日本橋東京法律事務所 代表弁護士 木村 康紀先生、長谷川 司先生に、OLGA のご導入の背景やご利用状況、導入メリットを伺いました。
貴所の業務内容をお教えください。
木村先生:
弊所は企業法務を主に取り扱う法律事務所です。顧問先は飲食店やメーカーなど多岐にわたりますが、 そのなかでもスタートアップ企業は比率として高く、契約書や利用規約作成、ビジネスの適法性の確認依頼などが多いです。
弊所の特長としては、AIを用いた新サービスを進めている顧問先が多く、AIサービスに対応できる弁護士がまだあまり世の中にいないためか、ご紹介いただくことが多いです。
企業以外では、私が以前に行政機関に出向していたこともあり、 行政機関からの相談や契約書作成の依頼も一定数入ってきます。
現在のレビュー体制や、その頻度について、具体的にお教えください。
木村先生:
現在のレビュー体制は、アソシエイトの長谷川弁護士と私の2名で行うことが多いですが、クライアントからの急ぎのご依頼や行政機関、企業の特殊な背景事情を把握していないと対応できないような案件は、 私のみでやります。最近多い類型としては、 業務委託契約書やサービスの利用規約などが多いです。
アソシエイトが関与する案件は月間10件くらい、 私のみで対応する件で5件くらいなので、契約書業務は少なくとも月10~15件くらいを扱っています。それを毎日、依頼者とやり取りするので、常に何か契約書について対応している状況です。
長谷川先生:
私が対応している企業法務案件は、契約書レビュー、 法令調査、 紛争対応などが中心ですが、それ以外にも家事、相続、交通事故といった民事案件も受任・対応しています。
弁護士としての契約書業務の課題感や、OLGA を導入するに至ったきっかけをお教えください。
木村先生:
契約書レビューは、これまでに件数を多くこなしてきた過程で、ある程度が能力がついてきていたのですが、対応する案件数が年々増えていくなかで、
・契約書作成のたびに、文献からひな型を探すのに時間を取られる
・レビュー時に、漏れなくレビューができているか、アドバイスの内容やクオリティが対応するレビューごとに違っていないか、不安がある
・時間がないなかで契約書案件を進めると、誤字脱字などが発生しやすくなる
といった課題があると考えていました。また、アソシエイトを採用してみたものの、 その育成において、これまで自分が感覚的に行ってきていたことをどのように言語化して伝えていくべきか、という悩みもありました。
長谷川先生:
入所したてのころは、たとえば契約書レビューではどのようなコメントをつけたらよいのか、どのように修正したらよいのか、正直なところ分からないことだらけでした。
また、 一般の文献を参考にする際も、文献ごとにレビューの方向性が異なっていたり、当然かもしれませんが文献上では契約当事者の個別事情が考慮されていないなど、私が1stレビューをして木村弁護士に2ndを依頼する際に、レビュー結果の齟齬が生じる可能性が多くありました。
木村先生:
そうした状況が顕在化していたため、リーガルテックを導入することで全ての課題は解決せずとも、一定程度は解決するかもしれない、そもそも一度使ってみないことにはその判断もつかない、と考えて、まずはいくつかのツールを評価してみました。
評価時の感想としては、あるツールは企業向けに作られていて弁護士にはあまり向いていないような印象があったり、別のツールはレビュー回数に上限がかかっていたりと、法律事務所で自由に使うにはあまりフィットしなかった印象です。
OLGAは、担当者から機能について説明を受けた際に「弁護士にも向いている」と言う印象があっただけでなく、その後のフォローアップや導入後のサポートの観点で OLGA が優れていた印象もあり、導入することに決めました。ツール導入後に私達をフォローしてくれるかどうかは、リーガルテック導入時に重要なポイントだったと振り返って思います。
OLGA を使って、レビュー業務のどのような課題が解決されたか、可能な範囲でお教えください。
木村先生:
「コミュニケーションのズレ」がなくなったことが一番大きいです。このコミュニケーションは、アソシエイトである長谷川弁護士とのコミュニケーションと、依頼者とのコミュニケーションの、それぞれがあります。
まず、長谷川弁護士とのコミュニケーションにおいて、1stレビュー結果への指示出しがとてもスムースになりました。自分自身はこれまでにさまざまな契約書を扱ってきたことから、引き出しにはバリエーションがありますが、弁護士になりたてのアソシエイトだとそれはありません。
OLGA導入以前は、まず、案件の詳細情報や取引の背景を説明し、それを基にひな型を文献から探してもらっていました。もっとも、私の意図する内容とアソシエイトの理解がズレていた、といったことが良くありました。その場合、再度説明して探してもらうことになりますが、二度手間になってしまうこともありました。
そうしたズレを解消するために、詳細情報の共有を最初に綿密に行うことも考えられますが、そこまで説明しているだけの時間もないこともあり、課題感を感じていました。
