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法務の世界に広がるブルーオーシャン オンリーワンの法務担当者になるために必要な「マインドセット」(後編)

株式会社SHIFT(東証1部:3697/東京都港区)でゼロから法務部門を立ち上げ、現在責任者を務める照山浩由氏は語る。「社会は新しい法務人材を求めています」。従来のありようから一歩踏み出した、新たな法務の形とはどのようなものなのか。話をお聞きしました。

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「これからの企業法務の話を聴こう」

リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方に、そのお考えや実践内容についてじっくりお話いただくインタビュー企画です。

これからの企業法務について

株式会社SHIFT 経営管理部 法務グループ長 照山浩由さん

法務の仕事を「数値化する」意義

ーー法務の業務を数値化する、この部分を具体的にお聞かせいただけますか?

照山 浩由氏(以下、照山):
メンバーにまず意識してもらうのは、自分の「時間単価」です。例えばあなたの年収が600万円なら、時給は約3000円。あなたは1時間あたり3000円以上の仕事を会社に提供してくれないと、会社はあなたをそれ以上評価することはないんですよ、という話をまずします。

次に必要なのは、手掛けている「業務の数値化」です。我々の仕事のひとつに契約審査があります。この契約審査1件を、いったい何分でやったのか、審査した契約書はどういう内容なのか。その点を我々は、「その仕事をいくらでやったことになるの?」と考えます。

たとえばNDAを1件見るときに、30分かかったとします。契約書をチェックした人の時給が3000円だとすると、30分でその業務が終わったのならその業務単価は1500円ということになる。ならば、このNDAをもしも外部に出したらいくらになるのか。仮に5000円だとすると、差分の3500円が会社の利益になる。このように考えていきます。

ーー同じ業務を回した数が増えていくことで平均値も出せるようになりますね。その平均と比較して今回はどうだったかなど、業務改善のために考える範囲が格段に広がる印象です。ちなみに、評価の場面では30分かかった業務を20分でできるようになったというスピードアップ以外にどのような部分が勘案されるのですか?

照山:
大きい軸が2つあります。ひとつは「ルーティーンをきっちりできたか」です。過不足ない内容で無駄なくミスなく回せたのか、というのは重要な指標の1つです。

もうひとつは特殊な捉え方かもしれませんが、アセットと言うんでしょうかね、会社にとって資産になる仕事をどれだけ提供したかを重視しています。

ーーアセットとはなんですか?

照山:
たとえば初めて手掛ける仕事を、ある人が1時間で終えたとします。のちに、その業務を整理して分析して再現性のある、他の人が手掛けても同じクオリティでアウトプットできる状態に取りまとめたときに、次の人も同じく1時間かかってしまうのだとしたら、あまり意味がありません。

業務を因数分解して切り分けて、同じクオリティでありながら効率化された仕組みを生み出したり、他部署との調整にかかった時間を短縮できるような体系化したノウハウを提供してくれたとき、その仕組化した部分も評価しています。

厳しい言い方ではありますが、あなたがルーティーンでこなしている業務を仮に年収500万円と会社が評価している場合、その仕事を過不足なく回しているだけなら会社としてはそれ以上の金額を提供する理由がありません。でも、その業務のエッセンスを抽出して整理して、仕組みを明文化して他のメンバーに展開することで、質を落とさずに効率化することができれば、それは会社にアセットを提供したことになります。

我々の部署には経験者もいれば未経験者もいるのですが、経験があるから有利、未経験だから昇給しないということはありません。それぞれに割り振られたルーティーン業務を進めていく中で、個々人でエッセンスを抽出してアセットを残すことが大事なんです。ですから、会社にアセットを提供している限りにおいて、年次や経験年数は関係なく、年次が若い人もしっかり昇給しています。

ーー従来の法務の世界は数字とは縁遠かった印象があります。照山さんの数字で考えるマネジメントが苦手なメンバーもいたのではないですか?

