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「ベリーベスト法律事務所 代表弁護士 酒井 将先生に弁護士業界の展望について伺う~生成AIの影響、弁護士の需要、若手弁護士の嗜好等を中心に~」セミナーレポート

社会全体におけるテクノロジー導入の流れは、法曹界にも大きな影響をもたらしています。リーガルテックの普及により、日本の司法や弁護士業務のあり方が大きく変わってきています。例えば、これまで弁護士の知識と経験に頼っていた裁判例の検索が、AIの活用により瞬時に行なわれるようになったり、弁護士が関わる契約などの業務についても、多くの部分がテクノロジーに置き換えられたりと、より効率化が図られるようになりました。

社会全体のテクノロジー導入の流れから、弁護士自身の業務効率化だけではなく、依頼者との関係構築・顧問先の獲得についても、柔軟な対応が求められており、社会からの弁護士のニーズにも変化が見られています。事務所としてのビジョンと、それに沿った事業戦略によって組織体制を構築しなければ、持続的な成長が実現できない時代に既に突入しています。

今回は、弁護士ドットコム共同創業者で、ベリーベスト法律事務所を設立わずか数年で全国6位の大手法律事務所に成長させた実績をお持ちの、ベリーベスト法律事務所 代表弁護士 酒井 将先生をお招きし、生成AIの影響、弁護士の需要、若手弁護士の嗜好等、法曹界全体について、対談形式で広くお話を伺いました。ファシリテーターは、GVA法律事務所代表弁護士、GVA TECH株式会社 代表取締役の山本俊が務めました。

山本:

皆さんこんにちは。本日は、ベリーベスト法律事務所 代表弁護士の酒井先生に、弁護士業界の展望について伺います。

ベリーベスト法律事務所について

登壇者紹介:酒井先生

山本:

登壇者のご紹介です。

酒井先生です。経歴は記載の通りとなるのですが、期としては、何期になりますか?

酒井先生:

55期です。

山本:

改めて見させていただいて思ったのですが、弁護士ドットコムの方が、オーセンス開設より早いんですね。

酒井先生:

そうです。勤務弁護士のときに元榮さんに誘っていただいて始めました。勤務弁護士をしながら弁護士ドットコムをやっていたので、昼間は普通に事務所で働いて、夜戻ってきてからエンジニアと一緒にサイト作りをしていたような形でした。

そして、だんだん弁護士ドットコムの方の仕事が大きくなってきて、ちょっと事務所にいづらくなっちゃったんですね。それで、元榮さんが個人でやっていた「元榮法律事務所」に転がり込むような形になり、「酒井が入って来るなら名前変えようか」ということで、法律事務所オーセンスになりました。

ベリーベスト法律事務所を作ったのは2010年なので、割と最近のことです。

山本:

ありがとうございます。では、事務所全体のご紹介をいただいてもよろしいでしょうか。

ベリーベスト法律事務所紹介

酒井先生:

今、弁護士が353人で、規模でいうと6番目で、5大法律事務所の次という形です。

拠点は、今もう1つ増えて75拠点です。

グループ会社としては、税理士法人、社労士法人、それから弁理士ですね、特許業務法人と、あと弁護士JP株式会社というのは、弁護士ドットコムのようなポータルを作ろうかなと思って作りました。これは、これから色々サービスを追加していこうと思っており、まだアルファ版ベータ版みたいな、そういうレベルです。

山本:

弁護士システムの「Armana」にも携わっていらっしゃるんですよね?

酒井先生:

はい。それはまた別の「カイラステクノロジー」という株式会社がやっているものです。これは、弁護士ドットコムのときのエンジニアの富士さんという方が社長をやっていて、そこに僕が株主で入っている形です。

税理士法人については、僕の元顧問税理士だった岸くんという人がいて、彼は弁護士ドットコムのときに「税理士ドットコム」というのを作ったんです。弁護士ドットコムは、広告費は取れるけれど紹介料が取れないため、税理士ドットコムというのを作り、そちらで紹介料を取ろうという話でした。そのときに、僕の顧問税理士だった岸くんに声掛けして、いろいろ手伝ってもらったんです。

そんな縁もあり、「税理士事務所もグループで欲しいんだけど」と声かけし、彼の事務所の名前を変えてもらって、joinしてもらいました。

ベリーベスト法律事務所の成り立ち・成長因子

酒井先生:

2005年に弁護士ドットコムを元榮さんと一緒に立ち上げて、その1年後に、私が元榮法律事務所に転がり込む形で、法律事務所オーセンスを作りました。5月です。そして9月に、今ベリーベストで共同代表をやっている浅野が入りました。

