会社の法務部門に配属されると、まずは営業部門等から依頼された契約書等の法律文書の内容をチェックする業務を担当することが多いと思われます。しかし登場する文書の種類は多岐にわたり、はじめのうちはそれぞれの違いもわからないかもしれません。
本記事では、初めて会社の法務部門に配属された担当者を対象に、法律文書の作成の目的から、各法律文書の違いについて解説します。
法律文書の作成の目的
突然ですが、あなたがコンビニでおにぎりを1個買う時に、コンビニとの間で、おにぎり1個に関する「売買契約書」を作成したことはあるでしょうか?
この質問について、「ある」と回答される方はいないと思われます。しかし、あなたは、コンビニとの間で、おにぎり1個に関する「売買契約書」を作成しなくても、その代金を支払うことにより、実際におにぎり1個を購入することができていると思います。
このように、一部の契約(保証契約等)を除き、口頭での約束により契約は成立するため、必ず契約書を作成しなければならないというわけではありません。
しかし、単純な取引を除き、紛争の予防(口頭での約束のみであると、契約の詳細な内容について、後日争いになる可能性があります)や契約内容の実現(口頭での約束のみであると、相手方が契約の内容を実現してくれないような場合において、裁判等で相手方が実現するべき契約の内容について、立証することが難しくなります)の観点から、契約書の作成は必須であるといえます。
特に、企業間における契約は、一般にその内容が複雑であるだけでなく、金額も大きいため、ほとんど全ての取引について、契約書を締結する必要があります。
それでは、次章から各文書について解説します。
契約書
契約書は、前述の紛争の予防・契約内容の実現の観点から、口頭での約束を書面化したものです。
そして、契約には、売買契約、賃貸借契約、業務委託契約、譲渡担保契約、M&Aに関する契約、販売提携に関する契約、合弁契約、ソフトウェア開発契約、知的財産に関する契約、秘密保持契約などさまざまな種類があり、これらを書面化したものの総称を契約書ということができます。
ここで、前述のとおり、さまざまな種類がある契約書ですが、全ての契約書で全く異なる内容が規定されているわけではなく、概ね全ての契約書において、
- 目的
- 権利義務の内容
- 条件、期限、存続期間
- 解除、損害賠償
- 費用負担
- 規定外事項(仮に規定していない事項が発生した場合にどのように解決するかを定めたもの)
- 準拠法・専属的合意管轄(仮に紛争が生じた場合に拠るべき国の法律(日本法、中国法、イギリス法等)・解決を委ねる裁判所(東京地方裁判所、大阪地方裁判所等))
が規定されていることが多いと思われます。
覚書・合意書
契約書と覚書・合意書は、その「表題(タイトル)」が異なるのみであり、覚書・合意書も契約書に含まれます。当事者の合意であればすべて「契約」であるためです。
「○○契約書」ではなく「覚書」・「合意書」という表題(タイトル)にする理由はさまざまですが、例えば、簡単な合意事項を記載する場合や、複合的な契約や典型的でない契約の場合に「覚書」・「合意書」という表題(タイトル)にすることがあります。また、「変更覚書」「解約覚書」といった表題にみられるように、大本となる契約の変更・解約などでもこの表題が使われます。
なお、契約書と覚書・合意書は表題(タイトル)が異なるのみであり、その内容(口頭での約束を書面化したもの)は同じく法的効力をもつことには注意が必要です。
約款
契約書は、当事者間での交渉が予定されており、その結果(口頭での約束)を書面化したものであるということができます。
他方、約款は、基本的に当事者間での交渉が予定されておらず、主に企業が多くの顧客に対して一律に同じ条件を提示したい場合に用いられます。
そして、約款の具体例としては、銀行の普通預金規定やスポーツクラブの利用規約等を挙げることができます。
なお、約款は、契約書と異なり、基本的には当事者間での交渉が予定されていないため、顧客がその約款に拘束されるか(顧客が約款に規定されている条件を守らなければならないか)が問題となることがある点には注意が必要です。
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利用規約
利用規約は、前述の約款の一種といえます。あなたがWebサービスを使用する際に、後述のプライバシーポリシーとともに利用規約の同意が求められることが多いと思われます。
利用規約は、当事者間の合意事項を定めるだけでなく、何か障害・トラブルが発生し、クレームになったときに、サポート対応担当者の依るべき指針ともなり、Webサービスの利用者に対応するために作成する場合に用いられる表題といえます。
プライバシーポリシー
あなたがWebサービスを使用する際に、前述の利用規約とともにプライバシーポリシーの同意が求められることが多いと思われます。
プライバシーポリシーは、これまでの「契約書」と異なり、必ずしも当事者間の合意事項を定めるものではありません(個人情報の第三者提供を行うために本人の同意を取得する場合等、サービス上で「同意」取得するケースでは、合意事項にもなり得ます)。
プライバシーポリシーは、特定個人を識別することができる情報である「個人情報」及び位置情報や購買情報などのユーザーの行動・状態に関する情報である「パーソナルデータ」の取扱い方針(ポリシー)を定めた文書であり、個人情報保護法上、ユーザーから個人情報を取得し、また利用等をする際に、取得する個人情報の利用目的など、一定の事項について公表することが義務付けられていることに伴い、作成・公表するものということができます。
まとめ
前述のとおり、法律文書にはさまざまな種類のものがあり、その場面によってどの法律文書を作成するべきかが変わってきます。
したがって、まずは法律文書の種類をイメージした上で、具体的な場面でどの法律文書を作成するべきかを選択することができるようになる必要があります。
また、具体的な場面でどの法律文書を作成するべきかが選択することができた(例えば「約款」ではなく「契約書」を作成するべきであると選択することができた)としても、具体的にどの種類の「契約書」を作成するべきであるかも選択することができるようになる必要もあります。
そこで、まずは会社でよく使用している法律文書を検討し、どのような場面でその法律文書が作成されているかを観察することが有用であるといえます。そして、何よりも、契約書の「表題」自体には法的に大きな意味はないため、その文書に記載されている内容が想定している取引等にふさわしいかを確認する必要があります。