GVA TECHでは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。
今回は、一人法務、少人数法務でも始められるナレッジ・マネジメントについて、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国共同事業 弁護士 門永 真紀先生を講師にお迎えしてお届けしました。
門永先生は、書籍「企業法務におけるナレッジ・マネジメント」の著者であり、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国共同事業のChief Knowledge Officerとして、所内のナレッジ・マネジメントを推進されています。
今回のセミナーでは
- ナレッジ・マネジメントとはなにか
- ひな型と先例の違い
- 収集時のポイント
- 具体的な整理の行い方、活用法
など、を丁寧に解説いただきました。
門永 真紀 先生
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
Chief Knowledge Officer/弁護士
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業弁護士。2005年慶應義塾大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年1月Chief Knowledge Officer就任。
外資系メーカー、大手総合商社など複数の出向経験を有し、ナレッジ・マネジメントを専門として、主に所内のナレッジ・マネジメント業務に従事する他、所外向けにもナレッジ・マネジメントに関するセミナーを多数行っている。主な著書として「企業法務におけるナレッジ・マネジメント」(商事法務/2020年)他。
目次
一人法務にも「ナレッジ・マネジメントは必須」
そもそもナレッジ・マネジメントとはなんでしょうか。
講師を務める門永先生は「ナレッジ・マネジメントには確立された定義が存在しない」と前置きした上で、「ナレッジ・マネジメントとは、情報、知識、経験、知恵(総称して『ナレッジ』)を集約、管理、共有して、有効活用するための仕組み、または仕組みづくり」であると定義されました。
では、何のためにナレッジ・マネジメントを行うのか。
法務部門におけるナレッジ・マネジメントの目的を、大きく3つに分けて提示されました。
- 法的アドバイスに関する内容の一貫性担保
- 法務業務の効率化
- 法務人材の育成
大人数の法務部門に所属している法務パーソンなら、いずれも納得しやすい目的といえるかもしれません。しかし、一人法務、または少人数の法務部門の場合はどうでしょう。
「一人法務や少人数法務の場合、すでにナレッジは共有できているので、ナレッジ・マネジメントは必要ない」と感じるかもしれませんが、「一人法務や少人数法務の場合であっても、ナレッジ・マネジメントは重要である」というのが門永先生の考えです。その理由として、以下の3つが挙げられています。
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一人法務であっても法的アドバイスの一貫性を守るためにナレッジ・マネジメントは必要
いくら自分で過去の案件を覚えているからといっても、自分自身の記憶をたどって毎回過去案件を引っ張り出してくるのはあまりに非効率です。
また、一人法務の場合、ひな型やチェックリストを用意して事業部門の方々に提供しているケースも多いでしょう。しかし、法務担当者が主導して適切なナレッジ・マネジメントを行わなければ、事業部門でひな型やチェックリストをどのように活用していくべきかわからず、また、事業部門において、ひな型をベースに作成した契約書に関するナレッジが新たに創られていても、法務担当者がそれを把握することはできません。
リーガルテックの導入にあたり、ワークフローの整流化、ナレッジのニーズの洗い出しが必須
法務部門の効率化を図るためには、リーガルテックを導入すればいいという考え方もあります。
しかし、リーガルテックを導入しようとしても、現状、どのようなナレッジを使ってどのように法務業務を行っているのかを整理しておかないと、せっかくお金をかけてツールを導入しても、十分に活用することができなくなってしまいます。
また、導入にあたっても「なんとなく効率化できるから」という理由では社内稟議を通すことは難しいでしょう。社内でリーガルテック導入につき説得的な説明を行うには、どの業務に対して、どのようなリーガルテックを導入すればもっとも効率的かを把握した上で、もっとも効果的なツールの提案を行うことが求められます。つまり、ナレッジ・マネジメントは、リーガルテック導入の前提として行う必要があるのです。
将来の法務メンバーのためにも、いまナレッジ・マネジメントを始めるべき
スタートアップ企業や、これから事業拡大を図っていく企業においても、ナレッジ・マネジメントは重要です。
法務部門を拡大していく場面においては、人的リソースが足りないからこそ人を増やしているわけで、法務部門全体にとって大変忙しい時期です。そんなときに引き継ぎのためのナレッジ・マネジメントを実施する余裕はありません。そのため、平時から、できる範囲でナレッジ・マネジメントを行っていくことが大切なのです。
ひな型は、どのような視点で作るべきか
ひな型のパターンを考えるにあたっては、以下のような視点から考えることが重要とのことです。
- いずれの当事者の立場で作成するか
- 国内会社同士か、海外法人との間の契約か
- 複数当事者間の契約か(特に英文契約の場合)
- 当事者が法人か、個人か(業務委託契約、請負契約等)
- 利害の対立する第三者との契約か、グループ企業の契約か
- どのような権利を付与する契約か
上記の他、とりわけ外資系企業の日本法人においては、本社から指定されたグローバルのひな型を日本法の観点からいかに見直すかという観点も必要です。
先例を蓄積する「4つのメリット」
ひな型に続いて「先例」についても解説がなされました。
先例を蓄積することのメリットとして、次の4つが挙げられています。
- 類似のスキームや事情を参照しやすくなる
- 社内で初期的検討を行う際に有用
- 潜在的紛争や、論点に関する見通しを立てられる
- 弁護士費用のコスト・コントロール
これらのメリットから、先例は日頃から蓄積しておくことを勧めています。
詳細については、ぜひ門永先生の著書をお読みいただければと存じます。
本セミナーが法務部や法務関連の皆さまの業務の参考になれば幸いです。