元榮さんは、僕のゼミの先輩なんですよ。今慶應の法科大学院の委員長をやっている高田晴仁先生のゼミです。そして浅野と、後で入ってくる萩原というのも、同じゼミなんです。

ゼミの先輩と一緒に弁護士ドットコムを作って、頑張りたいんだけれど日銭が必要だから、その間VCとかから出資を受けるのではなく、自分で稼いだお金で弁護士ドットコムを経営していこう、ということで、法律事務所も一緒にやっていくことになりました。

当時、過払いが全盛期で、過払いをやったら結構お金作れるからやろうよ、ということになったのですが、ただ、僕も元榮さんも弁護士ドットコムの経営に専念したいから、実働で手伝ってくれる弁護士を入れようということで声掛けしたのが浅野だったんです。

彼は当時、今の柳田国際にいて、いろいろな企業法務をやっていたのですが、個人事件が禁止だったみたいで、「自分で個人事件をやりたいんだけどやれないからどうしよう」と思っていたタイミングで僕が声をかけたので「それなら思い切って出るわ」と言ってくれたんです。

そしてその後、2013年に萩原がうちの事務所に入りました。

ベリーベストの目標としては、元々弁護士ドットコムをやって上場させたいという思いでやっていたのですが、色々あって元榮さんと袂を別つことになり、どちらかというと法律事務所の経営の方に自分は注力することになりました。そうしたときに、弁護士ドットコムで上場という夢を捨てるわけだから、最初から日本一の法律事務所を目指してやっていくことになりました。

Webマーケティングが得意だったので、Webマーケティングを中心に、最初はBtoCから集めて大きくして、そこから中小企業法務とかBtoB展開してさらに大きくしていこうという戦略だったんです。それで、たくさん採用して拠点を展開して、今に至るという感じです。

山本:

最初に描いていた計画通りなのか、想像を超えていったのかでいうと、どうですか?

酒井先生:

正直最初は、上手くいくか行かないか五分五分だなと思ったんですよ。

だから、失敗したときのことも考えようとか思っていて、その時ちょうどリーマンショックだったり震災が起きた後だったので、不動産投資を全力でやったんです。それが結構大当たりして、今不動産の価格がすごく上がっていて、実はそっちの収入の方が未だに弁護士の収入よりあるんです(笑)。

でも、おかげさまで上手くいって、当初は債務整理をやっていましたが、いずれ過払い金がシュリンクして行って下手すると利益も出なくなるかもしれないため、それをカバーするぐらいの売り上げと利益を他の分野で出していかないといけないよね、ということでやっていて、でもそれは結構早々にクリアしました。

債務整理をやっていたオーセンスのときに、法律事務所ホームロイヤーズやITJやアディーレがだいぶ先行していて、そこがすごい売り上げだったんです。そこと同じぐらいの売り上げを達成したいなというふうに思っていて、ようやく今、達成できるかどうかぐらいです。

ベリーベスト法律事務所 弁護士数及び事務員数推移

山本:

採用の難易度に関して、ここ十数年の変化はいかがですか?

酒井先生:

2014〜2016年あたりは、就職氷河期だったため、結構人が採りやすかったんです。

オーセンスのときは、弁護士ドットコムをやっていたのですごく採りやすくて、司法試験1位の人とかも入ってきたし、人気がありました。

それがベリーベストになって、「ベリーベストはオーセンスと分割して債務整理に特化してるぞ」みたいに言われ始め採用力が弱くなっていたのですが、幸いにも就職氷河期だったため、結構いい人がいっぱい取れて順調にきました。ただ、時々失敗はしているんですよ。他の事務所も結構採用を頑張るので、油断していると取れなくなってしまいます。

やはり、採用するには、とにかく内定を承諾してくれた1人1人とちゃんとコミュニケーションをとってケアするのがすごく大事です。それを本当に頑張ってやりました。

あと、最近もまた失敗しているんです。これはなんでかというと、うちの事務所で転勤があると思われたからです。転勤はもうオワコンで、転勤があると嫌厭されるんですよね。だから、そこもすごく変えて、「転勤は無理にはお願いしません」と言って、地方に行ってもらう際には、「これだったら行っても良いな」と思う待遇で、自発的に行ってもらうようにしています。無理強いは全然していないので、その辺で今年はもうちょっと採れるかなと思っています。

昨年は60人内定承諾していたのが、直前に任官任検による辞退で26人減り、34人しか採用できませんでした。任官任検できるような優秀層が内定承諾してくれていたというポジティブな面もありますが、そもそも裁判所・検察だから、転勤があるじゃないですか。転勤がある人のすべり止めみたいな感じになっていて、すごく反省しました。

でも、本当に悩ましいですよね。ありがたいことに、うちは仕事には困っておらず、弁護士がいればいるだけ仕事を増やせるので、弁護士はなるべくたくさん取りたいんです。法律事務所の成長も、事務所の成長=人をどれだけ取れるか、というような感じなんです。でも、あんまりたくさん採用していると、誰でも入れる事務所なのかというように思われて採用力が落ちるのも悩ましいし、かと言って人を採らない訳にはいかない。ここは本当に辛いところです。

ベリーベスト法律事務所 拠点数推移

山本:

結構すぐに支店展開をされたんですか?

