「属人化」、多くのビジネスパーソンにとってはネガティブな印象のあるキーワードだと思います。たいていの場合は「属人化の解消」「属人化の改善」「業務フローの標準化」といったワードとセットで語られ、なかには「ブラックボックス化」と呼ばれることもあります。
この「属人化」は、仕事の文脈ではどうしても否定的に取られがちですが、業務の背景によってさまざまなパターンに分かれます。どんな会社や部署でも属人化が発生する可能性はあるため、ただたんに忌み嫌うだけでなく、属人化を防止したり改善する仕組みを用意したり、場合によっては属人的な状況を有効活用する発想を持つことが重要です。
本記事では、属人化について、管理部門、その中でも「法務」にフォーカスして、その問題や改善方法をご紹介します。
目次
「属人化」とは?
ビジネスシーンでも登場する機会の多い「属人化」というワード。本来どんな意味なのでしょうか?
検索すると最初に表示されるweblio辞書では以下のように解説されています。
企業などにおいて、ある業務を特定の人が担当し、その人にしかやり方が分からない状態になることを意味する表現。 多くの場合批判的に用いられ、誰にでも分かるように、マニュアルの作成などにより「標準化」するべきだとされることが多い。 企画・開発業務など、属人化されているのが一般的と言われる業務もある。
出典:属人化(weblio辞書)
文中に「批判的に用いられ」とあるように、多くの場合ネガティブな意味合いで使われます。特に会社側からみた場合に、特定の人にしかできない業務が存在することはさまざまな問題の原因、経営における潜在的なリスクにもなりえます。
みなさんも業務の中で以下のようなシーンに遭遇したことはありませんか?
- 「今日は○○さんは休みなので、この件は週明け対応してもらいましょう」
- 「この設定は○○さんがやったのでちょっとわからないですね」
こういった事象が積み重なることで属人化が進行していきます。
では、属人化によって具体的にどんな問題が発生するのでしょうか。
「属人化」により発生する問題
一般的な企業を例に、属人化によって発生する問題をご紹介します。
そもそも何をしているかわからない(仕事内容のブラックボックス化)
仕事がどんなプロセスを経て、プロセスごとにどれくらい時間がかかっているのかわからない。この状態を「ブラックボックス化」と呼ぶこともあります。
売上や作業の成果物がある場合「とりあえず成果が出ているからいいや」と後回しになってしまう場合もあります。間接部門の場合は、本当に何をやっているかわからなかったり、ひどい場合は単純に仕事をしていない、というケースもあります。
今までは、ほとんどの会社がオフィスに集まって仕事しているため、顕在化しにくい面がありましたが、テレワーク/リモートワークの普及の中で「誰が何をやっているか」が改めてマネジメント上の課題として注目されています。
業務内容が再現できない
ある仕事の成果を上げるための方法がブラックボックス化してしまうと、他の人に同じ業務を引き継いだり、プロセスの改善点を見つけることができなくなります。企業においては、人事異動や入退社、緊急時の事業継続の観点からみても大きなリスクになります。
業務品質が不安定になる
担当者以外は何をやっているかわからないため、メンバー間や上司が作業内容をチェックしたり、改善点やミスを見つけることができず、品質が不安定になる可能性があります。特に担当者が意図的にブラックボックス化している場合は、得られる情報も少なくなるため潜在的なリスクは大きくなるでしょう。
業務効率が悪化する
属人化してしまった業務は担当者以外はできないので、退職や異動、休暇の際に業務進行に支障が出る可能性があります。特に急な退職は大きなリスクをはらみます。会社の成長に合わせた規模拡大や新しい方針への対応も進まない可能性があります。
精度の高い人事評価ができない
仕事のプロセスがわからないため、以前と比較してどれだけ担当者が成長したか、他のメンバーと比較して優れている点が把握できず、精度の高い人事評価ができなくなります。
属人化することと「スペシャリスト」との違い
ここまでで、ふと疑問が浮かぶ方もいると思います。それは「スペシャリストを目指そう」「自分ならではの強みを探そう」というキャリア形成上のメッセージです。「自分ならではの強み」=「自分しかできないこと」を突き詰めることは、ブラックボックス化につながるのでしょうか?