照山:
時間を掛けて丁寧に進めていきました。最初からできる人なんていませんからね。まずは身近なところから、A案件のNDAは何分、B案件は何分、と積み重ねる。そうすることで自分の仕事の平均値が出てくるので、そこで工数を見積もります。

この見積もりもあまり厳格にやりすぎると、「その数字は正しいのか」「外部に出したら5000円と言うけれども、3000円のところだってある」みたいな話も出てきちゃいますから、妥当なところで見積もりを進めました。正確さを求めすぎず、方程式を作って当て込んでいくわけですね。

こうやって話していますけれども、数字は難しいですよ(笑)。いきなり頭ごなしにそういう頭の使い方をしろと言っても伝わりませんので、事あるごとに伝え続けることで少しずつ表現できてくるので、それでよしとしながら今日に至っています。

株式会社SHIFT 経営管理部 法務グループ長 照山浩由さん

ーーお話を伺っていると、効率化、言い変えればスピードアップがひとつの大きな価値となっていることがわかります。一方で、時間がかかったとしても高いクオリティを追求したいというメンバーからの要望に対してはどのように対応しているのですか?

照山:
「高いクオリティを追及しよう」とするメンバーの姿勢は、上司としてとてもありがたいし、大事にしたいです。そのうえで、2つのことを心がけています。

ひとつは、高いクオリティを追及しようとするメンバーのその業務が、顧客である経営陣や他部署との合意に照らして、本当にそのクオリティを求められているのかを正しく判断することです。

クオリティはともかくスピード重視ということなのか、それとも時間がかかってもいいから丁寧に高いクオリティで進めてほしいという依頼なのか、その合意に沿ったアウトプットなのかどうか。依頼者は「早く欲しい」と言っているのに、オーバースペックなクオリティの業務に時間をかけて提供するのは独りよがりでしかありません。その業務が本当に時間を度外視して高いクオリティを追及する必要があるのか、その点を丁寧に判断しています。

もうひとつはリスクを適切に判断することです。我々法務組織の大きな役割のひとつにリスクマネジメントがあります。そのリスクをどう評価していくのかという話にもつながっていきます。

事業のリスクがあったとして、そのリスクを完全に潰す必要があるのか、一部を排除すればいいのか、それとも無視してもいいのか。可視化されたリスクを検討したときに、会社にとってどれだけインパクトがあるのかを考えます。仮にこのNDAを相手方の主張のとおりに飲んだとしても、会社にダメージがないのなら、そもそもチェックをする工数を掛ける意味がないじゃないですか。つまり、リスクの観点からその業務を判断することにしています。

「高いクオリティを追求したいというメンバーからの要望」をマネージャーとしてどう受け止めるか、という質問にお答えするなら、「経営陣や他部署との合意」と「会社におけるリスク」の観点から、高いクオリティを追及すべきかどうかを判断し、高いクオリティを追及しようとするメンバーが納得できるように丁寧に議論をするなどの対応をします。その上でこの件は高いクオリティが必要だと判断すれば、それはしっかり追及しますし、させています。

我々が実現すべきスピードアップ、効率化というのは「雑でもいいから早く出す」ということではなく、必要なスペックを満たした上でどれだけ早く、効率的にアウトプットできるか、ということですから。

ビジネスパーソンとして生きるなら、ビジネスパーソンになりましょう

ーー今後、照山さんのおっしゃる「新しい法務担当者のあり方」を実践していこう、そう考える方が増えていくと思います。その際、まずはなにから始めたら良いのか、その参考のために照山さんがSHIFTに入社してから業務範囲を拡大していくまでの流れをお聞かせいただけますか。

照山:
ゼロからのスタートでしたので、経営陣が法務になにを求めているのかを理解するところから始めました。

私には前職での法務の経験があったので、法務組織の立ち上げを任されたとき、「法務はこうあるべきだ」というメッセージや計画案も持っていったのですが、それよりも先に、やってほしいことがあると提示されたことがあるんです。それは「とにかく早く契約審査を回してほしい」ということでした。「1件相談が来たときにどれくらいのスピード感で返せばいいですか?」 と聞くと、「2営業日で返して欲しい」と。