酒井先生:

そうです。ベリーベストは日本一にするぞって決めて、最初は資金が必要だったので、解決までの期間が比較的短い債務整理に特化したんです。最初の1年目は、売り上げの97%が債務整理でした。そのときに、直接面談原則というのができたんです。

それまでは、うちはWebで全国対応していたんです。地方でも東京でも、電話で受けていたんですよね。それが、直接面談原則ができたから、東京にしか事務所が無いのに全国の債務整理を受任していたら危ないよね、ということで、とりあえず全国対応をするために、札幌と福岡に拠点を作りました。無いところは出張相談とかをやったりして、必死に支店を増やすということをやっていました。

やっぱり支店を出していくと、地元のお客さんは来てくださるんですよね。それは債務整理に限らず色々な案件がそうなので、拠点を出すと仕事が取れるからということで、どんどん増やして行ったという感じです。

ベリーベスト法律事務所の取り扱い分野

山本:

取り扱い分野もかなり多岐にわたるというか、もうほぼ全てカバーしていますよね。

酒井先生:

断る仕事はないですね。全部やります。

全部やるんですが、やっぱり分野によって集客しやすい・しづらいがあるので、どうしても集客しやすい分野が多くなりますよね。

個人の方は、いわゆる一般的な交通事故とか離婚とか債務整理、労働。また刑事弁護もそうですが、こういうところは比較的Webで集客しやすいので、どんどん増えていって、シェアは相当とっています。

相続は、そんなにWebで取れないんです。これは何でかというと、やはり行政書士・司法書士・税理士のところに先に行っているので、そこからの紹介というのが多いです。なので、士業営業をやって相互紹介というような形にも注力しています。

例えば、司法書士さんが相続登記を受け、遺産分割協議書を作ろうとしたら揉めてしまったので、弁護士に紹介します。うちは、紹介を受けたら遺産分割協議をまとめて、その後また登記が発生するので、それをその司法書士の先生にお戻しします、みたいな形で、「連携しませんか」という士業営業みたいなことはやっていました。

山本:

企業法務もかなり拡大されましたよね。

酒井先生:

企業法務は地道に増やしていて、2011年から結構Webマーケティングで顧問先を獲得してきて、今2000社弱ぐらいまで来ているのですが、やっぱりWebで集客しているので小さい企業が多く、従って顧問料が安いところも結構たくさんあります。

ただ、顧問先の数は相当数あるので、業種別に専門部署を作ってノウハウを集約させるようにして、業界に詳しい弁護士を育てる、みたいなことをやっています。そうすると、クライアント企業も満足してくれて、また紹介が増えたりとかに繋がってくるため、それを地道にやっている感じですね。

これは最近はちょっとウェビナーとかセミナーとかやってみたりもしているんですが、クライアントを集めるのは本当に厳しいですよね。いろいろ試行錯誤していますが、なかなか大変です。

あとは、BtoCの方で最近ちょっと新しく、消費者被害や建築、医療、学校問題、海難事故などをやっているのですが、弁護士が足りていなくて、手が回ってないです。他のものが多すぎてしまって。みんなもう、あれもこれもでお腹いっぱいな状態になっているので、もう少し人が増えてくると、集中的にできるかなという感じですね。

GVA TECHについて

登壇者紹介:山本先生

山本:

ちょっと僕の紹介もさせてください。

僕は62期で、2012年にGVA法律事務所を作って、2017年にGVA TECHを創業しました。

山本:

GVA TECHは、弁護士向けだとGVA assistという契約書のレビューのサービスと、GVA ひな型という、1500種類のひな形のセットと書式のバージョン管理ができるのがセットになるようなサービスを出しています。

山本:

一応、GVA法律事務所というのも結構ややこしいんですが、実は大阪にもあるんです。

弁護士法人GVA国際法律事務所というのと、弁護士法人GVA法律事務所というのが、一応違うんです。

そして、タイとフィリピン、インドとマレーシアにもあります。

ディスカッション:ここ数年での依頼者のニーズや市場の変化

山本:

それでは、本日のテーマに入って行きます。

まずはここ数年での依頼者のニーズとか市場の変化についてです。

多分この領域では、日本で一番情報を持たれていると思うので、一つ一つコメントいただければと思います。

①交通事故

山本:

まず、交通事故の分野からお願いしてもよろしいでしょうか。

酒井先生:

はい。私は今、実務はやっていないので、うちの、分野ごとのマネジメントをやっている弁護士にヒアリングしてきました。

事故だけではなく、どの分野にも共通してると思うのですが、SEOでポータルサイトが弱くなってきてしまっていて、交通事故を取り扱っている専門の法律事務所のサイトがSEO上位に表示されています。そのため、特定の法律事務所にますます仕事が集まる傾向が強まっているみたいですね。

あとは、医療機関のページが法律事務所よりも上位表示され、法律事務所は相当頑張らないと上位表示されないらしく、Webマーケディングがかなり大変になっているようです。

それから、お客さんの意識も高まっているようで、かなりサイトを見比べて、特に重症であればあるほど、法律事務所を事前にすごく調べて選ぶという人が多いため、実績がある事務所の方が強くなっているようです。 あとは、整形外科や整骨院などにアライアンス営業をしている事務所も多いです。そこから紹介を受けるというパターンが増えているんです。ただ、整骨院とかはやはりむち打ちなどの軽いやつでしょうね。

②離婚・男女問題

山本:

次に、離婚・男女問題関係はいかがでしょうか。

酒井先生:

やはり、他の分野も共通すると思うのですが、お客さんがすごく事前に調べてくるんです。ネットの情報など色々見て、「こういう見立てなんですがどうですか」「こういう見立てでやってもらえませんか」みたいなことを、依頼者の方が弁護士にいろいろ要求するケースが増えてきています。

お客さんの要求って、やはり素人で生半可な知識で勉強しているだけなので間違っていることも多くて、「そういう感じだとなかなか難しい」というようなことを言うと依頼に繋がらなかったりなど、なかなか難しい人が増えているみたいです。

あとは、特に最近共同親権になる・ならないという話が結構あって、男性側で親権や面会交流にすごく強いこだわりを持っている方が増えてきて、「親権が取れないんだったら離婚しない」みたいな方もかなり増えているようです。

それから、養育費は欲しいけれど、養育費をもらうことで前の配偶者と関わりたくないという人も結構いるんです。それだったら養育費も要らないし、子供とも関わらせたくないというのがすごく多いです。

③債務整理・過払金請求

山本:

3つ目、債務整理・過払い金請求です。この辺りは、まだあるんですか?

酒井先生:

うちは、もうほぼないです。ただ、司法書士法人中央事務所、元々の新宿事務所は、まだ過払いの広告しかやっていないんです。

何年か前に、8割が時効で2割しかないと言っていましたが、それでもまだ広告出していて、多分もう完全に残存者利益ですね。

アディーレも一応、過払いのCMは出してると思いますが、債務整理寄りになってきているんじゃないですかね。過払いはもう、おそらくマーケットとしては終了に近いです。債務整理については、総量規制で多重債務者が減っているので、軽い案件が増えています。

また、競争が激化しているため、広告がどんどん過激になっていて、デメリットを言わずにメリットだけ伝えて集客するような広告が増えています。そのため、借りてまだそんなに日も経っていないし金額も少ないのに、利息がカットできますと言って、集客して、受けてしまうというようなことがあります。

それから、今すごく問題になっているのは、「もうこれは破産でしょう」みたいな案件を、結構無理な任意整理を組んで、払えなくて辞任になるようなケースが増えているみたいです。

要するに、広告が激化しすぎていて、借りてすぐのお客さんを受任してしまい、そうすると消費者金融などの貸金業者側も、まだ全然利息収入も入っていないのに、いきなり債務整理の通知が来るため、「そんなの三会基準で無利息で和解できないよ」となるわけです。そして、経過利息を払え、将来利息を払えと、和解基準がどんどん厳しくなっています。昔は過払い金返還請求があったため、包括和解みたいな形で、「任意整理で利息を請求されたくなかったら過払い金を減額しろ」というように、関係ない依頼者を天秤にかけさせて言ってくるみたいなことがありましたが、それはもう、当然やってはいけないんですよね。でも、そういう過払い金もほぼ無くなっていて、攻撃材料が無いから、もう向こうはガンガン利息請求をしてくるわけです。そうすると、破産するしかなくなってしまいます。その辺の交渉がかなりシビアになっていますよね。

破産になると、任意整理とかに比べれば我々の作業量も増えていき、利益率もかなり下がってくるし、広告費もすごく高いため、債務整理は今相当きついと思います。うちも、今かなり減らしています。

また、弁護士会が改めて「直接面談をしなさい」という通知を最近送っているんです。

山本:

直接面談って、今の時代でもやらないとやらないと駄目なんですか?

