GVA TECH株式会社では、テクノロジーで契約業務に関する課題の解決を目指すだけでなく、弁護士の先生方へお役に立つような情報発信を行っています。その一貫として、弁護士の先生向けに、業務効率化や顧問獲得に関するセミナーも開催しています。
今回は、スタートアップ法務をテーマに、AZX総合法律事務所のマネージングパートナー COO 弁護士 菅原 稔先生と、弊社代表取締役でありGVA法律事務所の代表弁護士も務める山本がディスカッションしました。本稿では実際のディスカッションで使用したトピックに沿って、その内容を前後編2回にわたってお伝えします。
菅原 稔 先生
AZX Professionals Group
マネージングパートナー COO
弁護士(第一東京弁護士会所属)
弁護士登録後、一貫してベンチャー企業・ベンチャーキャピタル(VC)の法務サポートに従事。2016年には株式会社ジャフコへ出向し、ファンド組成や投資先の支援などを行う。幅広いステージの企業及びVCをクライアントとしており、特にベンチャーファイナンス領域でのサポート実績が豊富。2018年AZXパートナー、2019年同マネージングパートナー就任。2020年東北大学特任教授(客員) 就任。
山本 俊
弁護士法人GVA法律事務所 代表弁護士
GVA TECH株式会社 代表取締役
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで49位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「GVA(ジーヴァ)」シリーズの提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。
スタートアップ法務の定義とは
山本:
そもそもスタートアップ法務というカテゴリが存在するのか、という議論が一時期SNSでも話題になっていましたよね。
菅原先生(以下、菅原):
本質的には「スタートアップって何だろう?」という問いに近いんだと思います。その観点でいうと、スタートアップ法務は、スタートアップという存在に付随するさまざまな特色の集合体といえるのかなと。
山本:
たしかにスタートアップは外部から資金調達をしている以上、IPOかバイアウトかの出口を求めて革新的な挑戦が多くなり、必然的に適法性の問題がついて回るという特色が挙げられますね。
菅原:
そうですね。昔はベンチャー企業と中小企業が同一視されることもありましたが、中小企業法務との一番の違いは、その革新的な成長に伴うスピード感だと思います。
スタートアップ法務の典型的な業務は
山本:
AZXさんも我々もそのような特徴をもつスタートアップ法務を専門としていますが、典型的な業務はどのようなものですか?
菅原:
うちは契約書レビューが圧倒的に多いです。まさにGVA TECHさんの GVA assist が解決しようとしている領域が、業務の大部分を占めています。契約書レビューを1営業日の猶予もない中でひたすら倒していくような、泥臭い仕事が大部分です。
山本:
法務部門をもっていない企業にとっての社外法務的な役割が大きいですか?
菅原:
それが8割です。株主間契約や利用規約の整備など創業時特有の業務もありますが、そのあたりは一度作ればそう何度もやることではないですから。ビジネスモデルすら固まっていない段階で相談をいただいたりするのも、スタートアップ法務ならではの大変さだと思います。
山本:
分かります。ただでさえスピードを求められるのに、まだ誰も答えをもっていないような業務がそこに乗っかってくるのがスタートアップ法務の大変なところですよね。本来であれば腰を落ち着かせて調べものをしたり、省庁に照会をかけたりしたい中で、まずは当たりをつけるところまでをやってあげる必要があるというか。業務そのものにフォーカスすると正直辛いですが、 クライアントと共にすごいスピードで成長できるのが醍醐味ですよね。
【PR】契約書レビュー業務の効率化を実現する、
AI契約審査クラウド
GVA assist
印象に残っている案件
菅原:
私にとってスタートアップ法務の一番の醍醐味は、社長との距離の近さです。自分のアドバイスがビジネスに反映される面白さは、弁護士になりたての頃は特に感じていました。一緒にビジネスを作っていった会社の上場セレモニーに呼んでもらえたり、初めて会ったとき学生だった社長が上場企業の社長になったりするのは、感動です。
山本:
ちなみに出会ったクライアントがIPOやバイアウトをするまでの最短期間ってどれくらいでしたか?
菅原:
3〜4年で結果を出す会社もあります。弁護士が10年やってようやく一人前といわれるのに対してそのスピード感ですから、たまらないですよね。
山本:
そうですね。事務所を作った年に顧問になったクライアントが、5年でそういう感じになりました。そのときの結果としては買収だったのですが、ストックオプションや株式の処理について勉強になりましたし、クライアントと毎晩議論したのが印象に残っています。また一緒に頑張ろうという話をしたり、その社長が退任された後にもう一回自分のところにきてくれたりしたのも嬉しかったです。
菅原:
なんでもなかった会社がなんらかのイベントを迎えていくのを見守らせてもらう経験は、思い出に残りますよね。そういう意味で我々は、業界の人たちに育ててもらっている側面もあると思います。私が弁護士になって2、3年目の頃、今はユニコーンになった企業のファイナンスを担当したのですが、その時はクライアント側のCFOにめちゃくちゃ怒られました。こんな新人(当時)にもきちんと高い水準を要求してくれるので、それに答えようと必死になった経験が、いまの自分のベースを作ってくれたんだと思います。
山本:
いい意味で叱ってくれるクライアントとの出会いは大切ですよね。AZXさんでは、業務自体はパートナーとアソシエイトがペアを組んで進めるんですか?