それまでは1〜2週間かかっていたそうなんです。とは言ってもリソースは自分しかいない。それでも全力でがんばって、2営業日で契約書を全件返すことを実践していったんです。その過程で、当社のビジネスや業務の進め方のクセが分かってくる。それをマニュアル化や定式化する。

そうこうしているうちに、新しい法務メンバーが入ってくる。業務を引き継いで共有するために、ノウハウをまとめた資料が整理されてくる。そのメンバーが業務を行っているうちに、さらに新たなメンバーが入ってくる。私が作った資料やマニュアルに、次のメンバーが上書きして、さらに次のメンバーに引き継いでいく。

それを続けていると、引き継ぎの時点で不明確や不都合であった部分が炙りだされることで、業務の見える化ができるし、メンバーにそれを改善することをタスクとして持ってもらうことで、だんだん業務が効率化されてくる。すると、「その業務がそのレベルで効率化してできるようになったのなら、あたらしく他のこともやってほしい」といって業務が増えていくわけです。

増えた業務に関しては、改めて会社は何を求めているのかの合意を取る。優先順位はどうなっているのか。その業務を達成した状況とはどういう状況なのか。そうやって経営陣との約束を積み上げていき、同様の方法で改善と効率化を進めていきました。

ーー読者の多くは従来の法務組織に属しながら新たなステージを開拓したいという方々だと思います。そういう立ち位置にいるなかで、現状を少しずつ変えていくためにはなにが必要だと思いますか?

照山:
そういう質問はよくいただくんです(笑)。いつも同じようにお答えしているのですが、「顧客第一主義」の考え方なんだと思うんです。

我々に仕事を依頼をしてくる人たちはみんなお客さんなんです。普通のビジネスパーソンだったらお客さんに対してどういったスタンスで接しますか? これだけだと思っているんです。売れる営業マンは、なにをやっていますかということを真似ることから始めるといいんじゃないかと思います。

他部署のメンバーとの雑談の中から「このへんに困っているのかな」と、すぐには出さなくても回答を用意しておくとか、押しつけではなく先回りしておくとか、待ちの姿勢ではなく、積極的にビジネスに介入していくとか。

特別なことではないんです。普通のビジネスパーソンなら、自分でお客さんのところに行って「お困り事はありませんか?」と御用聞きに行ったり、依頼された業務の潜在ニーズを掘り下げて、プラスアルファして提供するといったことは当たり前にやっていると思うんです。お客さんのニーズを踏まえた品質のサービスを提供するから、お客さんがリピーターになってくれるわけですよね。法務だって同じだと思います。

株式会社SHIFT 経営管理部 法務グループ長 照山浩由さん

ーーそのためには、自社がどういう状況なのか、進めている事業にはなにがあるのか、他部署のメンバーがどのように関与し、どれくらい進捗しているのかなど、自社を取り巻く環境についてアンテナを高く張っておく必要がありますね。

照山:
おっしゃるとおりですね。そもそも、自社のことにあまり興味がないという法務担当者に誰も頼りたくはないですよね(笑)。

ーー照山さんは不動産会社の経営から法務畑に来た、いわば「ビジター」でした。そんな照山さんから見て、従来の法務担当者の印象はどのようなものだったのか、または一般的な法務畑の方々が、他部署からはどう見られているとお感じか、教えていただけますか。

照山:
法務部門の人たちは、他部署の人間に対して身構えている感じがありましたね。他部署の人間が法務に話しかけに行くと、「他部署がとんでもない爆弾を持ってきたんじゃないか?」みたいな(笑)。逆もまたしかりで、法務が他部署の人に話しかけると、「法務になにか怒られるんじゃないか?」みたいな(笑)

そのような関係性を続けていると、法務担当者は他部署となるべく接点を持たないようになってしまうし、他部署は他部署で必要以上に恐縮したり萎縮したりしながら法務に仕事を頼みに来るようになってしまう。これはお互いにとって不幸ですよね。

ーー法務担当者がビジネスの上流から関与していくためには他部署との緊密な連携や情報の把握が必要ですよね。他部署とうまくコミュニケーションを取っていくコツなどはありますか?

