GVA TECH株式会社では、テクノロジーで契約業務に関する課題の解決を目指すだけでなく、弁護士の先生方へお役に立つような情報発信を行っています。その一貫として、弁護士の先生向けに、業務効率化や顧問獲得に関するセミナーも開催しています。
今回は、法律事務所の顧問獲得をテーマに、成長中の法律事務所3所のパートナー弁護士が集結。具体的にどのような方法で顧問先を獲得していったのか、そのノウハウを赤裸々にお話しいただきました。
- 最初の顧問先10社をどうやって獲得するのか?
- Webマーケティングと紹介の違いは?
- うまく行った方法、失敗した方法
- 顧問料はどのように決めている?
など、事務所経営をする際に気になるポイントを、具体的な事例を元に語り尽くします。
ホストを務めるのは、弊社の代表であり、GVA法律事務所 代表弁護士の山本 俊。パネラーとしてご登壇いただいたのは、オンラインビジネスやプラットフォームビジネスに強いストーリア法律事務所 共同代表弁護士 杉浦 健二先生と、複数の業種特化で顧問数を増やしているピクト法律事務所 代表弁護士 永吉 啓一郎先生です。
本まとめは前後編でセミナーをレポートいたします。
杉浦 健二 先生
STORIA法律事務所 共同代表弁護士
オンラインサービスのビジネスモデル構築、プラットフォームビジネス、データビジネス、システム開発、エンタテインメント案件を主に取り扱う。顧問企業と新規サービスの話をするのがライフワーク。関心のある法分野は電子商取引関連法、個人情報保護法、資金決済法、著作権法など。主な顧問企業は、プラットフォーム、SNS、データ、SaaS、AI/ITベンダ、コンテンツビジネス、マスメディアなど、東証一部からスタートアップまで様々。企業勤務を経て2007年弁護士登録。
永吉 啓一郎 先生
弁護士法人ピクト法律事務所 代表弁護士
鳥飼総合法律事務所を経て、2015年に弁護士法人ピクト法律事務所を設立。創業以来、業種別(IT・EC,税理士,美容,歯科医等)に顧問サービスを提供する。個人としては、特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継対策、少数株主対策等を得意分野とする。主な書籍に『非公開会社における少数株主対策の実務』、『民事・税務上の「時効」解釈』、『企業のための民法改正と実務対応』がある。
モデレーター:山本 俊
GVA法律事務所 代表弁護士
鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立。スタートアップ向けの法律事務所として、創業時のマネーフォワードやアカツキなどを顧問弁護士としてサポート。50名を超える法律事務所となり、全国法律事務所ランキングで49位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。リーガルテックサービス「GVA(ジーヴァ)」シリーズの提供を通じ、企業理念である「法務格差を解消する」の実現を目指す。
目次
法律事務所3所の代表が語る「現在の顧問数」
まずは気になる顧問数について。事務所経営の根幹をなす数値であると同時に、顧客属性や内訳は経営方針によって大きく異なります。本セミナーの講師を務める3事務所にも、その違いが現れています。
GVA法律事務所の場合:およそ260〜270社
一時期、300社近くまで増やしたものの、利益率が悪い顧問先については適切な価格になるように値上げの提案を行ったり、タイムチャージ制に変更して顧問数を調整し、現在の顧問社数に。
ストーリア法律事務所の場合:3ケタ
ピクト法律事務所の場合:120〜130社
企業法務と税法を軸とする法律事務所として、全国的に知られる鳥飼総合法律事務所出身の永吉先生は、税理士向けのサービスも提供しています。一般企業の顧問先が120~130社。月額制の継続会員となっている税理士がおよそ200事務所あり、合わせると約300社とのこと。
顧問先「最初の10社」をどう獲得する?
