「ナレッジ管理」という言葉をご存知でしょうか?
ほとんどの方は「知っている」「なんとなくは理解している」「聞いたことはある」という印象かもしれません。言葉自体の知名度は比較的高いと思います。
「ナレッジ」や「管理」はビジネスシーンではよく出てくる言葉なので、それぞれ単体では理解しやすい言葉です。ただ、これを「実践したことはありますか?」と聞くとほとんどの方は「どうなんだろう?」「やっているような気もするけど自信はない」という反応になることが多いようです。
表面的にはわかりやすい単語ですが、明確な定義がないだけに、実際にできているかを問われると判断が難しいのがこの言葉の特徴かもしれません。本記事ではこの「ナレッジ管理と活用」について、本サイトのテーマの一つでもある「企業法務」そのなかでも契約書関連の業務に焦点を当てて活用のイメージを解説します。
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本記事で紹介する、法務部門におけるナレッジ活用をもっと深く理解したいという方は、書籍「企業法務におけるナレッジ・マネジメント」もご覧ください。手法の紹介から体制の作り方まで、より体系的な実践方法が紹介されています。
目次
ナレッジ管理とは?
ナレッジ管理は「ナレッジ(=知識、知恵)を集約、管理し、誰もが活用しやすい状態にする取り組み」です。「ナレッジマネジメント」と呼ばれる場合もあります。
そもそも人間は社会的な動物で、家族や集落などの単位で知識や知恵を共有しながら進化・発展してきました。ナレッジ管理と聞くと新しい言葉のようにも聞こえますが、元来は人間ならではの本能に近い行為です。
「暗黙知」「形式知」といったナレッジ管理や活用に関連する単語は1960年代末頃には存在しており周辺の概念は理解されていましたが、企業が経営に取り入れられるレベルになったのは、PCやデータベースソフトがオフィスワークで当たり前に使われるようになった80〜90年代以降と考えられます。
当初はカバーできる範囲も狭く、まず形式知を情報として整理し、効率よくアクセスする手段としてスタートしました。その後、Webアプリケーション型のサービスが増加し、さまざまな派生サービスが生まれました。
近年はSaaS形式のサービスが増え、例えばサイボウズ社のkintoneなど、組織の煩雑なデータを整理することを目的としたサービスも登場し、やる気があればナレッジ活用に取り組める環境が整ってきたといえる状況になっています。
企業法務のなかでナレッジ活用と相性のよい業務
本サイトのテーマである「企業法務」においてナレッジ管理や活用を実践するなら、どんな業務が最適なのでしょうか?
法務の全ての業務でナレッジ活用を推進するのは、着手する範囲も広くなりすぎ、効果を実感するのに時間がかかってしまう可能性があります。まずはコストパフォーマンスが計測しやすい、言い換えれば「成果の出やすい」業務に対象を絞ることも重要です。
そこで最初に手をつける対象の候補になるのが「文書化されたナレッジ」です。契約書、覚書、利用規約や約款、官公庁などへの提出書類など、法務部門が取り扱う文書にはさまざまなものがありますが、特に最初のステップとしておすすめしたいのが「契約書」です。
契約書をナレッジ管理の対象とすることには3つの利点があります。
①ナレッジ対象となるデータを確保しやすい
契約法務の作業の大半を占めるのがドラフト作成や契約書レビューで、作業ボリュームが大きいため、特に準備をしなくても最初から一定量の、形式が整ったデータを確保しやすい。
また、文書などの形式的なデータに付随して法務部員それぞれの暗黙知が一定量存在する傾向がある。
②法務部門内で取り組みをハンドリングしやすい
契約法務の作業は主に法務部門を中心に行われており、改善することについて部門外との合意形成や業務フロー変更の影響が少なく、自部門の裁量で進めやすい。
③効果がわかりやすい
契約書レビューにかかる時間やこなせる件数、セカンドチェッカーの赤入れの減少など、ナレッジ管理の効果を定量的に測りやすい。
このように、契約法務はナレッジ管理の実行のしやすさ、得られる効果の両面で相性がよく、初めて取り組む対象として最適だと考えられます。
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契約業務のナレッジ管理・活用により得られる効果
契約書をナレッジ管理や活用の対象とする場合、おもに4つの効果が考えられます。実際に取り組む上でも、これらのうちどれを目的にするか決めておくと効果の検証や実践に対する理解が得られやすくなるでしょう。
属人化の解消
蓄積したナレッジを共有・参照することで人によるアウトプットの差をなくし、誰が作業しても一定基準のアウトプットができるため、退職や異動時などリソース変動の影響を小さくできる。また、できる人ばかり業務量が多くなっていた結果これまで取り掛かれなかった、緊急ではないが重要な業務に着手する時間が作れる。
業務の効率化(作業時間の短縮)
契約書レビューやドラフト作成時に参照すべき情報や過去に蓄積されたナレッジを適切なタイミングですぐに取り出せるようになることで作業にかかる時間を短縮できる。
データ蓄積や検索など、テクノロジーとの相性が良い領域であり関連サービスも多い。
暗黙知の形式知化
法務部員それぞれが業務の中で獲得し頭の中にあるナレッジを共有することで、法務部門として持つナレッジが可視化され、新しい暗黙知を獲得する下地ができる。
リスク管理の精度向上
誰でも一定の基準で文書内のリスクチェックができるため、人による差や見落としを減らし全体の水準が上げられる。また、法律面での判断やアドバイス、契約書の修正(対案の選択)などにおいて、法務からのアウトプットを一貫させやすい。
契約業務におけるナレッジ管理の実践のヒント
では、ナレッジ管理や活用を実践するには具体的にはどう進めればいいのでしょうか?
実現方法の一つとして、ナレッジ対象の契約書を決め、ひな型や付随する情報を作成、定期的に更新やフィードバックができる運用体制を作るという方法があります。
大きく分けて4つのプロセスがあります。
①対象となるひな型の分類、パターン設計
ナレッジ活用で得たい効果やゴールを前提に、今回の取り組む上で対象となる契約書やパターンを決めます。前提として、契約審査業務の棚卸しをするとよいでしょう。
②ひな型への解説、チェックポイントの付与
契約書の条文ごとにチェックポイントや解説文を付与していきます。すべてを網羅して解説するというより、レビューする人にとって気付きとなること、頻繁にレビューの対象となる条文かどうかを重視します。
③条文別ひな型の整備
契約書内の特定の条文において複数のパターンが派生する場合、条文単位で管理し、ひな型条文の別パターン条文として、レビュー時などに参照できるように準備します。
④ひな型更新・フィードバックのルール設計
①〜③が完成した後も、定期的にナレッジの不足やひな型・別パターン条文などがアップデートされるように更新やフィードバックのルールを決めます。
まとめ
企業法務におけるナレッジ管理の紹介と、得られる効果について紹介させていただきました。もちろん、契約審査業務以外にもナレッジ管理の考え方は適用できますし、上記で紹介した以外の実現方法も考えられます。自社に合う取り組みを検討するきっかけとしてご参考いただければ幸いです。
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