新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言を背景に、テレワークやリモートワークといった新しい働き方が急速に普及しました。緊急事態宣言が解除されたのち、応急処置として開始したテレワークに対する評価や今後の継続意向については企業ごとに分かれているようです。
とはいえ、期待されているワクチンの開発がまだ先になりそうな状況下、今後もウイルス蔓延が第2波、第3波と広がってしまう懸念を考慮すると、現時点で出社勤務に戻した会社も、テレワーク体制へすぐに移行できる状態を作っておくことが必須になります。言い換えると、新型コロナウィルスの影響で一度はショック療法的に進んだテレワークを、アフターコロナでもワークさせることができるのか、その真価が問われるフェーズに入りつつあります。
感染予防のために通勤を控えるだけでなく、ビジネス的な効果も両立できる…本記事ではそんなアフターコロナの法務テレワークを成功させるために、チェック及び改善検討しておきたい点について解説します。
コロナ禍が法務におよぼす影響
法務部門にとってコロナ禍は良くも悪くも影響の大きい出来事でした。平常時であれば想像もしていなかったことが立て続けに起こり、事業運営や契約締結手続きでは緊急対応が必要になる。そして、緊急かつ物理的に離れた環境にあり、隣の席の上司・部下・同僚に気軽に声を掛けることが難しい状況だからこそ、今までの習慣や暗黙知では対応できず、法律や会社のポリシーを根拠に判断が求められる機会が増えたからです。
まずは、こうした状況下で企業において法務的なニーズが高まったポイントを3つに整理してみました。
既存の契約関係の見直し・解釈の明確化
これまで締結した契約書では、コロナ禍のようなケースは想定していないことがほとんどです。仮に記載されていたとしても、現実に発生した場合の対応まで定められておらず、見直しや修正といった対応が急増しました。
たとえば、業績が落ちてしまったときの対応を取り上げてみても、従来は、連続的な景気変動や経営努力の不足による悪化までしか想定していません。大半の企業は想定できる範囲の下落幅でリスクをコントロールします。飲食事業や旅行関連などで見られた売上90%ダウンのような、今までは起こり得なかった短期間の外部要因による業績の下落に伴う要因に際して、これまで結んできた契約をどう扱うべきかは契約上で定められていないことがほとんどです。特に、コロナの影響で履行が難しくなった場合、不可抗力条項の適用対象となるのかは、検討をした方も多いのではないでしょうか?
コロナを前提とした社内ルールの策定
大半の企業は以前からテレワークの準備はできておらず、急ピッチでテレワークにシフトするために、会社の制度や就業規則の変更などが発生しています。これは法務だけでなく人事労務や総務、情報システムなどの部門との連携も必要な作業でした。
新規の取引や事業展開に伴う法務の需要増
新型コロナウィルスのビジネスへの影響が明らかになるなか、アフターコロナに向けた動きも必要です。既存事業における変更はもちろんですが、これを機に、新しい取引先を開拓したり、新規事業を開始したり、需要喚起を狙った新キャンペーンを実施する機会も増えることが見込まれます。なかには、今まで知見のなかった新たな取り組みもあるはずで、法務によるリスクチェック機能や新たな契約対応が増えると考えられます。
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テレワーク化の本質は「不確実性への備え」
テレワークへの移行の影響は確かに大きいですが、本質的に企業に求められるのは「不確実性への備え」ともいえます。法務に求められる役割もコロナ前後で大きく変わりつつあり、アフターコロナの法務機能をどう構築するかは法務にとって重要な課題です。
アフターコロナの法務のテレワーク移行においてチェックしておきたい7つのポイント
不確実性への備えとして必要なのが「どのようなときでも事業を推進できる体制」です。テレワークという単語を表層的にとらえるのでなく、経営レベルで捉えた時にどうあるべきかを法務部門がイニシアチブを取って捉え、行動に移せることが理想ではあります。