OLGA 導入後は、例えば売買契約書でも豊富なバリエーションがセットされているので、私からの説明の際にも「これがイメージに近い」と端的に指摘しやすいですし、長谷川弁護士が「自分で探せる」「自己学習できる」ようになったため、コミュニケーションにかかる時間を大きく削減できるようになりました。
コミュニケーション上で対立してしまうと、人間関係にも歪みが生じてしまいます。OLGAを長谷川弁護士の「自己解決の手段」として渡すことで、自律的な成長が期待できる状況を作れたのが大きな価値です。
長谷川先生:
コミュニケーションについては木村弁護士が言うように、OLGA導入で「質問する手間を減らせた」点が大きなメリットです。
パートナーは私の何倍も多忙なので、その状況を鑑みますと「こんな簡単なことを質問してもよいものか、時間をとらせてしまってもよいか」と戸惑うことがありました。
ですが、OLGAには多くのひな型があるだけでなく、条項の解説、修正する条項の優先順位も参考として掲載されているので、パートナーに初歩的な質問をして時間を取らせてしまうことが減りましたし、いざ質問するときに、OLGAで得た知識に基づいて質問できるため、議論が効率的に進むようになりました。
木村先生:
依頼者様とのコミュニケーションにおいても、OLGAは便利に使えます。
依頼者は自身のビジネスについてはいろいろ検討して相談に来ますが、契約書としてどういうパターンがあるかや、考えていることをどう条項にしたら良いかが分からない方が多いです。本来考えておかなければならない事項を検討できていない場合もあります。
そのような場合に、OLGAにあるひな型を「一般的にはこんなパターンもありますよ」と提示し、それをベースに「(他社では)こういう修正パターンもありますよ」、「このような条項を入れることも多いですよ」と議論や軌道修正していくことで、最終的に依頼者に合ったオリジナルな契約書として仕上げていくこともあります。
また、真面目な依頼者様ほど契約書にもしっかり向き合ってくれるのですが、ご依頼時の初期段階で敢えて作りこんでいない契約書をひな型としてこちらから渡すことで、ご自身に引き寄せて入念に考えてくださって、より良い契約書を一緒に作り上げることができたりします。私としても、繰り返し参照しているひな型で検討いただく方がアドバイスはスムーズにしやすくなります。
OLGAのひな型を軸に依頼者様とのコミュニケーションを進めることで、横道にそれたりすることがかなり減ったように感じています。企業法務はタイムチャージで稼働することも多いので、依頼者のメリットにもなっていると思います。
レビュー実務においてのメリットはどのような点がありますか?
木村先生:
クライアントからのドラフト依頼については、典型的な用途であれば OLGAに登録されているひな型に少し手を加える程度でも十分満足いただけています。
また、 過去に自分でレビューした契約書を OLGA に登録しておくことで、抜け漏れチェックや良い表現の使いまわしがスムースに行えるようになりました。
他にも、修正案に悩んだときに、以前の自分のレビュー結果だけでなく、OLGA に搭載されている、他の弁護士の方が作った表現を参考にできるのも、クライアントに提供する業務のクオリティを担保するのに役立っています。
長谷川先生:
過去にレビューした契約書を OLGAに登録し活用できる点が、時間の短縮にとても有効です。現在進行中の案件だけでなく、それ以外の過去の契約書も登録しておくことで、レビュー依頼がきたときに、パートナーが過去にレビューした契約書からコメントや修正方法を参照することで、目の前の契約書に対するレビューの方向性や契約当事者の個別事情などを具体的に考えることができるようになりました。
他にも、用語の統一機能(表記ゆれ修正)や、条項番号を自動で振ってくれる機能も便利に使っています。
OLGA ご導入前後での、レビュー業務やワークフロー、業務の変化についてお教えください。
木村先生:
変化としては「作業時間の短縮」と「コミュニケーションの向上」です。
契約書作成については、 契約書のひな型を探す作業はだんぜん減りました。また、長谷川弁護士も、OLGAを使いだしてからは自分で作るべき契約書に迷わなくなったように思います。その結果、長谷川弁護士に詳しく説明する時間がとれない状況下でも、仕事を安心して依頼しやすくなった実感があります。
加えて、クライアントとのコミュニケーションもスムースになっています。例えば、スタートアップの方などでたまにありますが、周りに言われて弁護士に相談にしに来たものの自身のビジネスモデルやビジネスの将来像すらまだ明確ではないときがあります。
従前は、話を聞いて法的な検討事項を持ち帰ってもらうだけになりがちでしたが、そういった場合にも「一般的にはこのような契約書がありますよ」「(他社では)懸念されているリスクをこのような条項で解決していますよ」、「(OLGAの解説を参考に)この条項は将来役立つ条項なので入れておいた方が良いですよ」という提案(雑談)をしていく中で、ビジネスの目的や将来像の議論に発展することもあり、クライアントとの信頼関係を積み重ねられるのも良かったです。契約書の重要性に気付いてもらい、依頼につながったこともあります。
プレイブック機能(自社の契約審査基準の登録機能)を活用いただいていますが、どのような業務フローにしているのでしょうか?
