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【これからの企業法務の話をしよう】Chubb藤本先生に伺う、経営陣の期待に法務部が応えるために考えておくべきこと(後編)

GVA assistは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、企業の法務パーソンの方々のお役に立てる情報発信を行っています。その一貫として、企業法務に携わる方々向けのセミナーも随時開催しています。

今回は、世界各国にグローバルに展開しているChubb損害保険株式会社の法務部長兼募集文書管理部長を務める、弁護士の藤本和也先生を講師にお招きしました。
経営陣の期待に法務部が応えるために、法務パーソンは日々、なにを考えていく必要があるのか、そのポイントについてお話いただいています。

本まとめは前後編でセミナーをレポートいたします。


藤本 和也 先生
弁護士(第一東京弁護士会所属)

Chubb損害保険株式会社 法務部長 兼 募集文書管理部長
日弁連法律サービス展開本部ひまわりキャリアサポートセンター副センター長
日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事
第一東京弁護士会組織内法務委員会副委員長

2008年、弁護士登録と同時に内資損害保険会社に入社(法務部。途中、経営企画部を兼務)。
2017年、外資損害保険会社に移籍(法務部)。
2018年、Chubb損害保険株式会社に移籍(法務部長)。
2021年、Chubb損害保険株式会社法務部長と募集文書管理部長を兼務。
企業内弁護士に関する活動として、日弁連法律サービス展開本部ひまわりキャリアサポートセンター副センター長、
日弁連弁護士業務改革委員会企業内弁護士小委員会幹事、第一東京弁護士会組織内法務委員会副委員長。


法務パーソンに求められる「付加価値」

法務部長から見た法務部の組織について、まずは法務チームの編成について言及されました。

法務部づくりのコンセプトは会社によって異なるし、外資・内資でも違うと前置きした上で、法務部長としては、「自分が預かっている法務部門の役割を遂行するために必要なメンバーを集めてきて、それらの人材に方向性を示しつつ任せるもの」と定義しています。

一般的な日本企業を例に挙げ、次のようにも語っています。

「新卒一括採用で採用したメンバーの中からジョブローテーションで配置される会社の場合、メンバーは社内人材しかいませんし、また司法修習終了直後の弁護士を中途採用する会社もあります。
後者の場合は、司法修習終了直後の弁護士の能力を前提に法務部門の能力を向上させていこうという戦略だろうし、適切な人材がいない場合には、さらに経験を有している即戦力を外部から採用するということになるんだろうと思います」

法務部門のメンバーのスキルとメンバーに対する評価にも触れられました。

法務部門の役割を遂行するために貢献してくれるのであれば良い評価になり、各人に割り振った役割を適切に遂行したかどうかで評価することになると語る一方で、「役割を適切に遂行したかをどう判断するかは非常に難しいことだ」とも言います。

藤本先生は契約審査を例に取り、法務部メンバーの評価の難しさについて語っています。

「たとえば、契約審査。法務部門のお得意の業務ですが、これ一つ取ってみても何をどこまでやるのが『契約審査』というべきことなのかという点なんですよね。
事業部門から最終文案が来ましたということで誤字脱字の修正や添削みたいなことだけを『契約審査』と位置づけている場合もあれば、今からプロジェクトを立ち上げて相手方と交渉を始めるということを受け、交渉プロセスに重要な関与を行うことも含めて『契約審査』と位置づけているケースもある。
最終的に契約に持っていかないといけない場合、最初からプロジェクトに加わって法的リスクをコントロールしながら最終的に契約書に落としこむのも『契約審査』ですし、位置づけが会社によって違うんですよね」

同じ『契約審査』であっても、前者と後者では難易度は全く違います。そして後者においては、プロジェクトの中でどのような役割を担い、プロジェクトの成立に向けてどのような貢献を示したのかによっても違います。しかも、評価者である法務部長に十分な法的実力が備わっていない限り、法的側面からの貢献を適切に評価することはできません。

AIを活用した契約審査サポートサービスを活用する法務部も増えてきました。AIで代替できる仕事をメインで担当する法務部員については、将来的には「そのような人材にどのような役割を与え、どのような点を評価したらよいのか」という問題も出てくると言います。

AI時代において、自身の価値を発揮するために求められる「付加価値」が何なのかが重要ということになりそうです。

「業界ビジネスに対する深い理解や、社内の仕組みと各部門の役割に対する深い理解。組織マネジメントに関する高度なスキル、高度な運用能力など、こういうものを前提に社内にコンサルテーションを行い、事業のアイディア段階から契約書の取り交わしまで総合的に助言をして法的リスクをコントロールしていくことが『契約審査』であるとすれば、非常に付加価値が高いんだろうなと思っています」と藤本先生は語っています。

要求に応えられていればOK。しかし……

セミナーのまとめとして、藤本先生は次のように語っています。

現時点で法務部門が依頼者=経営からの要求に応えられているのであれば、とりあえずOK。「依頼者ごとに要求はさまざまであって、依頼者に合わせて依頼者が望む結果を我々は出すしかない」と話します。

これは、個別具体的にこれをやればOKですよということではなく、現場に立っている法務パーソンの皆さんが、依頼者である経営はどんなことを望んでいて、自分たちは適切に課題を解決できているのだろうか?と自問自答するしかないとのことです。

「定型的な契約書を迅速に大量に処理してほしい」ということであれば、それを遂行していれば現時点では正解ということなのでしょう。

「定型的なことはやらなくてよい。その代わり、外部の法律事務所の弁護士に匹敵するような法的リスクコントロール能力を発揮してほしい」というのであれば、その要求を遂行すれば正解。依頼者の期待に答えているということになるでしょう。

