2021年1月22日、従来とは異なる新しい法務の価値を生み出し続けている、株式会社SHIFT経営管理部 法務グループ長の照山浩由さんをお招きし、「これからの企業法務の話をしよう」と題したオンラインセミナーを開催しました。新たな価値を創造する法務人材になるために必要な考え方について、熱い議論が交わされました。当日の熱気あふれるセミナーの様子をお届けします。
ゲスト:照山 浩由 氏
株式会社SHIFT 経営管理部 法務グループ
グループ長
大学卒業後、不動産業に従事したのち法科大学院を経て、30歳代でIT業界へ。複数の上場IT企業の法務部門を経て、株式会社SHIFTに参加。法務部門の立ち上げに関わり、2019年2月に法務部門の責任者に就任。ゼロからの組織構築を行い、時価総額が2年で3倍を超える急成長企業の法務部門全般を管掌、現在6名の社員をマネジメントし、年間の部門平均昇給率10%以上を実現している。
「これからの企業法務の話をしよう」
リーガルテックの導入などを通じて法務業務の効率化を実現した"その先"に、法務部門として何をすべきか、未来に向けて先進的な取り組みを実践されている法務の方とディスカッションするセミナーです。ゲストと弊社の山本との"未来の企業法務のあり方"に関する議論を通じて、法務部門の組織づくりのヒントをお届けします。
数値化することで広がる法務人材の「価値」
山本 俊(以降、山本):
法務組織を作っていく中で、既存業務の効率化やメンバーのスキルアップを後押ししたりと、法務部門の価値を会社に認めてもらえる状況を作らないと組織は大きくできません。
会社が法務部門の価値を認めていることを示す具体例としては、法務部のメンバーの給料が上がっているかどうか、というお話を以前照山さんはされていましたが、現在の貴社法務部門は会社から価値を認めてもらっているということですよね。
直球ですが、メンバーの給料を上げる秘訣は何かありますか?
照山 浩由さん(以降、照山):
我々は法務部門の業務を『数値化』しているんですね。メンバーの時間単価はいくらなのか、仮に年収が600万円だとすると、時給はおよそ3000円になる。契約書のチェックに30分掛かったのなら、その業務は1500円。これを外部に出したらいくらになるんだろう、と。仮に5000円かかるのだとしたら、差分の3500円が会社の利益になるわけですよね。
これはあくまで一例ですが、このような「業務を数値化する」ロジックを組み立てて、我々法務部門は会社に利益を提供できていると説明することで、会社が法務部門の価値を理解しやすいようにしているからだと考えています。
山本:
数値化という観点は面白いですね。その場合、たとえばそれまでNDAなら30分掛かっていたところが20分でできるようになったとします。そうなると評価が高まるということ以外に、なにか評価のポイントはあるんですか?
照山:
メンバーを評価する上で大きい軸が2つあります。
- ルーティーンをしっかりと回せたか
- 会社に「アセット(資産)」を残せたか
このふたつです。これをメンバーにも説明しています。
アセットとはなにか。言い換えると「個人ではなく会社に蓄積したナレッジ」です。たとえば、初めて携わる業務を行ったとき、1時間を要したとします。作業後、担当者がその作業を振り返り、分解して整理してまとめておくことで、次に同様の業務を他の人が担当したときに、同じ質で回せるようにする。
その際に、次の人もまた「1時間」掛かってしまうのであればあまり意味がありません。作業の効率化の仕組みや他部署との調整などの無駄を省き、より短時間で納品できるように他メンバーや上長である私に展開し終わった状況で「アセットを残した」と評価します。
ただ日々のルーティーンをこなしているだけなら、年収分以上の評価をする理由がないんですね。そこにプラスアルファして会社に価値のある資産を提供したときに、それは正しく評価しましょう、という考え方です。
山本:
なるほど。では、照山さんの元には現在6名のメンバーがいらっしゃいますが、スキル、経験が豊富な人もいれば、これからという人もいると思うんです。アセット化を評価する際、そこに不平等は生まれませんか?