答えはNoです。両者の最大の違いは「オープン性を志向しているか」に尽きます。本当に強みなのであれば、それを体系化し、組織内で同じことができる人をふやし、組織全体の力を底上げするのが正しい活かし方です。ブラックボックスであれば、その知識はいつまでに個人に閉じたままで誰にも共有されず、組織にとってメリットがないままです。
もちろん、特定の専門職や守秘義務との兼ね合いで、安易にオープンにはできないケースもありますが、担当者が社内でどのようにコミュニケーションをとっているか、その言動を注視していれば、どちらのケースに該当するかは読み取れるでしょう。
また、属人化、ブラックボックス化してしまう業務は、本来スペシャリスト性が求められないような、手続きや作業中心の業務であることも多いです。「スペシャリスト性を求められない仕事なのに属人化している」かどうかも、区別のポイントになります。
法務部門における属人化の悪影響
属人化はどんな組織、職種でも発生する可能性があります。では、法務部門においてはどんな影響があるのでしょうか?以下では、特に契約業務の属人化について取り上げてみます。
業務の進行に支障が生じる
属人化してしまった契約業務は担当者以外は行うことができないため、休暇による不在や異動時に業務がストップしてしまったり、作業レベルでは引き継ぎができていても、応用が効かなくなってしまうことがあります。また、その担当者が退職してしまった場合には、まっとうに契約書を見ることができる人が社内に誰もいないという状態になりかねません。
業務品質が低下
属人化してしまった契約業務は担当者以外に成果が共有されていないことが多いのではないでしょうか。そのため、メンバー間や上司によるダブルチェック、レビューができないため品質のコントロールが難しくなります。特にダブルチェック体制をとっていない法務部では、こうした問題が顕著に生じている傾向があります。特に、同じ業務を行うメンバーがいない会社では、会社としてのアウトプットの質がそこでストップしてしまう可能性もあります。
チームのスキルが向上しない
たまたまエース的な社員がいても、その人に依存することになれば法務チームとしてのスキルは向上しません。また、法務チーム全体のパフォーマンスがその社員の調子に左右されてしまうことで、アウトプットの質や量が不安定になることがあります。
社内コミュニケーションが悪化する
属人化してしまった契約業務については、仕事内容に不備があっても、個々人で業務を抱え込んでしまっているためその内容がわからないことから、具体的な改善要求の機会を得ること自体が難しくなります。また、「●●さんに投げておけばとりあえず大丈夫だから」とう状態が恒常化することにより、次第に法務部と事業部の円滑なコミュニケーションが悪化したり、密なコミュニケーションの頻度が落ちることで長期的にみて法務チームが機能しづらい状況に陥っている可能性もあります。
不正の温床になる可能性
属人化により、第三者からのチェックがない、又は会社の視点が反映されないことが常態化すれば、不正の温床になる可能性もあります。犯罪に該当するような不正はもちろんですが、将来的に会社のリスクになる可能性に対して対処できていなかったり、業務チェックが不十分なことにより、アウトプットにムラが出てしまうといった不安定さにもつながりやすくなります。
属人化により業務の進行に支障が出るのはもちろんですが、注意したいのが「組織の長期的な成長」を阻害してしまうことです。業務の属人化を「一過性の不便さ」として見逃さずに、手を打っておくことが重要です。
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法務における属人化 = 必ずしも悪、ではない
あまり良いイメージのない「属人化」ですが、理解して活用することでメリットになるケースもあります。
高い専門性が必要で、習得に時間がかかる領域
イメージとしてはプロスポーツ選手が近いです。誰もが認める突き抜けたスキルを持つ社員がおり、そのスキルを組織にとって最大限有効活用している状態です。
独自スキルを持つ社員の活躍の先に、法務部門として会社への貢献を見据えることができれば他社に対する差別化要因にもなります。たとえば特定分野の法律において第一人者的な存在だったり、特定省庁との関係性や動向の把握に強い、などです。業務遂行における効果はもちろんですが、露出が増えることで知名度向上や採用面への副次的な効果も考えられます。
個人の特性がそのまま商品価値になる業務
こちらはアーティストに近いかもしれません。法務部門の社員でありながら事業部との関係性づくりや要望の吸い上げに秀でていたり、法務以外の分野に明るい(事業部門で大きな成果を上げていたり、MBAやビジネス系資格を持っているなど)といったケースが考えられます。
こういった状況においては、属人化している状況を解消すべきマイナス点としてではなく、他社に対してプラスとなる要素として捉え、活用することが重要です。たとえば、平常時に発生する案件や契約書をこなす予防的な法務から、経営課題を解決するための戦略的な法務体制の構築といった変革時に活躍が期待できる人材かもしれません。
強みを生かして、通常の法務業務ではないプロジェクトや将来の種まき的な施策へのアサインなど、適材適所で配置することも検討しましょう。ただし、これら社員がいなくなった場合の影響は十分想定し、最低限の代替手段は講じておきましょう。
「属人化」が発生する理由
属人化は法務に限らずどんな組織でも発生する問題です。発生の背景にはどんな理由があるのでしょうか?