とはいえ、現実的にはテレワークに関するノウハウすらない企業が大半だと思います。そこでまず必要なのが、「今やっている業務をテレワーク化できるかどうか」です。やったことがないことをテレワーク化しようとすれば当然ハードルが高くなるからです。ここで大事になってくるのが、テレワークする/しないの二元論ではなく、要素を分解して自社ならではのテレワーク方針を作ることです。そのためにチェックしておきたい7つのポイントをご紹介します。
メール以外のコミュニケーションツールを使っているか
従来は当たり前のようにできた、口頭や内線電話といったコミュニケーション手段がテレワークでは使えなくなり、メールに代わる非同期で高頻度のコミュニケーション手段が必要になります。利用頻度が高いツールだからこそ、緊急時になってから泥縄的に導入するのではなく、平常時から使いこなせている状態になっていることが望ましいでしょう。
業務が属人化しているポイントは明らかになっているか
どんな企業でもどんな業務でも、多少の属人化はあります。法務というスペシャリスト職ならなおさらです。「属人化」は否定的にとらえられがちですが、すべての属人化を解消すべきと考えるのではなく、テレワーク体制でも許容できるのか、代替手段が取れるか、といった見極めが重要です。特に、若手がさっと上長に意見伺いをする機会が限られる場合でも、業務の質とスピードを担保できるかが重要です。
関連記事:業務の属人化とは?原因究明と企業法務の業務標準化による効率アップの方法
事業部との連携ができているか
事業部サイドとハブ的な役割となる法務メンバーがいるかどうか、事業部サイドからの依頼や相談を受け付けるための業務フローができているか。これらはワークフローシステムの導入やプロセスの整備など、関係部署との事前の調整が必要になるため、短期的な実現は難しいことから、平時からの準備や信頼関係の構築が重要です。
会社に行かなくても業務が可能か
押印、契約書データの持ち出し、過去の契約や文献のクラウド化などが進んでいれば、テレワーク下でも法務業務を滞りなく行える可能性が高くなります。過去契約の参照が多いか、関連法規のリサーチ業務が多いかなど、日常業務をいちど俯瞰してみて、重要度に応じてクラウド化するなど準備しておきましょう。誰でもアクセスできる法務データベースを導入すする必要性が高まっているともいえます。
テレワーク化できる業務の切り分けができているか
まったく出社しない、ということが事業上どうしても難しい場合もあります。
その場合、出社する曜日やメンバーを組み合わせることで、最低限のテレワークをまずは実現するという方法もあります。社外に持ち出せない重要な文書への押印などが必要な場合を考慮すると、数日や時短でも出社できる前提ならば、ハードルが下がる可能性が高くなります。
従来は対面を当たり前としていた会議も、内容によってはWeb会議に切り替えたりすることで、出社しなくても円滑に進む業務もあるでしょう。
電子契約や契約書レビューサービスなどの導入ができるか
これは「会社に行かなくても業務が可能か」とも関係しますが、もしテレワークに必要なサービスの利用が発生した場合に、スムースに検討ができるかどうかは重要です。部署の予算状況や承認フローなども影響します。緊急時といえども予算は無限ではないので、導入効果と合わせて検討できるようにすることも重要です。
平常時であっても新たなサービスの検討や導入には準備に手間がかかります。短期の「テレワーク」のみを前提にするより、「これからの契約体制」という視点で検討すべきともいえます。
業務の基準となる規定はあるか
法務の業務をすすめる上で、たとえば契約書レビューのマニュアルなど、業務における最低限の基準があるかどうかも重要です。「メール以外のコミュニケーションツール」や「属人化しているポイントの明確化」とも関わりますが、テレワークでは、業務で不明点があっても同僚や上長に気軽に確認することが難しくなります。わざわざ時間を作って確認するようでは非効率なため、発生しうる例外対応まで含めた業務の基準、マニュアル整備が必要です。
おわりに
上記で挙げたポイントが完璧にできているという企業は少ないと思います。ただし、有事の際にはじめて検討していては間に合わないことばかりなので、それぞれの自社における状況を確認しながら優先度をつけ、アフターコロナの理想の法務部門を構築しましょう。
編著:GVA assist 運営事務局