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【セミナーレポート】国際仲裁・調停条項の作り方と、レビューの観点を学ぶ(後編)

GVA TECHでは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。

今回は、国際仲裁・調停に際して、法務部門が気をつけるべき契約書作成とレビューのポイントについて、霞ヶ関国際法律事務所国際仲裁Chambers パートナー 弁護士 高取 芳宏先生、弁護士 佐々木 陽一先生を講師に迎えて、

・国際仲裁と調停の違い
・仲裁人の選び方
・仲裁地の選び方
・言語はどう決めるか

など、基本をわかりやすく解説いただきました。

前編はこちら


高取 芳宏 先生
霞ヶ関国際法律事務所・国際仲裁Chambers
 パートナー弁護士(日本及び米国ニューヨーク州登録)
英国仲裁人協会上級仲裁人(F.C.I.Arb.)
東京大学法科大学院講師

フィナンシャルタイムズにおいてアジア太平洋地域のトップ10弁護士に日本人で唯一選出された(2019年)国際仲裁・調停の第一人者。日本仲裁人協会常務理事、英国仲裁人協会日本支部共同代表等を務め、日本、シンガポール、韓国の主要仲裁機関で仲裁人リストに掲載される。弁護士評価機関として世界的に権威のあるChambersにより永年にわたり最上位のBAND1にランクされている。ハーバード大学法科大学院卒。


佐々木 陽一 先生
霞ヶ関国際法律事務所・国際仲裁Chambers
 弁護士(第一東京弁護士会)

弁護士登録当初法律事務所勤務し、その後都内のスタートアップ企業において、IT領域特化のM&Aアドバイザーとして勤務。0からのM&A戦略立案、候補先企業へのアプローチ、DDの企画・実施、契約書の交渉・作成とM&Aの0から10までを担当し、国内外のベンチャー企業から老舗上場企業に至るまで様々な企業のM&Aを成功に導いてきた。
2019年より霞ケ関国際法律事務所での勤務を開始し、特にIT分野を中心に、国際的な仲裁案件や事業再生案件を担当。


仲裁地=仲裁をする場所ではない

次に仲裁地についてです。

仲裁地については多くの誤解があり、仲裁地=仲裁をする場所と捉えている方が非常に多いそうです。

仲裁「地」というのは法的な概念であり、たとえば仲裁地が日本なら日本の仲裁法が適用される、シンガポールを仲裁地とするならシンガポールの手続法が適用される等、その仲裁手続に適用される法律を決める法的な概念であり、必ずしも物理的な場所を意味するものではないので注意が必要です。

したがって、その日本を仲裁地として仲裁手続きが行われる仲裁判断が書かれた場合には、その取り消しを行うのは日本の仲裁法に従う、日本の法律に従って日本の裁判所が決めることになります。

これは判断の取り消しだけではなく、法的に途中で証人尋問や証拠の提出、保全処分など、どこの国の裁判所が介入し得る可能性があるのかを決める上でも非常に重要な概念です。

基本的に仲裁「場所」とは違って、仲裁地は手続きの枠組みを決める非常に重要な法的概念と肝に銘じ、「契約のドラフティングは実際に弁護士がするとしても、チェックのしどころ、自社の関わり方において重要なポイントなんだと覚えておいてほしい」と高取先生は語ります。

仲裁と裁判の大きな違いは、その国の裁判官が決めるのではなく、自分たちが選んだ仲裁人が進行して判断するという点です。そのため、裁判ほどローカル・バイアスがあるわけではありません。

たとえばシンガポールで仲裁をするからといって、必ずシンガポール人の仲裁人が裁くというわけではありません。日本の仲裁人が選ばれることもあり得るし、パリの仲裁だからといってフランス人の仲裁人を選ぶ必要もなく、こちら側は日本の仲裁人を選べる条項にしておけばいい。「仲裁人を選ぶ権限は当事者にある」ということを留意していただければと思います。

ただし、仲裁地は、準拠する手続、仲裁合意などの解釈を左右する可能性や、裁判所の介入可能性を考えると、ローカル・バイアスとまではいきませんが、やはり手続の根幹を決める非常に重要な決定事項であると話しています。

準拠法に関する3つのポイント

準拠法については大きく3つあります。

当該契約の内容解釈の準拠法

実体の準拠法です。ニューヨーク法にするのか、スイス法にするのか、あるいは日本法で行けるのかといった議論がされるところです。

紛争解決の手続の準拠法

仲裁手続が何法に基づいて行われ、解釈されるのかという準拠法です。

仲裁合意の準拠法

仲裁合意の有効性、管轄をめぐる解釈の準拠法です。

高取先生は「この3つについては異なるものなんだと頭に入れたうえで、契約のドラフティングやチェックをしていただきたい」と話しています。

日本語にするのが本当に有利?