照山:
基本的なことですが、まずは他部署の人たちに興味を持つということじゃないですかね。そういったところ、セールスの方は上手ですよね。「どうも! 元気ですか? 髪型変えましたね! ネクタイ変えましたね!」といったエレベータートークが非常に上手い。

私は他部署の人たちから「ちょっとした雑談や、ちょっとした軽口みたいなものにちゃんと応じてくれるから話しやすい」とよく言われるんです。いつも眉間にシワを寄せて難しそうなことを考えていそうだとなると、なかなか声をかけづらいですよね。その上、なにか法的なトラブルが起こって持っていったら怒られる(笑)。だからますます近寄りがたくなってしまう。

そういう関係性だと情報も入ってこなくなるし、事前に掴んでさえいれば1の工数で対処できたトラブルが、事が大きくなってしまって、解決のために工数が10にも20にもなってしまうといったことも起こりうる。それは会社はもちろん、法務担当者にとっても不幸なことです。

これは、言い換えれば、ビジネスパーソンとして生きるのなら、ビジネスパーソンになりましょうということでもあります。会社に勤めて昇給・昇格してそれなりに高い給料が欲しいと言うのなら、作業者や傍観者ではなくビジネスパーソンにならないといけないし、そのためにはアイディアを出さないといけないし、プロフェッショナルじゃなくてはならない。

また、自分の仕事の内容をひたすら搾取されるようにならないためには、自分の仕事の内容や成果を数字で表現することも求められます。自分はこれだけのことをやって、会社のリスクもこれだけカバーしたんだから、これだけの評価を受けてしかるべきだと、会社と対等に話し合いができる関係性を構築するべきなんです。アカウンタビリティってそういうことだと思うんですよね。

法務担当者の皆さんは、法律の議論の場面では「説明責任」ってよく使うのに、自分のこととなるとやらない(笑)。当たり前のことを当たり前にやりましょうというのがスタートじゃないですかね。

株式会社SHIFT 経営管理部 法務グループ長 照山浩由さん

ーー最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

照山:
法務担当者が現状手掛けていない分野は山ほどあると感じています。誰も手掛けていないということは、まさにブルーオーシャンなんです。ほんの少し、考え方を変えることで、飛躍的に自身の価値が高まる可能性がある数少ない世界が広がっています。

しかも、自ら仕掛けて業務の幅を広げていくことで、クリエイティブで刺激的な仕事を作っていくこともできる。こんな面白い仕事はなかなかないと思います。

今回、いまの私が考え、実践してきたことをお話させていただいたのですが、まったくもって完璧な答えや方策だとは思っていません。数値化の方法にももっと良い方法があるだろうし、もっと優れた考え方があるはずです。自分も試行錯誤のなかで少しずつ前進していきたいと思っています。

また、法務担当者同士の横のつながりももっと強化していきたいんですよね。コミュニティを作って、「うちはこうしている」「こういう考えもある」と交流していくことで、選択肢が広がっていくと思うんです。現状は従来のやり方以外の選択肢がありません。これは法務人材の能力が十分に生かされていないという意味で、社会にとっても大きな損失だと思っています。

今後、情報発信と合わせて皆さんと交流できる場も作っていきたいと思っているので、一緒に面白い社会づくりをしていきましょう!

ーー本日はありがとうございました。

(2021年2月取材)


ゲスト:照山 浩由さん 株式会社SHIFT 管理本部経営管理部 法務グループ グループ長

照山 浩由 Hiroyoshi Teruyama

大学卒業後、不動産業に従事したのち法科大学院を経て、30歳代でIT業界へ。複数の上場IT企業の法務部門を経て、株式会社SHIFTに参加。法務部門の立ち上げに関わり、2019年2月に法務部門の責任者に就任。ゼロからの組織構築を行い、急成長企業の法務部門全般を管掌、現在6名の社員をマネジメントし、法務メンバーの地位確立、昇給に直結する評価の向上に向けまい進している。

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