GVA法律事務所の山本は「顧問先は増えだすと加速度的に増えていく」と語ります。これは「増えるまでは大変」ということの裏返しでもあります。
今回登壇した3事務所では、最初の10社をどのように開拓したのでしょうか。
ストーリア法律事務所の場合
杉浦先生の「最初の10社」は、独立前にアソシエイトとして活動していた時期に契約しています。
現在はオンラインビジネス、プラットフォームビジネス、SaaSなどIT系に強みを発揮する事務所として知られるストーリア法律事務所ですが、最初の10社は「バラバラでした」と杉浦先生は語ります。
獲得経路は税理士からの紹介、友人からの紹介など、人とのつながりからが多かったとのこと。
ピクト法律事務所の場合
税理士に太いパイプを持つ永吉先生。最初の2社は「税理士からの紹介」だったそうです。
以後はブログ等でEC業界について書いた記事がきっかけで顧問先が増えていきました。
GVA法律事務所の場合
山本は事務所設立直後、起業家や若手経営者が集まる交流会やセミナーなどに参加。名刺交換後、ランチや企業訪問などを行うことで関係性を構築し、顧問先を増やしていきました。
名刺交換直後にニーズはなくても、半年ほど経つと連絡が来て法律相談に。そこから顧問へとつながっていったと語ります。
法律事務所のWebマーケティング
法律事務所の顧客獲得にもWebマーケティングは欠かせない時代になりました。
顧問数を順調に増やしている本セミナー登壇の3事務所も、積極的にWebマーケティングに取り組んでいます。具体的にどのような取り組みを行っているのか、それぞれお話いただきました。
ピクト法律事務所の場合
ピクト法律事務所では、主にIT業界向けやECサイト向け、他にも美容業界や歯医者向けといった、業種ごとに向けた記事をWebサイトで展開しています(顧問先数の拡大に注力していた時期はそれぞれ毎週1記事程度)。
事務所で記事をアップするWebサイトを構築し、記事を蓄積していくことで、潜在顧客のニーズに合致した記事を読んだ読者がそのまま問い合わせをしてくるケースが多いとのこと。一時期、顧問数を増やそうとリスティング広告を活用した時期もありましたが、現在では行っていないそうです。
また、税理士のクライアントに関しては、税理士会での研修などリアルな接点からのつながりが多く、Webサイトからではないと語っています。
なお、記事の執筆はすべて弁護士が担当しているとのことです。
ストーリア法律事務所の場合
新規の問い合わせルートは大きくわけて3つ。
- 事務所Webサイト内で展開しているブログ記事
- 講師を務める企業向けセミナー
- 紹介
事務所設立当初は顧問先も少なかったため、まずは「弁護士ブログ」を開設。法律解説など、当初は真面目な固い記事を作成していきました。しかし「毒にも薬にもならない」「面白くない」(それぞれ杉浦先生)記事では書いている方もつまらないと思い至り、途中から路線を変更したとのこと。
若干のエンターテインメント性を付加したり、実務独自の視点を付加した記事を重ねていったところ、ある記事がSNSでバズり、1日数万PVを叩き出すようになりました。
以後、法律に絡みながらも読者が楽しめる記事を書き溜めていき、PVが増えていくことで事務所Webサイトのページランク(※検索エンジンのWebサイト評価。検索時、優先的にページ上位に表示されるようになる)が上昇していきます。この結果を受けて、AIデータ契約、著作権法、個人情報保護法など、普段から事務所で取り扱っている専門的な分野の記事を作っていったところ、記事経由の問い合わせが増加。顧問契約へとつながっていったそうです。
記事からの問い合わせは継続的にあり、これらの実務系記事コンテンツ経由での問い合わせの特徴として「受任率が高い」とのこと。記事を読んでいる段階で何らかの悩みを抱えており、読んだ上で問い合わせをされているということは、ある程度この事務所に頼もうと判断いただいている可能性が高いのが特徴とのことです。
なお、これらの記事はWebサイト設立時から、すべて所属弁護士が書くと決めており、外部のライターに発注することは今後もないそうです。所属弁護士の人柄や書きぶりが伝わることが何より重要と考えているからとのことでした。
GVA法律事務所の場合
GVA法律事務所では、設立当初から弁護士自ら執筆する記事によるWebマーケティングを展開しています。
スタートアップ企業に強いGVA法律事務所のブランディングはもとより、書き溜めた記事は事務所WebサイトのSEO対策にも貢献、検索エンジンに強い事務所としても知られています。
特徴的なのは、事務所Webサイトを頻繁にフルリニューアルすること。顧問先企業が先進的な技術を持つ若手経営者にフォーカスした事務所経営をしていることから、時代に即した事務所Webサイトを維持するために、2~3年に1度の割合でリニューアルを行っています。
デザイン面の変更は行っても、これまでに書き溜めた記事はそのまま活かせるため、SEO対策の強みはそのまま維持できているとのこと。
また、コロナ禍の昨今ではリアルな場でのセミナーを行うことは難しく、Webセミナーを頻繁に開催していていますが、そこから顧問契約に直結することはまだ少ないため、ゆるく継続的なつながりを維持するために、FacebookやTwitterなどのSNSを活用していると山本は語ります。
なにかあったときに「あの弁護士」と頭に浮かべてもらうよう、プッシュ型のメルマガよりもゆるく繋がれるSNSのほうが向いていると感じているそうです。
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顧問獲得のルート「Webサイト」と「紹介」の違い
現在の顧問先はどこから事務所に問い合わせをしてくださったのか。かつては紹介一辺倒だった弁護士業界も、インターネットの発展に伴ってWebサイト経由での問い合わせの割合も増加しています。
紹介とWebサイト経由、顧問先の属性や受任率にどのような違いが生まれるのでしょうか?
