GVA assistは、テクノロジーで契約業務に関する課題解決を目指すだけでなく、弁護士・法務パーソン向けのセミナーも随時開催しています。
本セミナーでは、一般社団法人弁護士EAP協会に所属してEAPの取り組みを推進している3人の弁護士を講師に招き、弁護士がEAPを提供するメリット、EAPを企業が導入するメリットを中心に、ご自身の体験談をお話しいただきました。
EAPとは「Employee Assistance Program」の略。医師やカウンセラーと弁護士が協働し、企業で働く従業員の環境調整を行う取り組みです。EAPを提供することで「顧問先が増えた」「顧問の継続契約が増えた」と語る3人の弁護士。そのポイントはどこにあるのでしょうか。前後編のレポートでお届けします。
牛見 和博 弁護士
弁護士法人牛見総合法律事務所 代表弁護士
一般社団法人弁護士EAP協会 理事長
2013年に故郷である山口市で開業。これまでに法人・個人あわせて5000件以上の相談が寄せられ、弁護士5名、臨床心理士1名、スタッフ9名、県下有数の規模に成長。顧問先は100社を超える。
2018年に弁護士需要を喚起する重要な切り口であるEAP(従業員支援プログラム)を発見し、本格的にリリース。2021年に全国の弁護士とともに一般社団法人弁護士EAP協会を設立し、理事長に就任。
「日本中の人が弁護士にアクセスできて相談できるようにする」というビジョンを掲げ、EAPを全国に普及すべく活動している。
目次
一般社団法人弁護士EAP協会とは?
一般社団法人弁護士EAP協会の代表を務めている牛見和博です。まずは私が代表を務める弁護士EAP協会の概要についてご説明します。
一般社団法人弁護士EAP協会は2021年5月に設立しました。毎月1回理事会が開催され、誰でも参加できます。取組報告会では取組や事務所経営全般についてのディスカッションをしています。広報・普及、研修・業務支援、総務の各委員会があって毎月1回委員会を開催しています。
委員会への参加は任意です。というかすべて任意で乗り降り自由です。いま全国34都道府県、37単位会で135名の会員がいて、14社の賛助会員に賛助いただいています。
年会費は5000円です。理事会や各委員会でEAPに関する情報が得られますし、取組報告会で意見交換ができます。また、会員向けの研修やセミナーには無料でご参加いただけます。協会で作っている営業販促ツールやセミナー資料も利用することもできます。会員のみが閲覧・利用できる資料として、過去の取組報告会の資料や動画も見られるようになっています。他にも、書式、ロゴ、名刺、チラシなどもご用意しております。
私としては、やはり理想は体と心と環境の調整だと思っています。医療、心理、法律であらゆる悩みを解決したいと考えています。協会の活動を通じて「日本中の人が弁護士にアクセスできて相談できるようにする」というビジョンのもとで、協会を運営しています。
体、心、環境の面で社会貢献できるEAP
私が代表を務める弁護士法人牛見総合法律事務所は、顧問先が100社超あります。顧問先の従業員数が8,000名超、業種、規模もバラバラです。役員・従業員の規模は1名〜数千名です。もともと私は9年前に山口市で開業したのですが、人口が19万人しかおらず、弁護士が身近ではない状態で、最初は苦労しました。
私が弁護士になった理由と関わるのですが、とにかく弁護士へのアクセス、相談しやすさを改善したいという思いがありまして、ここまで頑張ってきています。
これまで企業専門の弁護士として活動してきたのですが、ある日、顧問先の従業員の相談が思ったよりも多いなと気が付きました。これだけを切り出したらどうなるのか、そういったサービスを提供している弁護士もいるのではないかと思って調べたら、これがEAPだということが分かりました。
EAPとは「Employee Assistance Program」といい、従業員だけではなくその家族の支援をするということと、組織に対しても提供される総合サービスです。これはアメリカ発の制度です。アメリカで昔アルコール依存症や薬物依存症が問題になったとき、そういった問題を抱える従業員を助けよう、支援しようというところから始まっています。会社がお金を出して従業員の支援をするというものです。
国際EAP学会がEAPの定義をしています。
- 職場組織が生産性に関連する問題を提議する