一方で、依頼者=経営から「なにを期待されているのかわからない」というのであれば、それは問題だということになります。

また、今後、AIに置き換えることのできる部分と、人でないとできない部分にどう対応していくのかが法務のメンバーに問われているとも語り、セミナー本編は幕を閉じました。


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参加者からの質問と回答

Q.1 企業が効率追求、コスト削減を求めているとしたら、弁護士・法律事務所の支払いも最低限に抑えようとする努力、試みも重ねるのでしょうかという質問です。

藤本先生:
外注費は安くすればいい、値段を下げればいいということではなく、払うべきものには払う必要があります。

外部の法律事務所には非常に高度な知識・ノウハウを持つ事務所がたくさんあります。そういう事務所に対して適切なフィーを払うということは、そのようにすること自体が全体として効率的な解決といえます。よいものを買い叩くのは長い目で見たら非効率です。

逆に不必要なフィーを払うのも非効率です。外部の事務所の弁護士の実力を適切に依頼者側から評価して、それに見合った適切な報酬を支払うと、これが我々の役割、法務部門の役割であって、そのためには外部の弁護士の力を見極める必要がある。外部の弁護士の仕事を評価することのできる法的実力を法務部門が備えていることにより、効率化を実現できると言いたいですね。


Q.2 法務部門は弁護士、法律事務所に準じる能力を求められているわけではない。外部の力を借りるのは第一に客観的に外部からの視点と判断が求められているからでしょうか?

藤本先生:
外部の弁護士に判断リスクを転嫁するというと語弊があるのですが、法務部が外部の弁護士に仕事を依頼する際に、そのような場合も企業ではあるわけです。

私は弁護士ではありますが、企業内弁護士であって、企業の一部というか当事者なんですよ。社内の私がなにか言っても「当事者が言ってるだけだろう」と見られる場合もあるので、いえいえ、外部の弁護士による客観的な判断、レピュテーションをかけた判断による結論も、私と同じなので、説得力あるでしょ?という話をしたい場合もあるということなんですね。

経営からの期待によっては、法務部門が弁護士、法律事務所に準じる能力を求められる場合もありますね。


Q.3 法務部の機能を他部門に統合させる可能性はありますか? 特許法務部とか。

藤本先生:
企業によって違うということですね。ただ、そういうだけではつまらないので、このご質問からどういうことを考えればよいかというと、ご自身が経営の一員になったつもりで考えてもらえればいいと思います。知財部とか特許部と法務部のやっていることが同じであれば効率化した運営が可能になるので、統合すればいいんです。

法務部門に来る相談のほとんどが特許絡みだったり、特許絡みのクレームだったり、日々の相談や契約審査をやっている内容が特許絡みがメイン、ということであれば統合してもいいんでしょう。ただ、機能がぜんぜん違うのであればくっつける必要がないですよね。そういう観点から考えていただければいいかと思います。


Q.4 日本の企業では企業内弁護士を備えている会社はなかなか少ないと思います。ですが海外や外資系では当たり前なのでしょうか。外資系と競争するためにどれだけ専門的な法務部としていくかのレベル感の参考にさせてください。

藤本先生:
私はそこまで詳しくはないのですが、私が知っている範囲でお答えすると、アメリカでは法務部門の中心となるメンバーで弁護士ではない人はほぼいないと思います。弊社はグローバルな会社でアメリカにもヨーロッパにも世界中に拠点がありますが、各リージョンの法務部門のメンバーは弁護士であることが前提ですね。

弁護士であることが法務部門の中心という形であり、弁護士であると言うことが、ある種の法務運用能力の専門性を客観的に証明するものになっているという形なんだと思います。海外では弁護士であることが通常なのかもしれません。


Q.5 客観的な指標を自分で獲得しないといけない、というお言葉がありましたが、藤本先生はどのような視点を持ちながらスタンスが出来上がっていったのでしょうか。

藤本先生:
客観的な視点を自分の中に持つことって人間なかなかできないことでして、私も主観だらけ、思い込み、偏見だらけで生きています。

ただ、やっぱり私の中に基本としてあるのは、「弁護士としてどうあるべきか」という視点ですね。これまで、会社の事件を離れた個人事件、刑事事件や離婚とか相続とかそういう事件を単独で処理してきた経験があるんですよね。

案件によって依頼者の性質が全然違いまして、自分に求めてくる期待も全然違うんですよ。そのような中で専門家としての自分の役割を考えた場合、医者であれば「その人」に合わせて病気を治す手助けをすると。弁護士であれば法的課題を抱えている依頼者それぞれにあわせて、それぞれが抱える法的課題を依頼者にあわせて上手に解きほぐして解決していかないといけないと。

依頼者は性格も違えば立ち位置も違う。そういう中で自分は一体、この依頼者に対してはなにができるか、なにをすればいいのかな、と考えることがあったんですね。

このようなことを真剣に考えるということは、弁護士の職務規範の要求そのものであって、弁護士法で課された法的義務でもあるわけです。弁護士はプロフェッションであり、職務規範に従う存在であり、そのことが制度的に求められる存在であるからこそ、依頼者から信頼されるのだと思います。

これは企業が依頼者である場合もまったく同じことです。今自分が期待されている役割は何か、今役割を十分にこなせないのであれば、どのようにして課題をクリアしていくのか、そういうことをちょっとずつ考えてきつもりではあります。


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