GVA TECH株式会社では、テクノロジーで契約業務に関する課題の解決を目指すだけでなく、弁護士の先生方へお役に立つような情報発信を行っています。その一貫として、弁護士の先生向けに、業務効率化や顧問獲得に関するセミナーも開催しています。
今回は、法律事務所の事務所経営と今後の業界展望をテーマに、大西総合法律事務所 代表弁護士 大西 洋一先生をゲストとして迎えし、
・顧客獲得のポイント
・依頼者との関係性構築
・弁護士採用で気をつけている点
・事務所マネジメントのポイント
などを、具体的な事例を元にお話しいただきました。鋭い視点と先を見据えた経営法は、多くの弁護士の先生方の参考になること請け合いです。
ホストを務めるのは、弊社の代表であり、GVA法律事務所 代表弁護士の山本 俊です。
本まとめは前中後編の3部に分けて、セミナーをレポートいたします。後編は「業界のこれから」についてです。
大西 洋一 先生
弁護士法人大西総合法律事務所 代表弁護士
(第二東京弁護士会所属)
2005年弁護士登録。1年5か月の勤務弁護士期間を経て大西総合法律事務所設立。コネなし、顧問先なし、固定電話もプリンターもなしというところから事務所を立ち上げて、ホームページ等による集客もせず、現在40名以上が在籍する法律事務所に成長させる。
Twitterでは、スラ弁というハンドルネームで業界関係者から知られている。ツイッターの投稿を元に、半分冗談で出した『法律版 悪魔の辞典』(学陽書房)は発売から半年で三刷のヒットとなっている。
モデレーター:山本 俊
GVA法律事務所 代表弁護士
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで49位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「GVA(ジーヴァ)」シリーズの提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。
従来型の弁護士は今後どうすべきか
開業から今日まで、順調に事務所を成長させ続けてきた2人の代表弁護士は、業界の今後をどのように考えているのでしょうか。
まずは、弁護士登録から現在まで目の当たりにした、業界の変化について語ります。
弁護士登録から2021年で15年が経過した大西先生は、もう情報格差では稼げない時代になったと語ります。
「僕がデビューしたときはまだ、情報格差だけでメシが食えていたところがありました。しかし、いまはネットで調べれば全部出てくるじゃないですか。情報格差ではメシは食えないなというそういう感じですよね」(大西先生)。
ネット上に弁護士領域の情報がふんだんに掲載されているため、相談に対して「ちょっと調べる」だけでは仕事にならないと言います。とはいえ、法的にはこうと言われても文句を言う人はいなくならない。文句を言う人がいる限りは事件はなくならない。そこに弁護士の活躍できる領域があると大西先生は語ります。
「いくらAIが発達しても、AIの出した結論に『それでは納得できない』と言うのが人間なので、文句を言う人がいる限りは事件はなくならない。遺産分割なんてひどいですよね。長男が全部オレのものと言ったり、姉ちゃんは全部放棄しろとか平気で言うじゃないですか。そんなの無理に決まっているのに、そんなの珍しくないですよね」(大西先生)。
この10年で、大規模事務所が次々と生まれてきました。個人事務所との違いについて、大西先生は次のように語っています。
「大規模事務所と個人の事務所の違いって、差がつけられるのは顔が見えるかどうか。顔が見えるには個性も出たほうがいいし、そういう意味ではキャラ営業になるんでしょうけど、個人で食っていく分にはキャラ営業で十分な気がします」(大西先生)。
ホストを務める山本が弁護士登録した2010年、当時は過払い金請求が弁護士業界を賑わせていた時期でした。手間は少なく、確実に報酬が取れる一方で、一過性であることから避けている弁護士も多く見られた過払い金請求訴訟。大西先生はどのように捉えていたのでしょうか。
「僕が弁護士登録したときも過払いがいい感じで、でもあと10年でなくなると言って避けている人も結構いましたね。私もやりませんでした」(大西先生)
やらなかった理由について大西先生は次のように答えています。