長谷川先生:
事務所独自のひな型は現在30通ほど OLGAに入れています。それだけでなく、木村弁護士がクライアントに戻したコメントや修正案が含まれる過去契約書も OLGAに入れています。
OLGAに入れておくと、契約書レビューの参考資料としてすぐに引っ張り出せるので、手間がかからず、とても便利です。
木村先生:
何を OLGA にセットするかは特に指示は出しておらず、長谷川弁護士に一任しています。
私自身の利用方法としては、「マニアックな契約書や特殊な契約書」を OLGA に登録しています。レビュー時に条文単位で比較検討できるようになったことで、難易度の高い契約書でもレビューがはかどっています。
OLGA で、他人に教えたい機能や使い方があれば、お教えください。
木村先生:
自由にカスタマイズができるレビューツールという点です。
自分の契約書をセットすると、自動的に条文ごとに分解してくれて、レビュー時に条文単位で比較参照できるのが良いですね。例えば、特殊なビジネスモデルのための契約書や利用規約を扱う場合、文献に載っているようなひな型が使えないことがありますが、同じクライアントの過去案件での契約書を登録しておくことで、「以前はそのクライアントがどのような点に拘っていたか」などを条文単位で確認できるのが、クライアントとのコミュニケーションの一貫性という観点からもありがたいです。
長谷川先生:
過去契約書の機能は、アソシエイトとしての学習にも大変役立っています。現在進行中の案件以外にも、事務所にある過去の契約書を OLGA にとりあえずセットしておくことで、レビュー時だけでなく、セットする過程で「こんなコメントを返すのか、こんな修正条文か」と、契約書について学べる機会が得られています。
OLGA に対する期待値やご要望、改善点、ご意見などをぜひお聞かせください。
木村先生:
一部のひな型で、合意管轄や準拠法など一般条項の言い回しが異なっていることがあるため、それらが統一的に管理されていると良いです。また「本契約成立の証として~」という結びの文言がひな型に入っているとなお良いですね。
事例を読まれている先生方に向けて一言お願いいたします。
木村先生:
まずは使ってみてはいかがでしょうか?
私も OLGA を使う前は「契約書は弁護士や案件ごとに個性があるから、導入しても結局は使えないのでは」という不安がありました。
たしかに、弁護士個人個人が常時高い業務クオリティを維持できていれば、それに越したことはありません。ですが実際には、人間がやっていることですのでクオリティにムラも生じますし、契約書にかけられる時間が限られている場合もあり、状況によってはコミュニケーションのミスも生じます。
また、一人で契約書業務を対応していると、条文の書き方や条項への判断がどうしても独りよがりになってしまい、「リスクを見落としてしまう」リスクもあります。正直に言えばOLGAの条文をそのまま使うことは私も少なく、OLGAから契約書に必要な「要素」をピックアップして都度活用している感覚です。
OLGA は、もともと法律事務所で多くの契約書をレビューしていた方々が考え、アイディアを具現化しているシステムなので、細かい機能も含めて「こうやって解決するのか」とハッとすることもあります。実際に使ってみて、それを体感するのはこれからの弁護士にとって重要なように思います。
長谷川先生:
アソシエイトにとって、実務と学習を兼ねた大変便利なツールです。
契約書に関する学習効率があがり、パートナーと一緒に契約書レビューしやすくなりました。また、OLGA を使ってきたことで、自分一人でできることの幅や視野が広がった実感があります。眼の前の契約書に対して戸惑いながら「パートナーに手間取らせたくない」と頭を悩ませてしまう時間を大幅に削減することができています。
木村先生:
そうですね、付け加えますと、アソシエイトの採用を積極的に行っている法律事務所には OLGAが必要ではないでしょうか。
パートナー目線では、あまり考えたくないことですが、弁護士が辞めてしまったときや留学などで長期離脱する際、OLGA がないと、それまで伝えてきたノウハウや教育にかけた工数がリセットされてしまいます。そうならないためにも、OLGA に自分たちのノウハウを載せ続けていきたいと思っています。