- 社員であるクライアントが健康、結婚、家族、家計、アルコール、ドラッグ、法律、情緒、ストレス等の仕事上のパフォーマンスに影響を与えうる個人的問題を見つけ解決する
このふたつがあります。
日本においてもEAPはありまして、2015年にストレスチェックが義務化されていますが、大企業を中心に導入されていますが、これもEAPのひとつです。ただ、日本におけるEAPは基本的にはメンタルヘルス相談が中心です。ドクター、カウンセラーが関わるものが中心になっています。海外ではEAPに法律相談を付加することが一般的に行われていますが、日本ではEAPで法律相談は普及していない状況です。
EAPにおける弁護士の役割を考えた時、従業員の幸せの実現のためには、バイオ・サイコ・ソーシャルの視点が重要だと考えています。
- バイオ=体
- サイコ=心
- ソーシャル=環境
ということですが、体を整えるのはドクター、心を整えるのがカウンセラー、環境を整えるのはロイヤーということで、従業員がなにか悩みを抱えた時にロイヤーが関与することが必須だろうと思っています。
具体的にいうと、弁護士にできることは本来あるべき環境に調整することだと考えています。業務上の原因で生産性が落ちている場合に、我々弁護士は就業規則やルールを整備したりパワハラ・セクハラ研修をして環境調整をしていると思います。
同時に、弁護士の方々はすでにやっていると思いますが、顧問先から頼まれて従業員や役員のプライベートな問題、借金や夫婦関係、事故、親の介護・相続といった問題に関わることがあると思います。これらを解決することで、役員・従業員のプライベートな環境を整えて、仕事に集中できるようにする役割を弁護士が担えると思っています。
私の事務所での具体的なEAPのサービス内容ですが、
- 役員・従業員のプライベートな問題に関する法律相談(面談・電話・メール)
- 内部通報の外部窓口(希望があれば)
を行っています。対象者は、
- 役員・従業員本人
- 配偶者・子供
- 親族
で、1はもちろんですが、配偶者・子どもの問題は従業員本人の問題と同義に近いところがありますので、ご家族、場合によっては親族の相談も受ける対象としています。
次に弁護士によるEAPのビジネスモデルです。弁護士は会社とEAP契約をもらい、お金をいただきます。お金をいただいて従業員のプライベートな悩みの無料相談を受けます。
EAP契約は従業員のプライベートな悩みの相談を受けるのですが、そうやって会社と関係ができると、今度は会社の相談も受けてほしいという話になります。そこで顧問契約をすることになり、契約書チェックや紛争対応とか個別対応の相談がどんどんタイムチャージになり、個別のチャージなりが生じてきます。従業員の無料相談を受ける場合には、当然それだけではとどまらず借金、交通事故、遺産相続など個別に受任するということも起こります。
通常、法律事務所のクライアントは個人の相談はスポットの相談が多いわけですが、従業員が会社に勤めている限りは、ずっとEAPで同じ弁護士に相談をする形になりますので、従業員との関係も永続的に続いていきます。
EAPの営業方法
EAPの営業の流れです。
まずは会社との関係を作らないといけないので、既存の顧問先や知り合いの企業、団体、士業などに提案したりしました。人によってはホームページやチラシで販促するケースもあるでしょうし、私が多いのはセミナーです。最近はロータリーやライオンズを回り、EAPの話をしています。
会社とEAP契約をしたあとは、従業員から相談をしてもらわないといけないので、従業員向けのガイドブックを配布したり、従業員向けの説明会を行うようにお願いしています。社内報で告知をしてもらったりもします。
導入後のフォローアップとして、会社にどのくらい相談があったかをフィードバックをしています。
EAPによる顧客開拓の5つのメリット
私はこのEAPによる顧問先開拓について5つのメリットを整理しています。
興味を持ってもらえる
一番大きいのは興味を持ってもらえることです。
いま経営者が興味関心があることのトップに近いと思うのが人材の確保と定着です。ここにEAPが寄与できますよと話します。
経営者はいままでも自分自身の問題もそうだし、従業員のプライベートの問題もそうだし、相談はもらうけど解決できなかったという思いを持っています。そこが解決できますよということで興味を持ってもらえるということがあります。
誰でも営業トークができる