次に言語です。仲裁手続きや調停手続きがどういう何語で行われるのかについてです。

国際的な場面、国境を超えた紛争解決においてはほとんどが英語。ヨーロッパ、アジア、中国の相手方でも英語であることが多いそうです。

もしも、これを日本の企業として日本語にしたいのであれば、交渉になります。

また、証拠を出すときに、英語が言語だと日本語のドキュメント(稟議書や決済書、領収書など)を翻訳して出さないといけません。こちらが出したい証拠は、主張を申し出る側が翻訳する費用も負担するのが通例ですから、証拠についての言語をどうするかも決めておく必要があります。

翻訳や通訳の費用負担をどちらがするのかにも注意が必要です。証人尋問の通訳は、逐語訳で翻訳自体を後からチェックしながら進めるのが通例で、同時通訳は正確を期する仲裁や調停ではあまり行われません。相手が英語の場合、こちらは日本語で発言するのであれば、通訳を立てなければなりません。その費用の負担の話が出てくるということです。

これらを前提に言語を何語にするのか。日本語にできるのか。その余地を残すのか。そのあたりは仲裁のドラフティングの交渉事でありテクニックになるとのことです。

通常は英語使用が圧倒的に多いなかで、どうしても日本語にするのかどうか。本当に日本語にするのがいいのかについては、さまざまな考え方があります。

コストの節約や馴染みの点、チェックする際には日本語が有利という考え方がある一方で、契約書自体は英語にして、英語に堪能な弁護士を代理人として立て、日本法に長けていて信頼できる仲裁人もいますので、そういった仲裁人を選ぶことを前提に英語を言語とするという選択肢もあるとのことです。


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人数はどのようにして決められる?

仲裁人、調停人の数は、当事者の合意で決めるが、合意ができない場合には、仲裁・調停機関が選任する等、各機関の規則に定められています。

仲裁人や調停人の数を仲裁機関の判断に委ねるか、あるいは3人ではコストや時間も掛かるだけだし1人でお願いしますというような合意ができるのであれば、仲裁合意の中で1人と明記をすることもあります。

仲裁人は奇数が通常です。意見が割れることを想定すると奇数で決めていくことが原則です。

一方で、調停人は1名でも、2名のような偶数でも有効に機能することがあります。先日、高取先生が手掛けた案件では、高取先生とシンガポール法曹協会の会長の2名が共同調停人となって進められたとのことです。

2名で行うメリットとして、言語だけではなく文化的な背景の理解を挙げています。「当事者のリーガル・バックグラウンドも含めて、たとえばコモンローと大陸法のそれぞれの発想、それぞれの手続へのナレッジも含めて、調停の場合にはコミュニケーションが重要になるため、クロスカルチャーの場合には2名での調停が非常に有効な場合がある」(高取先生)とのこと。

仲裁人選びの重要なポイント

仲裁と裁判との決定的な違いとして、仲裁人に誰をどのように選ぶかを見据えた紛争解決条項を作ることが重要です。

裁判の場合は裁判官を選べませんが、仲裁人は選ぶことができます。3人の仲裁人の場合には、こちら側が選んだ仲裁人と相手方が選んだ仲裁人同士が話し合って第3仲裁人を合意して決めるのが通常です。合意がまとまらない場合には仲裁機関が決めます。

紛争解決条項を作る際には、

  • どういう分野で能力のある人を選ぶのか
  • どのリソースからどう選ぶことが可能なのか
  • 契約において紛争になりそうな論点について、どこで何法の手続に従って仲裁するのが得なのか損なのか
  • 仲裁人候補の情報や伝手はあるのか

などを見据えることが大切だと語っています。

なかでも重要なのは仲裁人の「資質」とのこと。

  • 分野における専門性
  • 法律家としての能力
  • 個人として信頼性
  • 他の仲裁人を説得するコミュニケーション能力
  • 仲裁人ギルドでの信頼性
  • 忙しすぎないか
  • 利益相反はないか