菅原:
そうです。基本的に2人1組で、アソシエイトは1年目から窓口として電話対応などもやります。スタートアップからの電話ってテーマが全く読めなかったりして、それだけでけっこう大変だったりするんですが、うちではアソシエイトに任せています。
スタートアップ法務業界の変化
山本:
菅原さんが弁護士になった2013年から見て、業界の変化を感じますか?
菅原:
まず、当時10人くらいだった事務所が今は40名弱の体制になりましたが、これでもまだ人が足りない状況ですので、少なくともスタートアップの需要が4倍以上になったということだと思います。スタートアップに投下される投資総額も、当時の6〜7倍と年々増えてきており、それにより弁護士への依頼量も増加している印象です。
また、ここ数年でようやく自分のやっていることが認知されるようになったのも大きな変化の一つです。弁護士になるときはベンチャーを専門にすると言うと周りからかなり心配されましたし、弁護士になってからも数年間は、同窓会に参加しても何をやってるかわからない人という扱いが3年くらい続きました(笑)
山本:
私も2011年頃は今でいうスタートアップ法務をそれと知らずにやっている感じでした。インキュベーターが500万円を投資してアプリを作りなさい、みたいな。今だと優先株にするなら1億円以上かなというイメージがありますが、当時は2,000〜3,000万円でも大きかったですよ。
菅原:
最近は投資する側も、優良なスタートアップに受け入れてもらうのが大変だったりしますよね。500〜1,000万円はもうエンジェルが投資しちゃう金額になってきたので、VCは大変そうです。
スタートアップ法務の魅力
菅原:
私がこの領域でやり続けているのは、楽しいからです。伝わるか心配ですが、ベンチャーで働いている人が好きなんですよね。元々ベンチャーの人たちと一緒に仕事をしたくて弁護士になったくらいですから。
山本:
それは初耳です。スタートアップ法務の申し子ですね(笑)。
菅原:
学生のときに出会ったベンチャーの人たちが、ぶっとんでいて面白かったんですよ。ただ自分は彼らほどぶっとんだことをできないし、同じことやっていても勝てないので、違う戦い方で一緒にやりたいと考えて、弁護士になりました。「自分が作ったサービスで世界を変える」という社長のパッションを間近に見ながら、その夢についていけるのは楽しいですよ。しかもそれを何社分も一度に見れるというのは、他では味わえない楽しさだと思います。
山本:
私は弁護士になって3年目で独立するときにスタートアップ法務を選んだわけですが、ゼロイチのシード期が好きなんだと思います。新しいビジネスに対して周辺の法務を議論しながらやっていくのが好きなんです。独立前に2年間所属した事務所でも、クライアントの規模が大きくなって社長以外の担当者が出てきたりするようになると、自分もフェードアウトしたくなっちゃって(笑)。2年間勤めている間に自分の好きなことが分かったので、そればっかりできたら楽しいなと思ってGVA法律事務所を作りました。
また、私の場合はファイナンスの領域も好きでした。2012年当時はベンチャーファイナンスの概念があまりなかったので、磯崎哲也さんの『起業のファイナンス』を本気で読み込みました。当初はスタートアップとの接点を作るよりもVCとの接点を作る方が大変だったりしましたが、いろんな人に話を聞きながら、なんとかかんとかやっていました。
GVA TECHをやり始めてからは、VCに対する見方も変わりましたね。最初は役員派遣の条項を見つけると「修正すべし!」みたいな感じたっだんですが、VCってスタートアップを上から押さえつける存在ではなく、仲間なんだと気づいたんです。よく考えたら貴重なリソースを使って役員を派遣してくれるなんて、ありがたい話なわけで。
菅原:
私も、彼らの仕事はお金を入れた後に始まるんだと気づいてから、VCとの仕事が楽しくなりました。投資契約ってただの交渉だと思われがちですが、実は一緒にやっていくための目線合わせであり、お互いが腹を割って話すことが不可欠なんですよね。自社の状態や課題、解決したいことを明らかにする作業を経て、スタートアップとVCが一緒にビジネスを作り上げていくプロセスがすごく好きです。