高度な業務であるため対応できる人が限られる
最も多い理由です。業務内容が特殊だったり過去の発生した事象への理解度が大きく影響するため個々の経験の差が出てしまうケースです。高度なスキルや背景理解が必要なため、業務水準を設定できず、限られた少人数で進行するような業務では属人化しやすい傾向があります。この場合には、業務内容・背景を簡単にシェアする仕組みが存在していないことが原因となっているケースが多いです。
多忙のため業務を振り返る時間がない
担当者が忙しいため業務をこなすのに精一杯で、マニュアルを作成したり、改善するための時間が取れないケースです。「自分でやったほうが早い」状態ともいえます。この場合、周囲のメンバーも同じ状況である場合も多く、属人化していることに気づかなかったり、周りも一生懸命仕事をしているので危機感を感じにくくなっている場合もあります。この場合には、業務内容や日々日々蓄積されていくTipsを簡単にシェアする仕組みが存在していなことが原因になっています。
属人化を解消する業務の評価がされにくい
属人化を解消するために、マニュアルを作ったり現状を把握する作業はどうしても間接的に作用するため評価の対象になりづらいといえます。お互いのやっていることに踏み込む必要があったり、高い専門性を供することへの抵抗感、といった心理的なバリアも影響します。
今の地位を守りたい。ミスを隠したい人がいる
属人化を解消する過程で、自分の仕事の内容が広く知られてしまうこと、他人と比較されること、明らかにしていなかったミスが知られてしまうこと、への抵抗など、ネガティブな理由も考えられます。また、ある業務を行う権限が特定の人に集中している場合もあります。周囲からは指摘しづらいので、上長や管理職には正確に原因を把握する視点も必要です。
チームの人数が少ない
「多忙のため業務を振り返る時間がない」に近いですが、業務量に対して人数が足りておらず業務をこなすことに精一杯になってしまうケースです。法務部門は事業部門に比較すると柔軟な人員変更がしづらい組織ですが、時期によって業務量が変動する傾向があります。繁忙期もしっかり業務をこなしつつ、課題を解決するリソースやタイミングをどう捻出するかがポイントになってきます。
法務において属人化を解消する方法
では、法務部門における属人化はどうやって解消すればよいのでしょうか?
プロセスの標準化、マニュアル化する
属人化解消において最も重要な施策で、法務の中でも発生頻度の高い契約書審査業務で用いられます。頻繁に発生する契約の内容としてどんな要素を含んでおり、それぞれの要素でどんな基準を満たすべきなのかを明らかにします。これはそのままチェックリストになり、上長やメンバー間でチェックするフローにすることで属人化解消と業務品質のコントロールが同時に実現できます。
それぞれのプロセスで行う作業はできるだけマニュアル化することで再現性を向上させます。
また、契約業務の受け入れ判断や対案、相手方向けの説明コメントなどは、ある程度事前準備で都度検討する時間を省略することができる性質のものです。そのため、作業ごとにかかる時間もコントロールし、改善できるようになります。
業務を行う仕組みを統一する
業務で使用するツールを統一するという対策です。たとえば法務における契約書審査業務では、電子メールや社内の共有サーバ、Microsoft Wordといったツールを活用していますが、これらのツールだけでは契約書審査業務に必要な情報がバラバラに存在することになってしまし、その使い方はまだ属人化の域を出ず、契約書審査プロセスを標準化するのは難しいでしょう。
この数年で、法務部門向けに権限や使用履歴を管理できるリーガルテックサービスも増えました。自社の課題に合うサービスを導入し、メンバーが同じ環境、仕組みの上で業務できている状況にするのも効果的です。
標準化したプロセスを誰でも・どこでもこなせるようにする
プロセスは標準化できても、メンバーのスキルに差がある場合、形骸化してしまう可能性があります。メンバーのスキル段階に合わせて、標準化したプロセスに習熟(オンボーディング)していける仕組みやカリキュラムを用意します。特に、移動や新卒など、業務に慣れていない新しい社員の入社は一定の頻度でありますし、最近はテレワーク/リモートワークの頻度も高くなっているので、できるだけ早くスキルを習得できる仕組みがどうすれば構築できるのかを意識しましょう。
標準化したプロセスを定量・定性両面で評価し、改善していく
一度策定したプロセスや仕組みも、見直しや改善が必要になるタイミングが来ます。一定期間で定量面、定性面両面で評価できるように、振り返り・改善の時間をあらかじめ予定しておきましょう。
- 定量面:契約書のレビュー数、1件あたりのレビュー時間、2ndチェックに要した時間、法務チェックへ回すことなく事業部でレビュー完了できた数など
- 定性面:頻繁に生じるレビュー上の疑問点・懸念点が一義的に解消されているか、経営課題に合致しているか、競合他社と比較した取り組み内容、事業部からの定性的な評価コメントなど
これらを1年に1回程度、定期的に振り返ることで策定したプロセスの改善につなげます。メンバーからの率直な意見も重要ですので、意見に対する心理的安全性の確保など、部全体で「問題発見は良いこと」というムードを醸成していくことも重要です。
(無料配布)法務担当者の業務の属人化チェックシート
ご自身またはご所属の部門の属人化を客観的に判断できるよう、チェックシートを作成しました。
自社の業務分析をしてみたいとお考えの方や、客観的にみて自社はどれくらいの属人化が進んでいるか気になる方は、ぜひ一度ダウンロードしてみてください。
まとめ
法務部門の属人化を防止し、経営課題の解決をリードできる法務体制つくりたい。この記事をご覧の方は、そんな思いをお持ちと思います。
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編著:GVA assist 運営事務局