照山:
不平等さは生じません。経験者だから有利、未経験者だから不利ということはなく、自身に割り振られたルーティーンからエッセンスを抽出して、洗練していくことが大事なんですね。その部分を適切に評価しますから、年次の若いメンバーでも昇給できています。
当社には、法務業務自体が未経験の人もいるし、経験者もいます。私が入社したときには法務組織がなく、押印のフロー作りといったことからすべてゼロから作り上げましたので、法務の知識がなくても、そこを整理することにも価値があるんです。
山本:
最終的にはイメージや雰囲気で評価をするのではなく、数字で評価をしていくと。
照山:
おっしゃるとおりです。積み上げた実績が評価の対象になります。数字と実績で評価面談に臨めば、適正な評価として返ってくる形です。
目標設定・モニタリングについて
山本:
メンバーの評価をしたり、法務部が自社に価値を提供できているかを説明する、または検証するにあたっては目標設定が大切になります。メンバーの目標設定や、そのモニタリングはどうしているんですか?
照山:
我々法務の業務における目標設定と目標達成の過程は、システム開発の用語を借りると「アジャイル開発」によく似ているんですよね(※ソフトウェア開発におけるプロジェクト開発手法のひとつ。途中で変更があっても臨機応変に対応できる)。
法務の仕事にイレギュラーは付きものですから、大枠での目標を設定しながらも、走りながら詳細なゴールを決めていきます。目標設定当初は、法務に求められている基準・ゴールはこうなっているけれども突発的な事象は見積もれません。新しいタスクが入ったら、このタスクが入ることによってできない業務が生まれるわけですから、そこを適宜調整しながら進めていきます。
メンバーは目標達成のために必死に頑張っていますから、目標達成をリードするのがマネージャーの仕事ですよね。新しい仕事とリプレイスした目標が同等と整理して、最終的に目標達成に向けて頑張ってもらっています。
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顧客のニーズを聞き出し、ニーズに応える
山本:
気になるところがひとつあるんです。効率化を進めすぎてしまうと、リスク対策が軽んじられてしまうのではないかという不安をメンバーが抱いたりしないかという点です。法務担当者にとっては「リスクを削ってなんぼ」で、いちばん大事なところですよね。
スピードとクオリティ、どちらを優先するのか、もしくは経営陣がなにを求めているのか、そして法務部はこう対応すると決定するまでには、実際にはどのようなプロセスがあるのですか?
照山:
私が入社してゼロから法務部門を整備する際「経営陣が法務になにを求めているのか」を理解することからはじめました。彼らがまず求めていたのは「スピード」でした。これまで1件の法律相談に1週間掛かっていたものを、2営業日で返して欲しいと。
我々は法務担当である以前にビジネスパーソンですから、相手のニーズに応えるよう動きます。我々の顧客は経営陣や他部署ですから、彼らがなにを求めているのかを把握した上で、そのニーズにプラスアルファをオンして納品することを心がけています。
依頼者は「早く欲しい」と言っているのにオーバースペックな品質の業務を、時間を掛けて提供するのは独りよがりでしかありませんから。
山本:
経営陣からすれば、まずは納期が最優先なんだと。2日で返してくれたらビジネスのスピードも上がりますからね。
法務としては「最初は2日でやりますけど、中身は1週間かけるより荒くなるのはしょうがない」「このポイントだけは抑えます」と、業務の濃淡をつけることでスピードアップを図れ、ここにも経営陣の意向が反映される。
この点をグリップするためにはどういう会話をしたのですか?
照山:
そもそも、ビジネスなんてリスクの塊でしかないんですよね(笑)。リスクが嫌なら経営なんてできないんですよ。ですから、我々は「そこに隠れているリスクはどのようなものなのか」をしっかりと説明することを心がけています。
「この条項をケアしておかないとバランスシートのここに影響します」「この部分が売り上げに直結します」などの重要なポイントを伝える一方で、「ここは飲んでも問題ありません」などの飲める条件はそのまま飲ませることでスピード感を高めていく。「これとこれを抑えておけば、自社の期待するレベルは越えていますよね?」という点を合意して仕事を進めています。