ピクト法律事務所の場合
Webサイト経由での問い合わせでは、書き溜めた記事を読んで問い合わせをしているため、ある程度の信頼感を持って相談に臨んでくれている印象があると永吉先生は語ります。
「潜在していた顧客の問題が顕在化した結果、Webサイト上に掲載した記事を読み、「この事務所なら問題を解決してくれるかも」と期待を抱いて来所している相談者様は、自所の記事だけではなく他事務所が書いた記事も読んで比較した結果、自所に問い合わせをしてくれています。そのため、受任率は高まる傾向にあるようです」。
しかし、昔ながらの紹介経由の受任率がWebサイト経由の問い合わせよりも上回るのもまた事実のようです。税理士と太いパイプを持つ永吉先生は、税理士から多くの顧客を紹介されています。「税理士さんの場合、事前に私のことを相当に褒めてくださるんですね(笑)。そういう事前のフレーミングがあることによって、紹介のほうが率は高いとは思います」(永吉先生)とのことです。
ストーリア法律事務所の場合
「紹介案件の場合、紹介者が受けている信頼をそのままいただけるのはありがたい一方で、良い意味でプレッシャーを感じる場合はある」と杉浦先生は語ります。
最初から期待値が高まっているのはもちろん、紹介者のメンツを潰すわけには行かない。紹介か紹介以外かで業務のクオリティに差が出ることはもちろんありませんが、「紹介者のためにもきちんと対応したい」という思いはやはり出ることもある、とのことです。
紹介をいただいた際には、相談者にご承諾を得たうえで、守秘義務に抵触しない範囲で進捗や完了報告を紹介者に行うことで、「紹介してよかった」と思ってもらうことも大事と杉浦先生は語っています。
では、紹介ではないWebコンテンツや、講師を務めたセミナーの参加者とはどのような関係性を築いているのでしょうか。
杉浦先生は、「WebコンテンツやSNSでゆるく繋がり続けると初対面でも一歩進んだ関係性を構築できる」と語ります。初めて会っても「はじめまして」ではなく、「ようやく頼めることができました」「いつも読んでいます」から関係性が始まる、これがうれしいとのこと。
Webコンテンツは自身が感じている以上に多くの方々に読まれている、見られていると実感しているそうです。弁護士に何かを依頼する必要性が生じた際に、真っ先に頭に浮かぶ弁護士になるためのツールとして、各種SNSやWebコンテンツは有効なようです。
GVA法律事務所の場合
事務所ではなく、代表を務める山本個人の活動として、セミナーや交流会などリアルなイベントに直接足を運び、多くの方々と接する。以後、Facebookで友だちになって、継続的なやり取りを続けていくことから顧問へと繋げていきました。
セミナーと交流会とでの受任率の違いについても触れています。
「交流会よりもセミナーのほうが受任率は高い印象です。セミナー講師をされていた方に顧問先になってもらうこともありますし、参加者も自分と近い思考や感覚の持ち主なので気が合って、関係性が継続した結果、将来的に顧問になってくれたりしています」(山本)
紹介に関しては、大きな幹となる紹介元がいくつかあり、「そこからの紹介ならほぼ100%顧問契約に結びつく」(山本)。そのルートが、紹介経由の顧問先の8割を占めているとのことです。