企業法務の営業トークって意外と難しいんですよね。労務が最近流行りというか昔から労務が顧問のきっかけになることが多いのですが、予防法務ってあまり経営者って興味がないんですよね。
しかも実際にどういうことがあるのかは、それなりの経験がある弁護士じゃないと話ができないのですが、EAPに関していうと、借金問題や離婚問題や交通事故など、弁護士がだいたい関わったことがある、弁護士のメリットがそれなりに話しやすいテーマで、どのように従業員を支援できるかを話せばいいので、営業トークがしやすいんです。
経営者も実際にそれを話された時に理解がしやすい。離婚、借金、交通事故はこうです、と理解しやすいので話がしやすいんですね。
単価アップにつながる
顧問契約に付加することもできますし、EAPによって会社との接触頻度も増えますので、それによって顧問契約をしている場合は相談が増えるという効果があります。
顧問継続につながる
顧問契約とEAPをセットにしている場合、顧問契約の継続にも繋がります。
役員、従業員の個人的な悩みを解決するということで個人的な信頼関係ができます。そういう信頼関係は、これまでの弁護士であれば飲みやゴルフで個人的に役員と関係を作って信頼関係を築くことをしていたと思うのですが、そうではなくてプライベートな悩みを解決することで信頼関係を築く、接触を増やすことで顧問継続につながるという面があります。
個人向け業務が増える=法教育ができる
EAPで個人からの相談が増えるわけですが、同時に法教育ができます。どういうことかというと、我々弁護士はメリットさえ伝えることができればもっと相談をしてもらえる存在だと思っています。
ですが、学校でも弁護士がなにをするか教えてもらっていない、社会に出ても教えてもらっていない、弁護士がなにをしてくれるのかどこにも教えてくれるところはないんですよね。
EAPの場合はどうかというと、会社が勝手にというと語弊がありますが、制度を導入することで従業員を集めてくれて30分や1時間、弁護士にどういうメリットがあるかを話す場を与えてくれるんです。それだけではなくてパンフレットを配ることもできるし、定期的に行うこともできます。
従業員や役員への法教育の場をつくれることで、弁護士への相談の需要を根本的に増やすことができると思っています。
従業員からは夫婦問題、借金、相続などの相談が多い
実際の弊所でのEAPの利用実績です。先ほど顧問先が100社超で従業員数が8,000名超と申し上げましたが、EAPを初めて数年なのでまだ少ないのですが、累計の相談件数が200件超で、累計の受任件数が50件超です。これは去年の数字なので、今年を入れたらもう少し増えています。
相談分野としては夫婦関係が一番多くて、続いて借金、相続・高齢者、交通事故の順です。労働相談は、会社相手の相談は利益相反の関係で受けないのですが、ご家族の相談の形で受けることがあります。
ここでよくEAPで誤解があるのが、「EAPを導入すると、自分がやりたくない業務の相談も受けないといけないから、EAPをやりたくない」という弁護士がいます。
ですが、EAPでどの分野を扱うかは我々弁護士サイドが決められますので、「うちはEAPで夫婦関係はやらないんだけど交通事故と相続だけやります」とか、提供サービスを限定したEAPを会社に提案することも当然自由です。「自分がこれだったらやってもいいかな、相談を受けられるな」という業務にしぼってEAPに取り組むことができます。
顧問先のEAP導入事例
実際の顧問先企業でのEAP導入事例です。
A社は採用サイトの中にEAPを記載しています。それにより、従業員を大事にする企業姿勢を理解してもらえます。「こんなプライベートな悩みまでサポートしてくれるんですね、それだけ従業員を大事にしてくれているんですね」という企業姿勢を一発で理解してもらえるとおっしゃっていただけています。
A社は100名以上の会社ですが、全従業員の1割以上がEAPを利用しています。基本的には会社に守秘義務がありますので、社長は従業員から弁護士へどういう相談があるのかを普通は把握していないのですが、従業員が社長に報告する事例があるようで、社長としてはその人の働く姿勢、会社に対する忠誠心自体も上がっていると感じているそうです。
本人だけではなく家族の相談も受けますから、家族が喜んでくれるという話も聞いています。
私からのEAPの概要は以上です。ご興味おもちいただけましたら協会サイトからぜひお問い合わせください。