、Facebookメッセンジャーのグループでのやりとりも多いですし、クライアントのツールに合わせるのは大事かと思います」
また、GVA法律事務所が活用している業務時間の計測・管理ツール「TimeCrowd」で、追加課金率が30%上昇したという事例も語られました。
TimeCrowd では、案件ごとの業務時間を管理してます。弁護士はタイムチャージで先方に請求するケースが多くありますが、若手の弁護士がリサーチなどで稼働がかさんでしまったりすると、顧問先に遠慮して稼働時間を少なく請求する、といったことが状態化したりします。
「顧問先との関係性を維持するために、値引きというか、タイムチャージをこれくらいにしておいたので、これくらいで請求しますね、ということが水面下で発生するんですよ。特に成果物の質で横槍が入った場合とかです。こういうことは組織規模が大きくなると絶対あると思います」
「もちろん顧問先との関係上、値引きする場合も当然発生しますが、それらの判断は現場ではなくパートナー決裁にするのが組織として重要です。そして、そもそも実際にどれくらいの稼働があったのか、そことの差分をしっかり把握できるようにしているのが、TimeCrowdを活用したGVA法律事務所の売上アップの背景かと思います」とのことです。
AIを活用して業務効率化を進める
康からは GVA assist の説明もいたしました。
契約書のリーガルチェック時に弁護士がどこに負担を感じているか。GVA assist ご利用者様のアンケートから、弁護士が特に負担を感じるのはリスクを読み取るプロセスよりも「条項を直す」プロセスと「契約書をゼロから作る」プロセスだそうです。
GVA assistでは、これらの負担も軽減することができます。たとえば、契約書上のリスクの検知。
GVA assistにプリセットされている契約書と、審査対象の契約書を比較して、不足している条文のアラートを出してくれたり、重要な用語の抜け漏れや逆に契約上リスクになる単語が入っているとアラートが出てきます。
条項を直す際は、弁護士が監修している条文が多数表示されるため、いちいち関連書籍を開いて写経する必要がありませんし、瞬時にWordの画面上に出てくるので、簡単に条文の修正を行うことができます。
また、GVA assistにはプリセットで400種類以上の契約書の雛形が搭載されており、この雛形を瞬時にダウンロードしてすぐに利用することができるため、「契約書をゼロから作る」負担の軽減にも繋がっています。
LEALA の事例にもあるように、事務所としてナレッジをストックして共有するのは大事なことですが、それをWord上でできるのも GVA assist の特徴の一つです。
GVA法律事務所を例にあげると、特に新人の弁護士や契約審査に慣れていない弁護士がリーガルチェックを手掛けると「条文の抜け漏れ」が生じてしまうケースがあります。そうするとセカンドレビューにも時間がかかります。
抜け漏れチェックや用語の統一などの作業は、人が行うよりもシステムのほうが得意なことから。GVA assist を使うことで、業務時間を短縮できているとのことです。
(後編へ続く)