「単純に独立後も忙しかったんですよね。独立したけど仕事も来ないという状態ならやっていたでしょうね。売上が立つので。過払いは10年で終わると言われたりもしてましたが、10年もやれるんだからどんどんやればいいじゃんって。終わるときには閉めればいいだけで」(大西先生)。
そして、法律事務所のWebマーケティングも大きく様変わりしました。およそ10年前、事務所Webサイトを持っている事務所はまだ少なく、Webサイトを持っているだけで問い合わせが来た時代。現在とは大きく様子が異なります。
また、弁護士による広告が解禁されたことも業界に大きなインパクトを与えました。
「弁護士が広告を出すことで、この案件が弁護士マターだということが一般に伝わりましたよね。最近は労働系のトラブルは弁護士案件だと皆さん知っているじゃないですか。それは大きいですよね。Webマーケティングや広告・宣伝について、批判する弁護士もいますが、過払い金請求も弁護士に頼めばなんとかしてくれると知らないまま、自ら命を断つ人もいた。知っていれば逆にお金は返ってきた。広告や宣伝は個人にとって悪ではなく、『需要喚起」という意味ではとても良かった話で、むしろ日弁連がどんどんやれよって思っていました」
「業界全体で、これは弁護士マターです、困った人は言ってください、とTV-CMも出して仕組み化していけば、誰も文句言わなかったのにと思います。それをせずに、一部の先進的な事務所がCMを出して、ごっそり取っていきましたよね。いまはとりあえず弁護士に相談しようという感覚はありますもんね。これはとても良いことだと思います」(大西先生)。
弁護士業界ではなく、一般社会にも大きな変化がありました。そのひとつにコンプライアンスがあります。パワハラやセクハラなどが以前よりはるかに問題視されるようになり、企業もその防止や対策に力を入れています。その変化に合わせて、弁護士はセミナー講師のニーズが高まっていると大西先生は語ります。
「労働分野だとセクハラやパワハラの講師が増えていますよね。企業も気をつけているのですが、これはやっていいけどこれはダメといった線引きがわからないんです。日ごとに変化しているから。やった人は問題になるけど会社も問題視される。こういう環境を許していたよねと。問題が発生した子会社の社長が怒られたり飛ばされたりするので、研修しませんか、保身が図れますよと提案するわけです」(大西先生)。
90分間のセミナー講師を10~15万円で行うことで、企業は環境改善のための啓蒙教育を社員に対して行っていると言えるようになる。弁護士としても、セミナーをフックに法律相談が寄せられるようになる。相談が続くようなら、顧問はどうですか? と話をつなげることもできると大西先生はいいます。
企業と付き合う際には、相手の担当者の保身にもしっかり応えることも重要だと語ります。なぜこの事務所に金を払うのか、なぜこの金額なのか、担当者が決済者にしっかり説明ができるようにしてあげる、法律事務所にはそのようなことも求められているといいます。
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税理士、社労士とは程よい関係性を構築
独立前から順調に案件を増やしてきた大西先生。今後の10年間でどの分野が伸びていくと考えているのでしょうか。
「本当は権利侵害なんだけど、世間がそれに気がついていなかったり、弁護士マターだと気づいていない案件は増えると思います。労働分野は社労士が手掛けていますが、結構とれるんじゃないかと思います。就業規則を作るのも社労士の料金表を見て結構とってるなと感じるんですよね。社労士の顧問料って弁護士とあまり変わらないですし」(大西先生)。
弁護士の顧問料が5万円で社労士には10万円を支払っているという企業も珍しくないとのこと。倍の顧問料で企業が社労士に何を依頼しているのかを聞くと、退職者が出た際の離職票などと答える企業もあるそうで、「そんなの我々でもすぐにできますよね」と大西先生は語ります。
「月の給料がいくらでとか、アプリなりソフトウェアでできてしまいます。それならうちを顧問にしたらいかがですか? と思ってしまう。弁護士のライバルは弁護士なのか、弁護士以外のなにかなのかは考えますよね」(大西先生)。
一方で、減少する分野としては「時効で終わってしまう過払いとかB型肝炎は減りますよね、終わっちゃうから」とのこと。AIの発展や自動運転の普及によって交通事故案件も減るのではないかと囁かれていますが、「文句を言う人がいる限りは減らないと思っている」と話しています。