酒井先生:

駄目です。債務整理事件処理規程というのが平成23年頃にできて、5年の時限の規則だったのが、延長を繰り返していて、未だにやっています。コロナの時は、さすがにどこの事業所も遠隔で結構やっていました。最近はコロナも落ち着いてきましたが、コロナ時代に遠隔でやっていたのがそのままになってしまっていて、依頼者と会わずにずさんな処理をしている法律事務所や司法書士事務所が多いよねということで、また弁護士会が「きちんと直接面談を遵守しよう」と通知を出しているんです。そのため、うちも直接面談をやっています。

弁護士がきっちりヒアリングして方針を考えるということが重要なのに、その趣旨を「直接会う」というところにすり替えていると思って、ちょっと姑息な規則だなと僕は思っています(笑)ただ、規則なのできちんと遵守しています。

④労働問題

山本:

では、次は労働問題です。

酒井先生:

まず残業代の方は、賃金の消滅時効が3年になったこともあって、結構高単価の案件が増えてきたという感じです。あとは、トラックドライバーの残業代が法改正の影響もあって増えています。また、コロナのときは解雇の案件が結構多かったんですが、整理解雇の要件が揃っている案件もあったりして、相談はすごく増えたけれど依頼が増えたわけではありませんでした。それから、2021年以降は、解雇の問い合わせはそんなに変わってないけれども、退職勧奨段階の問い合わせが増えているみたいです。

これだけ働き方改革と言われているので、労働関係法を遵守する傾向にあり、顧問弁護士をつけている会社も多く、安易に解雇をしなくなりました。そのため、退職勧奨や配置転換などに関する相談が増えていますね。

あとは、解雇事案で争うと会社が解雇撤回してしまうケースが出てきています。解雇を撤回されると、従業員として復職しないといけないですよね。でも、復職はしたくないというお客さんが多くて、そうすると結構困ります。

山本:

逆にちょっと立場が弱くなりますよね。

酒井先生:

そうなんです。

あとは、企業向けの「問題社員対応」のようなセミナーが増えていて、会社がかなり学習しています。残業代の規制について、2024年問題を取り上げた建設業界や運送業界向けのセミナーもたくさんあり、会社側が乱暴なことをしなくなってるという感じです。

うちも、労働者側の案件は減っています。会社側がきちんと守っているということなので、すごく良いことだと思いますけどね。

⑤遺言・遺産相続

山本:

次に、遺言・遺産相続です。

酒井先生:

遺産相続については、不動産の価格が首都圏と地方で全然違うじゃないですか。

地方だと、空き家問題ですよね。いわゆる負の遺産である、処分するのにお金がかかってしまう不動産をどうするかという問題に関する相談が増えています。反対に、首都圏の資産価値が高い物件は、バブルのときと同じように、遺産相続の紛争案件が多い傾向にあるみたいですね。

空き家問題だと、相続放棄を検討するとか、誰も管理しない不動産処理のための所有者不明建物管理命令申立事件とか、そういうのが増えています。

また、相続税の基礎控除が下がったので、その相続税対策に絡んだ法律問題というのも増えています。

あとは、被相続人の預金を相続人の一部が引き出して使い込みしてしまい、使途不明金が多いみたいな相談も多いです。

それから、遺留分の問題については、2019年7月1日以降に被相続人が死亡した場合は遺留分侵害額請求を行うことができるようになって、金銭解決しやすくなったというのがあるらしいですね。

あとは認知症関係です。平均寿命が増えて、判断能力の有無が問われ、遺言の効力が争われる事案が増えました。生前の贈与契約の有効性がどうかとか、そういうのが増えてるみたいですね。

⑥企業法務

山本:

次に、企業法務全般です。

酒井先生:

企業法務は、コロナ禍とコロナ後で相談の種類がかなり変わったみたいですね。

やはり景気の影響を受けやすいため、それがそのまま法務にも影響していて、コロナ後しばらくは従業員トラブルとか債権回収トラブルが多かったようです。企業の業績が悪化して、リストラや支払猶予とかの相談が多かった。そしてコロナが少し治まってくると、景気が上向きになったためそういう相談が減り、企業の将来を見据えた前向きな相談が増えるようになったということみたいですね。

コロナ禍の間に、会社の経営を見直そうという会社が多く、新規ビジネスに関するノーアクションレターを出してほしいなどの、金融庁や経産省などの紹介をかける、所管の省庁に相談するというような相談が増えたとか、新規ビジネスのリーガルチェックなどが増えた、というような意見がありました。

あとは、やはりリモートがメインだったため、Web会議が多くなって株主総会などはシナリオから削除されて時間が短縮されたようです。そういう意味で、働き方も、企業の働き方が変わって、弁護士の働き方も結構変わったみたいです。

法律事務所経営での地域差

山本:

では、次のところにいければと思います。

法律事務所経営の地域差について、かなり支店展開されていると思うので、どういう点があるのかをお聞かせいただいてもよろしいですか?