法務部の方やインハウスは、仲裁人に関するこのような情報を持っている弁護士、法律事務所に依頼することが重要です。

仲裁機関ごとに異なる「特徴」

JCAAやICC、SIACなどの仲裁機関に関する詳細については、佐々木先生より解説いただきました。

仲裁機関は、

  • 費用
  • 手続きに要する期間
  • 仲裁人名簿の充実程度
  • オンライン対応
  • 実績
  • 予測可能性

をもとに判断して決定します。

主な仲裁機関管理費用 (1)平均手続き機関取扱件数(2020)主な仲裁地
JCAA¥1,327,00012.8ヶ月 (2)18件 (2)日本
ICC¥2,543,51526ヶ月 (3)946件 (3)世界各国
SIAC¥1,316,95913.8ヶ月 (4)1,080件 (5)シンガポール
佐々木先生の講演資料より
  1. 係争金額を100万米ドル、仲裁人を1人としたとき。 為替レートは、1USD=109JPY=1.3SGDで換算。
  2. https://www.jcaa.or.jp/arbitration/statistics.html
  3. ICC Dispute Resolution Statistics: 2020
  4. https://www.siac.org.sg/business/69-siac-news/499-siac-releases-costs-and-duration-study
  5. SIAC_Annual_Report_2020

国際商業会議所(ICC)は管理費用が比較的高くなる場合もあり、平均手続き期間も26ヵ月と長期化する場合もあります。一方で、機関としては特定の国を仲裁地としないため、相手方企業との中立性という点で合意しやすい特徴があります。

日本商事仲裁協会(JCAA)とシンガポール国際仲裁センター(SIAC)は、管理費用や平均手続き期間に大きな差はありません。

SIACはアジアの企業を当事者とする紛争でよく使われ、多くの件数を取り扱っています。

しかし、件数が少ないJCAAが機関として不十分なのかと言ったらそうではありません。JCAAに登録されている仲裁人は、他の機関で仲裁を扱っている実績を持っている方が多くいます。そのため、JCAAを仲裁機関にしても、実際には経験豊富な仲裁人を選ぶことも可能です。

日々進化するオンライン技術にも留意

最後に、「紛争解決条項を作成する際には、オンラインを活用することも念頭に置いておく必要がある」と高取先生は語りました。

・当事者が必ずしも合意しなくてもオンラインを利用できるのか
・当事者がオンラインは嫌だといった場合にどうなるのか

は確認しておいたほうが良いし、今後規則が改訂される動き等もあるためにチェックが必要とのこと。法務部等においてすべて検討するのが難しい場合には、詳しい弁護士に依頼して、もし争いになった場合にオンラインはどの程度、どのように活用できるのかを調べておくといいだろうと語っています。

国際調停、仲裁は専門的な要素が強く、どの仲裁人に頼むのか等、詳しい弁護士、法律事務所に相談・依頼することが重要なポイントであることがわかります。

Q&A

多くの案件を手掛けた講師に、参加者から多くの質問が寄せられました。


Q.調停は合意がまとまった後で覆される危険性があるのではないでしょうか。日韓の徴用工問題のように。

A.韓国と日本の徴用工問題はある意味国家間の政治的な合意なので、少し事情が異なるかとは思います。ただ、調停が後から覆される、調停に基づいてせっかく和解が成立したのにその履行がされないということはあり得ます。

和解の際には○○いう前提で約束したけど前提が違ったとか、調停で成立した和解の条件として、××という履行が条件になっているのにその履行がされていないとか、いろんな話が出てき得るので、合意が守られない可能性は否定できません。。

ですから、きちんと履行を担保しようとすると、ひとつには仲裁の判断の形におくことで執行力を担保する方法も取られていますし、あるいはシンガポール条約に加盟がなされれば、その加盟と批准によって執行が担保されることになります。


Q.上海の弁護士から最近は仲裁で日本に不利な決定が相次いでおり、裁判のほうが公開されている分、公平性が保たれているメリットがあると聞きました。裁判が良いのか調停が良いのか、どちらが良いのでしょうか。

A.これは仲裁人の選び方の問題ですよね。「仲裁でえらい目に遭いました」とおっしゃる企業はあるんですよ。

しかし、そのえらい目に遭った原因はその企業にある場合が多い。つまり、ちゃんと適切な仲裁人を選んでいないという要因もあるんです。

あるいは企業が選んだ弁護士が適切な仲裁人を選べていないこともありますし、仲裁機関の選び方や仲裁地の選び方との関係で情報を適切に収集しておらず、不利な形で進めてしまうこともあります。

しかし、一般論として仲裁で日本企業に不利な決定が相次いでいるということは必ずしもないと思います。これは現地でのご経験や現地での仲裁人の選び方によるところが大きいと思います。


国際仲裁、調停を頻繁に経験する法務部の方は多くないと思われます。そのような場面が訪れた際、契約書のどのポイントに注意すれば良いのか、その基本をお話しいただきました。

自社に不利な進行にならないようするためには、国際仲裁や調停に詳しい弁護士、法律事務所に相談することが重要だとわかります。

本セミナーが法務部や法務関連の皆さまの業務の参考になれば幸いです。

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