AIの普及は弁護士の活動にどのような影響を与えると考えているのでしょうか。
一時期、「AIは弁護士の敵か味方か」といった議論がされたことがありましたが、この議論については「ナンセンス」と大西先生は一蹴しています。
「パソコンは敵か味方かと言われても、そんなのは使い方次第ですよね。これはAIやITも同じだと思っています。ネットが発達したことで、一般の人も専門情報に触れられるようになりました。昔の人は『相続の割合がわからない』と相談に来ていましたが、いまでは誰でも検索すればわかってしまいます。ですから、昔の弁護士にとっては敵なんでしょうね」
「だけど、我々としては調べたり判例検索ができたりしていい便利ですよね。同じように、AIもうまく使えばいいと思います。うまく活用して自分の作業時間を減らして省力化していけばいいと思います」(大西先生)。
中小規模の事務所は「顔が見える経営を」
この10年間で急増した大規模事務所に、中小規模の法律事務所はどう対抗すればいいのでしょうか。
「顔が見えるかどうかだと思います。大規模事務所には限界がありますので、普段顔が見えて、この人の考え方が浸透している事務所だというのが出せたら中小規模もチャンスがあると思います。逆に中途半端が良くないですよね。中規模なのに大規模みたいな戦略をとってしまうと難しいと思います」(大西先生)。
大西先生は学習塾を例にとって次のように答えています。個人塾は潰れないし大手も潰れないが、中規模は潰れてしまう。法律事務所も似たような側面があると語っています。
山本も「中規模事務所になったら経営の難易度が上がった」と言います。弁護士が10人程度だと個性で運営ができる。特に深く考えなくても、各々のキャラが立っていたが、弁護士が増えていくことでだんだん出しにくくなっていく。
「少人数のときは『サイボーグ009』みたいに、あの人はこういうキャラとはっきりわかるのですが、弁護士が増えてくるとわからなくなるんですよね。小規模事務所に在籍している人はキャラクターを積極的に出していくべきだと思います」(大西先生)
終わりに
最後に、弁護士の潜在需要について議論が交わされました。
山本の師匠筋に当たる鳥飼重和弁護士(鳥飼総合法律事務所代表)は、税務訴訟を得意とする弁護士として知られています。「鳥飼弁護士は特に中小企業では、税理士が経営者と繋がっていて、実質的に法律顧問、身内のことも、税理士に相談することで解決している」と山本は語っています。
中小企業経営者の視点を税理士ではなく、弁護士にシフトするために何が必要なのでしょうか。
税理士や社労士とは「敵でも味方でもない関係性」を構築するのが良いのではないかと大西先生は語ります。
「税理士と経営者の関係性はそのようなところがありますよね。あとは顧問をまったく使っていない会社よりは、すでに顧問がいるけどイマイチという人を狙っています。顧問の必要性を説く必要がありませんからね。『その弁護士よりうちのほうがいいですよ』というだけで来るので。最近はそういう考え方でやっています」
「社労士や税理士は敵でも味方でもなくて、弁護士マターの案件なら悪いけどいただくよとやるし、仲の良い社労士や税理士には『手に負えないと思ったらすぐに言ってくれ』と伝えています。あなたの顔を立てるからと仲良く付き合うようにしています。たとえば、社長が亡くなりそうというときには、遺言書けということで一枚噛ませてくれと伝えています。そのあとの納税申告のところは任せるからと言って、そこはしっかりと手を結ぶ感じにすればいいですね」(大西先生)。
弁護士の顧問を付けている中小企業はまだまだ多くありません。社労士や税理士と経営者との接点にうまく乗る、そこの関係を作るのは重要だと山本は語ります。
「顧問になったときに税理士とも会いたいと伝えて、一席設けてもらえると助かりますね。そこで弁護士に対する税理士の警戒心を解くんです。彼らは弁護士と仲の良い税理士を連れてこられて変えられてしまうのではという危機感がありますから、そのへんを解いて『一緒にやりましょう』と警戒心を解いています。極端な話、その会社と切れても税理士と繋がっていれば案件は来るので、関係性は大事にするようにしています」(大西先生)
事務所経営から業界の展望まで、示唆に富んだ二人の議論は参加者に多くの刺激を与えたようです。
熱気あふれる実際のセミナー動画のアーカイブが残されていますので、ぜひそちらもご覧ください。