酒井先生:

うちは、一般民事とか、企業法務もクライアントは中小企業が多いので、どちらかというと地方の方がまともな案件が多いんです。

おそらく大企業法務だったら当然、東京・大阪に集中すると思うのですが、弁護士の数が少ない地方の方がまともな相談が多いというか。でもそれは、一般民事分野はどこもそうなんじゃないかなと思います。だからうちも、地方は常に人手不足です。

生成AIの登場による弁護士業務への影響

山本:

次に、生成AIの登場によって、弁護士業務への影響についてです。

今までのAIだったらそんなにかなと思ったのですが、生成AIは本当に大きいなと思いまして。特にうちみたいな会社が生成AIを使っていると、すぐに弁護士法違反になるくらいに技術が進んでいるんですよね。

逆にここからは、法律事務所内部で生成AIは使い放題のような感じですよね。

酒井先生:

そう思います。

山本:

ここは結構、法律事務所の影響はかなり大きいのかなと思います。

酒井先生:

大きいと思いますね。

うちも、AIの研究をすごく頑張ってやっています。

今は条件というか、必要な数字を入れると訴状が作れるみたいなものがあって、分野ごとにとりあえず残業代請求を作ってみたりとか、他の分野を作ってみたりしていて、それを実際にうちの所属弁護士たちが使いながら、エンジニアにフィードバックして、もっと良くしていくような取り組みをやっていて、だいぶ効率化できるんじゃないかなという気はしています。

でも、あんまり進んでいくと、新人弁護士とかが訳も分からないまま訴状ができて、裁判所に出廷したときに裁判官から突っ込まれても何も答えられないみたいになりそうだなと思ってしまいます。

山本:

人がチェックするという前提で出来る感じがしますよね。

酒井先生:

AIを導入するかしないかで、弁護士の業務効率は相当変わるんじゃないかなという気はしますね。

弁護士として必要なスキル

山本:

次に、弁護士のキャリア方面のお話です。

弁護士としての必要なスキルという、いきなりオーソドックスなテーマにはなりますが、いかがですか?

酒井先生:

うちは、顧客対応から所属弁護士がやるんです。ボスが顧客対応してその仕事を受任して振るとかではなく、結構みんな自分で法律相談から受任して対応していくので、コミュニケーション能力をすごい重視しているんですよね。弁護士として仕事を獲得して売り上げ作っていくという意味で言うと、やっぱりコミュニケーション能力は今後も重要になってくるんじゃないかなと、当たり前ですけどね。

あとは、これも当たり前ですが、たくさんの案件を同時並行的に処理していくわけなので、事務処理能力は必要ですよね。事務処理能力が高い弁護士はバンバン解決して売り上げを作っていくので、生成AIとかでかなりカバーされるかもしれないけれど、やはりここは重要かなと思います。これは、ここ何年かで変わったことでもないし、今後も重要だと思います。

それから、当然、起案能力とか、あとは事件に接したときに、どの辺が論点になって、どういう法律が問題になるかみたいなのをぱって当たりを付けられる能力ってすごく大事だと思います。それはやっぱり横断的な法律知識が必要なのかなと思うし、リサーチ能力、つまり自分の目的と探したいものをいかに早く見つけられるかというところも大切です。ただ、この辺もAIとかで結構カバーされそうですよね。

あとはやっぱり、結局厳しい裁判とかでも諦めないことが非常に重要なので、粘り強さとか、丹念に記録を読む能力とか。泥臭いですよね。細かいことをいとわず頑張って調べるとかそういうところかな。ただ、そういうのもかなり生成AIで代替していける気がするので、弁護士業務はちょっと楽になってるかもしれないですよね。

今後、弁護士として必要なスキル

山本:

そういう意味だと、あんまりここ10年で弁護士の必要なスキルは変わってないですよね。

ただ、今後10年となると、変わるかもしれません。

酒井先生:

生成AIをうまく活用できる能力、プロンプト、指示出しが上手いかどうかとか、その辺が結構影響してくるような気がしますね。

山本:

事務所能力っていう意味では、やっぱり使うと10倍とかのレベルで変化する可能性がありますよね。

緻密さみたいなところがちょっと変わってくるというか、もう生成AIが前提での緻密さがあると、力の入り具合が別のところになるかもしれないです。

酒井先生:

そんな気がします。

採用において気になっている点

山本:

では、採用について、ここは一番力を入れてらっしゃるというお話でしたが、一番気にしているポイントというか、見てるポイントを教えてください。

酒井先生:

やっぱりお客さん商売なので、コミュニケーション能力は一番重視してますね。

ただ、面接だとそんなに分からないですよね。良いなと思って採ってみたら微妙だなという人もいるし、微妙だなと思ったらすごく活躍する人もいるから、分からないです。僕の人を見る目がないのかもしれないですが(笑)

あとは、やっぱり司法試験の順位とか、何回受けているかとか、ロースクール2回行ってないかとか、その辺は、確率的に多少は気にします。

山本:

コミュニケーション能力を見る上で、集団面接とか、何かしらやられたりしていますか?

酒井先生:

複数の弁護士が面接に対応してはいますが、特別なことはやっていないです。

山本:

うちは、いろいろ工夫して、何段階かに分けてやったりしていますね。

酒井先生:

性格診断に似たような、どういう能力が高いかとかそういうのを調べるテストみたいなのがありますよね。

ああいうのを導入したりもしているみたいです。判断に迷ったときは一応そういうのもやってみてもらって、ストレス耐性がどうとか、そういうのを参考にしていたりはするみたいです。

でも、それでもやっぱり分からないですよね。

新人弁護士の嗜好

山本:

次は、新人弁護士の嗜好です。

酒井先生:

最近は、企業法務の志向が強いですよね。

おそらく、ロースクールになって実務家教員が増えて、企業法務の話をされる機会が多いからでしょうね。

普通の学生とかのレベルだと、弁護士のイメージってテレビドラマのイメージがあったりするじゃないですか。そうすると、結構一般民事とか刑事とか離婚とかの題材が多いですため、そういうのをイメージしているんだけれども、ロースクールに行って実務家教員の、色々な面白い法律案件の話を聞いていくうちに、企業法務志向が強くなっている人が多いです。

あとは、やっぱり地方勤務は嫌われますね。大都市志向がめちゃくちゃ強くなっています。

地方はどんどん減っていて、去年か一昨年の仙台の新入会員がゼロって聞いて、びっくりしました。本当に東京大阪に集中していますね。裁判官や検察官も、転勤があるため人気なくなってるっていいます。そこがすごく変わりましたね。

新人アソシエイトの戦力化・教育について

山本:

次に、戦力化・教育についてです。

酒井先生:

教育はかなり大事だと思います。どんどん教育が大事になっています。

昔は結構、司法試験に受かって研修に行ってきたら、大体すぐ独り立ちできるぐらいだったのが、今は司法修習も短くなっているし、合格率も上がっているため、結構基本的なことが抜けていても受かるんですよね。それは予備校の講師をやっている弁護士も言っていましたね。

結構基礎的なことを分かっていなくても受かってしまっているみたいな人が多くて、もちろん受かった後に研鑽してくれればいいですが、そのまま努力しないと、弁護士としての仕事に耐えられないケースが出てくると思います。

いきなり弁護士としてプロとして仕事するわけなので、そこは研鑽していかないといけないと思いますし、うちも、基幹業務というかたくさんやっている案件があるので、そういうところはきっちり教えて、先輩弁護士が見て、ちゃんとできるようになってから独り立ちさせるというのは大切にしています。そうじゃないと、お客様に迷惑かけたりするケースも出てきてしまいます。

山本:

最初は、一通り触ってもらうような感じなんですか?

酒井先生:

最初は結構一通りまんべんなく、どの分野もオーソドックスな弁護士としてできて当たり前の仕事なので、出来るようにした方がいいよね、ということでやっていたんですが、最近はそれをやると結構アップアップになってしまう人も多くて。

まずは1つの分野をマスターして、それができたら次やって、という方がいい人もいるんですよね。そのため、最近は結構絞っているケースも多いですが、人によりますね。

純粋法律業務以外への展開について

山本:

次に、純粋法務業務以外のところ、プライバシーコンサルティング等、結構いろんな展開されていると思うのですが、この辺りで、今何されていて、何考えてるなど、お話できる範囲でお願いできますか。

酒井先生:

プライバシーに関しては、僕もあんまり詳しくないんですが、Cookieを設置するのに、海外からのアクセスとかもあったりするため、個人情報保護法だけではなくて、海外の法律にも適合しないといけないらしいんですよね。その辺の法律が海外だと全然違ってくるので、そこをどういう仕組みにしたらいいのか、というようなところをきちんと遵守できていない大企業、上場企業がいっぱいあるんです。

そういうところに、それに対応したCookieのシステムを作って、海外の色んな法律が変わる度にそれに適用した形に変えますというようなサービスをやっています。それを一つの企業が対応するのはほぼ無理なんですよ。だから、そういうのを代行する会社と組んで、そういったプライバシー周りの法律業務を受けていたりします。

そういうビジネス系の話が結構前からあるんですよね。うちが一般民事を扱う事務所の中で規模が大きくなったのと、あとは4大・5大とかと違ってパートナーがいっぱいいるとかではなく、僕と話せば基本的にやるかやらないか決められるので、そういう意味で結構スピードが速いと思っていただけるのかもしれません。

あとは、リーガルテック系の話も結構いっぱい来るんですよね。

例えば、事務所内の過去の書面とか、作った契約書と類似のやつをパッと出せるような文書検索システムを社内で作っていたんですが、それのすごく性能が良いやつを開発している会社がうちと組みませんかって言ってきてくれて、社内でそれを使ったりとか、うちのクライアントに売ってこうかとか、クライアントを超えてちょっと営業してみようかとか、そんなことをやっていたりします。

関連して、普通のITのSaaS企業みたいなサービスをやり始めたりみたいなのもあるし、あとは、利益相反じゃないの、というようなM&A仲介がすごく多いんですよね。それを不満に思うクライアントは多くて、例えば売り側なんだったらいかに売り側の立場に立って高く売れか、という観点で、グループに税理士や弁護士がいますから、財務的に改善して法務としてもデューデリして良くして、企業価値を上げて売るお手伝いをしましょう、というM&A仲介を作ったりとか、派生ビジネスはちょいちょいやっていますね。

事務所の成長と弁護士業界の未来について

山本:

この辺りはセットでお話していただければと思うのですが、事務所の成長と弁護士業界の未来は明るいのでしょうか、というところについて、お話していただければと思います。

酒井先生:

僕は、未来はすごく明るいと思っています。

うちの業界って、広告とか営業とかっていうのを全然してこなかった業界ですよね。うちは事業推進部で営業マンが50人ぐらいいるんですが、営業している法律事務所ってあまりないじゃないですか。広告にしても、うちは離婚や交通事故などメジャーなところはやっているのですが、まだまだ力を入れていないところもいっぱいあります。建築なんて、ちょっと広告をかけるだけでブワッと来るんですよ。でも建築紛争は1件1件がすごく重たいためマンパワーが足りず、広告を止めました。医療もそうで、世の中にニーズはすごくあります。

それこそ医療なんかは、うちは医者で弁護士の先生と一緒に組んでいるのですが、その先生は元々医療側の代理人をやりたくて弁護士になったものの、やっているうちに患者側の情報の少なさや弁護士の医療の知識不足により、明らかな医療ミスなのに医療側が勝ってしまう、またお医者さんがミスしたから謝りたいと言っても、保険会社がダメだと言って、結局勝ってしまうという事案が発生していました。そういった情報格差が理不尽だと思い、はじめは医療機関側でやりたかったけれどやっぱり患者側でやりたい、でも1人では微力だからベリーベストと組んでやりたいと言ってきて、一緒にやっているという経緯があります。

でも、そういったニーズは沢山あるのに、全然人手が足りていないんです。少しでも新しい分野へマーケティングすればいくらでも取れると思います。

あとは、企業法務に関しても、普通の一般企業の営業って、すごくきちんとプレゼンするじゃないですか。弁護士でそんなプレゼンしている人なんていないんですよね。企業側の方から困って相談してくるケースが多くて、ただ受身で待っているだけじゃないですか。

そのため、もっと弁護士の側からちゃんとプレゼン資料を作って、御社にとってこういうメリットがあって、これをやったらこれだけ売り上げが伸びるとか、これだけのコスト削減になるとか、そういうことを提案してやれば受注できるはずです。

クライアントのニーズを突き詰めて考えて、そこに刺さるような営業活動をしていけば、まだまだ仕事を取れると思います。マーケットはいくらでもあるし、明るいと思います。ただ、なんだかんだみんな仕事を取れているから、そこを真剣に考えてやるほど切羽詰まってないんですよね。

もっと競争が激しくなったら、どんどん色んなことを考える人が出てきて、マーケットがどんどん広がると僕は思っています。

山本:

心強いお言葉をありがとうございます。

あっという間に時間が過ぎてしまいました。本日はこちらで以上とさせていただきます。

酒井先生、本日はありがとうございました。

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